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位置精度改善にユーザーの走行ログが役立っている話

こんにちは、航法マスター です。
ナビゲーション向けの測位技術の研究開発を18年やっております。
車載向けのカーナビ、PND、スマートフォンのナビゲーションアプリ、と時代とともにナビゲーションのプラットフォームが変化してきています。それとともに、より利用者側への金銭的な敷居は下がった一方で、開発者側の難易度は反比例して上がっています。据え置きのカーナビは設置も固定、車速パルスが入力してある、GNSS(GPSやみちびきなどの衛星による測位システムの総称です)の精度も全て同じと恵まれた環境でした。スマートフォンは設置方法もバラバラ、測位精度もまちまちです。そのため、位置精度を担保するにも古いやり方では通用しなくなっており、ユーザーの走行ログを活用した新しい方法について紹介します。

ナビゲーションにおける位置精度

スマートフォンではGNSSによって測位できますが、測位情報だけではナビゲーションは実現できません。測位情報からどの道路にいるのかを特定する必要があります。これをマップマッチングと言います。

ナビゲーションアプリを利用したことがある方はこんな経験があるのではないでしょうか?走行中に勝手にルートが変わったり、高速道路を走行中に一般道を案内されたり、現在地と全然違う位置を表示していたり。これはマップマッチングが道を間違える(ミスマッチング)と起こる現象です。ナビタイムジャパンでは、こういった現象をできるだけなくしていく取り組みを行っています。

全国の多様なログで位置精度改善したい

従来のやり方は、フィールドテストの走行ログを地図上にプロットしてミスマッチングを一つひとつ拾い上げて改善するスタイルでした。この方法の問題として、ログの偏りがあります。過去数年分のフィールドテストのログから精度改善していますが、それでも得られるデータは限られており、全国の道路形状を網羅できないといった偏りがありました。運輸業者によく見られる細街路をガンガン右左折したりする走り方など、すべての利用されるシーンにおいて安定した位置精度を提供したいと考えています。

例えば「毎日アプリが同じところで落ちる」というご意見から発覚した
なんばHatch。高速道路から進入できるパーキングエリアになっており、パーキングエリア内ではほとんど見ることのないトンネル構造になっています。更にこのトンネルにおいても同じところをぐるぐる回るような構造になっており、かなり珍しい場所です。アプリが落ちていた原因はコード上でも文字通り無限ループにハマっていました。

こういった事象の収集をご意見だけに頼るのではなく、能動的に改善するためにユーザーから走行ログを収集しています。

提供いただいている測位情報

ユーザーの手元で起きた現象が開発者の手元でも再現できるようにするために、許可いただけたユーザーに限り、下記の情報を提供いただいています。

● 位置情報
● センサ情報
● マップマッチングした道路情報
● リルート情報
● マップマッチングに関連するユーザー操作(高速一般切り替えなど)

Android版カーナビタイムでは「設定」→「データ管理」→「測位情報の提供」にチェックすると有効になります。

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マップマッチングの答え合わせをする

2022年2月現在で1日数万人のユーザーのログが集まってきています。1件ずつ見ていける量ではないので、下記の手順でミスマッチングしているログをピックアップして、その中でよりユーザー不満の高い事象であったり、多くのユーザーで発生している事象を優先的に見れるように自動化し、毎日実行しています。

1. 正解データを作る
2. 答え合わせをする
3. 不正解の分類と優先度付け

マップマッチングの正解をマップマッチングで作る?

「正解がわかるならミスマッチングを防げるのではないか」と思われるかもしれません。ナビゲーションにおけるマップマッチングはリアルタイム処理しているのに対し、正解データの作成に使われるマップマッチングは走行終了後に抽出し、マップマッチングします。

ログの全貌が見えていればリアルタイムでは間違えてしまうところを正しくマッチングできるため、これを正解データとし、リアルタイムのマップマッチング結果と比較し、違う結果になっている箇所を抽出します。

以降紹介する事例は個人情報保護上、ユーザーのログではなく、フィールドテストのログの画像になります。

下の例はリアルタイムで見ると斜め右方向に進んだように見えますが、ログの全貌を見ると、直進していることがわかります。こういった箇所を不正解として抽出していきます。

ユーザー不満の大きい事象を改善する

先に述べましたが、優先されるべきはユーザー不満の大きい事象、多くのユーザーに起きている事象になります。ユーザー不満が大きいものはご意見として寄せられている位置ズレ高速/一般のミスマッチになります。不正解だった箇所のうち、これらの該当する事象を優先的に見て対応しています。

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改善結果

位置ズレの要因はいくつかありますが、その中でも、測位できているのに位置が動かないといった改善見込みがある事象をピックアップして改善した事例を紹介します。高架下の測位しにくい場所でUターンしていますが、改善前はUターン後も位置が追従していませんが、改善後は追従できるようになりました。

おわりに

ユーザーから提供いただいているログがどう活用され、フィードバックされるかまでの流れを紹介させていただきました。ユーザーからすると、提供だけしてどうなるかわからなかった部分かと思うので、紹介する機会が得られてよかったです。

このシステムの肝はユーザーからのログなので、測位ログがどう使われているかを理解した上でログを提供いただき、位置精度改善という形でフィードバックしていきたいと思います。