【短話】席替え【昼会】
最前列左端、あの場所を今度こそ。
高校2年生3回目の席替え。これを逃すと次は秋まで席替えはない。あそこの席から見る空はきっと綺麗だと思う、朝や放課後に見る空ではなくて退屈な授業中の空を見たい。初めてこの教室に入った時からそう思った。
飯田要16歳来月の誕生日で17歳になる。特にやりたい事も無く周りが進学するのが当たり前な風潮なのでなんと無く進学しただけだ。ただ、中学の同級生が殆ど居ないこの学校へ進学したのは、ちょっとだけ変わった学科のある高校を選ぶと自然とそうなった。このちょっとだけ変わった学科の同級生達は頭のネジが緩んでいる生徒が集まる、いや生まれもってネジが無いと言っても良い連中も居る。その中に1/3位の割合で何かの勘違いで自分の頭のネジが緩んでるか無いと思い込んでる連中が混じって来る、殆どは入学後に目が覚めた様だが、生勘違いしたまま生きて行きそうな奴も少数だけ居る。
このちょっと変わった学科は特性上女子生徒が多くなる。男女比率が概ね男子1に対して女子が3とイビツだ。これだけ女子が多いと男子は全般的に小さくひっそりとなる。一部の男子は宜しくやっている様だが、要のように後ろ向きなタイプは存在を消すか女子の使いっぱしりのどちらかしか生きる術は無い。他人に興味も無い要はぼっちを選んだ、それが楽だし好きなことにしっかり取り組めるからだ。他者から見れば灰色の高校生活なんて言われるのだろうが、好きでモノトーンの生活にのめり込んだ。
2年に進学して初日、特に何の無気なしに入った新しい教室から見える景色が最高だった。特に教室の前方にうっすら影をさす木陰と空のコントラスト。好きなことだけやっているモノトーンの生活に空色の差し色が入った瞬間だ。
ギリシャ数字のⅠを縦に南北へ伸ばしたような構造をした4階建ての校舎の3階南奥の突き当たりの2番目、そこが要の新しい教室。学校自体が小さな台地の上に在るので3階の窓から見える景色は随分遠くまで見える。近くの住宅地の屋根、少し離れた鉄道駅と商店街、その向こうに小さく見える海。風が抜ける窓際はに木漏れ日がチラチラと光の模様を作る机、ヒラヒラと揺れるカーテン。
人生であの場所が良い何て思ったのは初めてだ。むしろ今までは最後列右端が最適だった。教室から誰にも気付かれず抜け出せる最高の場所だ、冬は寒いけど誰にも干渉しないされないが基本のぼっちには大切な要素だ。
まぁ、そんなことはどうでも良い。今は全力で最前列左側を奪い取る方法を考えなくては為らない、席替えは戦争だ。今回の席替え方法はくじ引で、51人いるこのクラスで1から51の数字が書かれたくじを引き若い番号順に席を選んで行く方式だ。席の並びは横8列で縦は基本は6列で7列目の3席は最後列なら空いている好きな場所に行くことが出来る。最終的に決まった後の席トレードは各自の交渉次第で可能ではある。まぁ、女子のグループ事の都合で追い出される事が常ではあるが・・・
くじ運の悪い要にとって一発で決めるのは難しい、またぼっちスキルに磨きをかける要に交渉と言うのも難関だ。しかし、今回は季節が若干の味方をしてくれる。
これから夏を迎えるこの時期に日差しの強い窓際は日焼けを気にする女子には不人気だ、エアコンの風も当たり辛い場所なので暑がりも避けるはず。つまり要の予想では全般的に中央から右側が選ばれるハズそうすれば比較的若い番号でもチャンスは在るはず・・・
要のくじを引く順番が訪れた。強い意志を持ってくじを引けば行ける。出来れば一桁、最低でも20番以内なら!そう言い聞かせ静かに席を立ち教壇に置いてあるくじの入った箱に近づくと若干震える手に力を込めて一枚のくじを引ったくりそそくさと自分の席に戻った。
席に戻りそっと開いてみたくじに書かれた番号は42だった。
たのしいは正義!この言葉を胸に楽しめるコンテンツで在りたいとおもいます。(*´ー`*)