目から鱗が落ちた話。
私だけではないと思うが、人と会話をする時「自分がこう言えば相手はこう返すだろうな」と、ある程度相手の反応を予想しながら話す。
逆もまた然りで相手がこう言って欲しいのだろうなと感じることもある。
(その通りの返答をするかどうかは時と場合によるけど)
予想の根拠は様々だ。
相手との関係性や性格、その場の状況。
それに加えて自分の価値観や経験則によるところも大きい。
これらを踏まえても彼との会話は私の予想を外した返答が来るので驚くことが度々ある。
最近(と言っても数ヶ月前だが)、息子がちょっとした情緒不安定になった時期があった。
学校では特に変わりはないようなのに、家では何をするのも私にベッタリ。
トイレに行っただけで「どこー!?こっちきてー!」
寝る時もくっついてきて、私が寝返りをうって少しでも離れるとベソをかく。
何か不安になる理由でもあるのかと思ったが、それとなく聞いてみても特にこれといった出来事やきっかけがあるわけでもないらしい。
理由がわからないけどとにかく私と離れたくないようだ。
赤ちゃんでもない小学生男子なのでこういう時は多少厳しく突き放した方が良いのかもしれない。
しかし、私は付き合えるものは本人が納得するまで付き合う方針で子育てをしている。
と言うわけで別に突き放すでもなくとことんベッタリしていたのだが、自由を奪われるのはストレスが溜まる。
日が経つにつれ流石に疲弊していった。
…という話をふと彼に漏らした。
彼は「初めて弱音を吐いたね」と言った。
それを聞いた瞬間、話したことを後悔した。
私は普段、子育てに関して愚痴や不満を言わない。
それを彼は「仕事もしながらハンデを抱えた子どもをひとりで育てて頑張ってる」と捉えているようだけど、息子とのふたり暮らしは結婚してた頃より気楽で快適だし、ひとり親や障がい者の使える制度はガンガン使ってるし、学校や保育園にも助けられてるのでそもそもひとりで育ててるわけではない。
…少々脱線しました、失礼。
まぁ、そういった理由で愚痴ることが特に
ないのもあるけど、私の根底に
「ネガティブな話をしても楽しくない」
という思いがあるのも事実である。
なので、うっかりこぼしてしまったことを後悔した。
言わなければ良かったと言うと何で?と尋ねるので
「だって楽しくない話をしても楽しくないでしょう。弱音吐いてガッカリしただろうし」
と答えたら、彼は
「あのねー、楽しい話をするのだけが楽しいじゃないでしょ。色んな話をするから楽しいんでしょ。んで、弱音があるなら無理しないで吐いて欲しい。ガッカリするわけないでしょ。俺、待ってたんだよ。紺さん隠しそうなんだもの」
と。
驚いた。
私は、楽しい話は楽しい、楽しくない話は楽しくないとしか思ってなかった。
だからネガティブな話はしたくなかった。
喜怒哀楽全部ひっくるめて話を楽しむという発想は私の中になかったものだ。
目から鱗。
ひっくり返された思い込み。
いやらしい話だが、私も「言わなければ良かった」と言いつつ彼が「そうだね。言わない方が良かったね」などと言わないのはわかってた。
「弱音くらい吐いてもいいよ」くらいの返答は予想してた。
でもまさか、こんな自分にない発想の答えが返ってくるとは思わなかった。
あと、隠そうとする性格も見抜かれてた。
その後、しばらく彼は毎日の電話のたびに
「○○(息子)はどう?」
と自分から話をふってくれ、私も自然にあれこれ話すことが出来た。
普段殆どすることがない、お互いの子育て論なども少し話した。
会った時にはくっついて深々と匂いを嗅ぐというほぼ変態行為で癒しを求めた。
私は彼の匂いを嗅ぐと安心する体質。
そうこうするうちに息子の情緒は落ち着き、いつもの陽気さを取り戻した。
本当に一時的なものだったようだ。
思春期にはまだ少し早いけど、お年頃だったのかしらね。
後日、彼に「この言葉に驚いた。目から鱗が落ちた。私にない発想ですごいと思った」と話すと
「え?何で?俺そんなすごいこと言ってないのに」
と逆に驚いていた。
彼はそういう人なのだ。