【短話】40歳釣りを初める前夜【夜会】
2017年冬。昔父が良く釣って帰って来たメバルを食べたくなり、魚屋で買って帰る。根魚なので少々高かったがソコソコの大きさで一寸だけ嬉しくなった。
九州から関東へ出張出て来て数ヶ月。単身1Kのアパートはガスコンロなんか無く電熱線の電気ヒーターが1つ。フライパンにクッキングシートを置いて塩焼きにする。味噌汁を暖め直し、作り置きのきんぴらごぼうと冷えたビールを食卓に並べる。焼き上がったメバルを肴にビールを飲むとコレが旨い。
500mlのビールを2缶空け、このまま気持ち良くゴロリと寝っ転がりたい衝動を抑え洗い物を済ませる。丁度洗濯機が洗い終わりを告げたので手早く干す。一人暮らしは気儘だがやはり家が恋しくなる。長期出張で全国を転々とする生活も20年近くなると色々と手慣れても来るし、独りの気儘さもある。それでも家族に会えない寂しさは何時も感じる。しかし何だろう?家が恋しい気持ちとは別の物足りなさ。今日に限っては何時も感じる寂しさと違う物足りなさ。
ビールは旨いしきんぴらごぼうは其なりに良くできてた。仕事はまぁまぁ順調だし気にするようなことは何もない。今日は一寸贅沢してメバルの塩焼き・・・
ああ、そうかあのメバルは確かに旨かったが父の釣ったメバルとはなにか違った。
無性にあのメバルが懐かしくなる。やっぱり釣れたての魚は別の旨さがあるのだな。今度九州の父に電話でもするか等と思いながらタバコに火を着けた。
それから数日、肌寒いが天気の良いある日、仕事をこなしながら職場の眺望の良い場所に登った。今回の出張先は東京湾沿いの海がよく見える場所に在る。キラキラと光る海面と九州より幾分か青みの薄い関東の空の対比が心地よく暇を見つけてはソコでサボっている。いつも通りゆっくりと見渡すと対岸の護岸に釣り人居るのが見えた。そう言えばいつも誰かあそこで釣りを楽しんでる。
あの護岸は少し遠回りだが帰りに寄り道しても悪くない。その日は珍しく定時で上がったので早速護岸へ向かう。今回の職場とアパートの距離が近いので徒歩で出勤をしている、片道概ね30分程度の適度な距離。帰りは通勤路上に在るスーパーで買い物をするのだが、今日は護岸へ寄り道するので何も買わない。まぁ、今日ぐらいコンビニ弁当でも良いか。等と考えている内に護岸の傍に着いた。護岸沿いの道路にはズラリと車が並び、転々と釣り人が竿を出すか準備をしている。
ゆっくりと眺めながら護岸の奥に向かうと爺様らしき釣り人の竿がしなっていた。丁度何かが釣れたらしい。邪魔をしないように気を付けて少し離れた場所から眺めていると、15cm位のいや20cmはあるかな?少しずんぐりとした魚を釣り上げてた。
あれはもしかして?何気ない散歩のフリをしながら爺様に近づくと、爺様は釣り上げた魚をクーラーBOXに入れて針に新しい餌を付けようとしていた。
釣れてますか?と問いかけると爺様はメバルが一匹つれた。とぶっきらぼうに答えた。
メバル!それは良いですね。と爺様は面倒くさそうにまぁまぁだと答えた。
爺様の無言のもう、喋りかけんなと言うプレッシャーを感じて最後に有難うございますと一言だけ掛け、爺様から離れ家路についた。
此処からアパートまで徒歩で20分少々、晩飯を買おうと寄った最寄りのコンビニで在る一冊の釣り雑誌が目に止まった。
そうだ、こんなにも近くに海がありメバルが居るじゃないか!あの父の釣ったメバルのように美味しく食べれるかも知れない
こうして40過ぎのオッサンが釣りバカへの道を踏み出したのだ。
たのしいは正義!この言葉を胸に楽しめるコンテンツで在りたいとおもいます。(*´ー`*)