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バイクの最新ナビゲーション事情

こんにちは、ブリッジです。
ナビタイムジャパンでバイク向けナビゲーションサービス『ツーリングサポーター』の開発・運営を担当しております。

近年、密を避ける移動手段としてバイクへの注目度が高まっています。一人で楽しむことができる趣味としてツーリングを始める人や、公共交通機関ではなくバイクを使って通勤する人も増えており、教習所へ申込みが殺到したり、新車の販売が好調というニュースを目にするようになりました。

出典:全国軽自動車協会連合会のデータを元に作成

今回は、そのようなライダーのツーリングを支えるナビゲーションの最新事情についてお話できればと思います。少しでも興味を持っていただけたら幸いです。

『ツーリングサポーター』とは

2014年より提供しているバイク向けのナビゲーションサービスです。
通常のカーナビと同じように目的地を検索し、ルートを探索、目的地へめがけて音声ナビゲーションを行うことができます。
バイク専用ということで一番の特長は、バイクの排気量別にルートをひくことができます。日本にはバイクの排気量に応じて通行できる道、通行できない道が存在しており、通行できない道路に誤って侵入してしまうと、残念ながら道路交通法違反となってしまいます。ツーリングサポーターを使うことでこのような不安を予め解消することができます。
他にもツーリングを計画するための充実した情報や、ツーリングをした後の振り返り機能など通常のカーナビとは一味違った機能を搭載しておりますので、気になる方は一度お試しいただければ幸いです。

スマホを使ったナビゲーションのメリット

『ツーリングサポーター』はスマホ向けのアプリケーションです。
2014年のサービス提供開始以来、8年以上スマホ向けにナビゲーションサービスを提供し続けていますが、そもそもスマホ向けサービスだとユーザーにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

  • 初期投資が実質無料

  • 普段使い慣れた操作性

  • 常に最新の地図や情報が使える

ざっとあげてみました。
普段使っているスマホにアプリをインストールすることで、すぐにナビゲーションとして使うことができるため、とても便利ですね。
また、普段使い慣れたスマホなので、新しい操作を覚えるための労力は最小限に抑えられますし、通信環境も整ったデバイスのため、地図やスポット情報などを常に最新の状態でナビゲーションを利用することができるのも大きなメリットです。

バイク+スマホナビの弱点

そのようなメリットを多く持つスマホナビですが、アプリ内で実施したアンケートによりますと実に8割以上の方がバイクのハンドル付近にスマホを取り付けて利用していることがわかりました。

2020年に『ツーリングサポーター』内で実施したアンケートより
「走行中、スマホ端末をどのように設置していますか?」の回答

スマホをカーナビのように使うので、当然といえば当然の結果ですよね。
しかし、バイクに取り付けて使用するときには気をつけておくべきポイントがいくつかあります。

  • 落下リスク

  • 防水防塵の能力

真っ先に思い浮かぶのはこれら2つかなと思います。
バイクは車と違って屋根がないため、取り付けていたスマホが走行中の振動等で外れてしまった際、車体の外に放り出されてしまいます。落下した場所が一般道だった場合には、引き返して拾うこともできるかもしれませんが、高速道路だとそういうわけにもいきません。
また、防水防塵性能の劣るスマホを利用する場合、突然の雨や塵や埃を防ぐことができず、スマホが故障する原因に繋がってしまう恐れがあります。

  • 振動によるカメラセンサ劣化

そしてもう一つがバイクの振動によるスマホの故障です。
Appleが2021年に発表した情報によりますと、iPhoneのカメラシステム性能に影響がある恐れがあるとのことです。
こちらの対策に関しては同じページの中に記載がある通り、「防振マウント」を使うことである程度リスクを軽減できます。

特定の周波数範囲で振幅が大きい振動 (とりわけ、オートバイの高出力エンジンの振動) を iPhone が受け続けると、カメラシステムの性能が低下するおそれがあります。
(中略)
iPhone 本体や OIS/AF システムの損傷のリスクを軽減するため、防振マウントの使用をおすすめします。

出典:Apple(https://support.apple.com/ja-jp/HT212803)

弱点を回避するには…

では、バイク+スマホナビソリューションによる弱点はどのようにすれば解消できるのでしょう。

スマホを使う場合…

①防振機能付きスマホホルダーを使う
上の章でも取り上げましたが、防振機能付きのスマホホルダーを使うという方法です。現実的にはこちらの解決策が良さそうです。検索すると様々なホルダーが出てきますので、カッコよさも含めてぜひ吟味してみてください。

②スマホをかばんやポケットにしまって音声のみナビゲーション
スマホをバイクの車体には直接取り付けず、インカム等を使用してナビ音声を聞く、という使い方ですね。土地勘がある場所や高速道路などの単純なルートであれば問題ないですが、不慣れな場所での案内では多少心許なさが残ります。

スマホを使わない場合…

①紙地図
昔から重宝されている安定の紙地図です。自由に書き込める、通信環境も関係なし、使えば使うほど思い入れも深まっていく、という特長があります。
一方で雨に弱く、地図の端まで走ったらページをめくる必要がある、情報が自動的にアップデートされていかないというデメリットがあります。

②バイク専用カーナビ
バイク専用デバイスによるカーナビです。後付けで購入できるものが多く、防水性能も備えているモデルが多くあります。通信機能を搭載したモデルであれば、地図の更新も行うことができます。スマホナビとの違いとして、新しいデバイスを購入するため、初期投資で数万円かかってしまう点や、新しい機能やUIのアップデートがされていかないというデメリットがあります。

③勘
ツーリング前にルートを頭に叩き込んでいざ出発。迷ったら迷ったで計画は諦め、好奇心の赴くままにバイクを走らせる。これもツーリングの醍醐味かもしれませんね。もちろん「このような走り方で満足!」の方に対しては何も言うことはありませんが、ナビゲーションを提供する会社の人間としては、たまにはナビも良いですよ、と一言伝えておきたいものです。

新たな選択肢、車載ディスプレイ

いくつかナビゲーションの手段をとりあげましたが、近年バイク業界に新たな選択肢が増えてきました。
それはバイクにディスプレイを取り付けて、スマホと連携することでナビゲーションしたり音楽を聞いたりメッセージのやり取り等ができる、車載ディスプレイ連携システムです。

スマホと車載ディスプレイの連携イメージ

自動車業界では数年前から普及し始めていましたが、少し遅れる形でバイク業界にもその波がやってきました。
バイクのハンドル付近に大きなディスプレイが設置され、そのディスプレイとスマホを接続して、画面に最適化されたUIを表示することができます。もちろんスマホと接続されているため、地図や情報は最新のものを使うことができる一方で、スマホを車体に設置しなくて良いため、スマホの落下リスク、故障リスク等を回避することができます。
また、バイクの車両センサとも接続されているため、ライトの点灯に連動して地図の色味が変わったり、走行中の操作を制限する機能により、ライダーが安全にツーリングできる環境が提供できるようになりました。

そのような車載システムですが、主に「Apple CarPlay」「Android AutoBoschの「mySPIN」の3タイプがあげられます。
そして『ツーリングサポーター』は2022年中にこれら3タイプすべてに対応いたしました!

車載ディスプレイ対応の工夫ポイント

車載ディスプレイは四輪の自動車向けでも提供されているソリューションです。その仕様をそっくりそのままバイクに持ってきても成り立ちはするのですが、ライダーにとって最適か、と考えたときに疑問が残りました。
そこで今回はバイク向けナビゲーションとして工夫したポイントを2つだけ紹介させてください。

走行中に注意喚起画面を表示

Boschの「mySPIN」向け『ツーリングサポーター』で搭載した機能です。
バイクの運転中にスマホを操作することはもちろん禁止されています。それは車載ディスプレイになったとしても同じこと。走行中にちょっと画面を操作したくなる気持ちはわからなくもないですが、非常に危険な行為となります。
「mySPIN」向け『ツーリングサポーター』にはそんな行為を諦めざるをえなくなる機能が搭載されています。バイクの走行状態を検知し、走行中にシステムを操作しようとすると「走行中注意喚起画面」が表示されます。この画面は数秒すると消えますが、バイクを停止しない限りシステムを操作するたびに表示されます。

走行中の注意喚起画面(mySPIN向け『ツーリングサポーター』より)

案内ポイントまでの距離に応じて背景色を変化

スマホ版の『ツーリングサポーター』でも搭載していますが、「Apple CarPlay」、「Android Auto」、Boschの「mySPIN」すべての車載ディスプレイ向けでもこの機能が搭載されています。
バイクを運転中、ディスプレイを注視する行為はとても危険です。しかし、ナビゲーションの情報はしっかり把握して道は間違えたくない。そんな状況を考えた機能です。
次の案内ポイントまでの距離に応じて、距離や矢印が表示されているエリアの背景色の色を青→黄→赤と変化させています。
ぱっと画面を見たときに、案内ポイントまでの距離を直感的に把握してもらえるようになっているので、少しでも画面を見る時間を減らしていただいて、安全なツーリングに役立てていただけたら幸いです。

通常時(Android Auto向け『ツーリングサポーター』より)
交差点までそろそろ(Android Auto向け『ツーリングサポーター』より)
交差点までもうすぐ(Android Auto向け『ツーリングサポーター』より)

車載ディスプレイ対応の注意ポイント

アプリが車載ディスプレイに対応するには、ユーザーの安全を守るために各社が設けたガイドラインをクリアしない限りアプリを世の中に公開することができなかったりします。
私が開発に携わったAndroid Autoで、実際にガイドライン違反にぶつかってしまったのでそちらの内容と対策を紹介します。(このセクションではAndroid Autoの事例を書きます。「Apple CarPlay」、Boschの「mySPIN」では当てはまらない点も含まれますので、予めご了承ください)

Android Autoは車やバイクに取り付けられるため、運転中にもドライバーがディスプレイを視認することを前提としています。そのため、ユーザーのスマホに入っているアプリが何でもかんでも車載ディスプレイに映ってしまうことをGoogleは許していません。Android Autoでは"メディア"、"メッセージ"、"ナビゲーション"等、車の中で使用されるのにふさわしいカテゴリのアプリのみをサポートしています。
さらに、これらのカテゴリのアプリがAndroid Autoに対応するためには、下記のようなガイドラインに準拠している必要があります。

日本語や英語が入り交じる中、これらのガイドラインを一通り理解した上で、仕様検討、開発、検証を経て、GooglePlayコンソールにアプリを提出したところ、案の定リジェクトされてしまいました。(GooglePlayでリジェクトされることは稀なので、ちょっとびっくりしました)

リジェクト通知の一部

今回の指摘ポイントは2点でした。

ナビゲーションアプリの競合を防ぐ対応

最初の指摘は、他のアプリがナビゲーションを開始した際、自アプリのナビゲーションを停止してくださいね、という指摘です。確かに言われてみれば、Android Auto上で複数のナビゲーション案内がされた場合、ユーザーは混乱し、注意散漫になってしまいますね。ガイドラインを読み直してもしっかり記載されていました。プログラム的には他のアプリがナビゲーションを開始するとOSからその旨が通知される(onStopNavigation())ので、そのときに自アプリのナビゲーション処理を停止すれば問題解決です。

carContext.getCarService(NavigationManager::class.java).setNavigationManagerCallback(
        object : NavigationManagerCallback {
            override fun onStopNavigation() {
                // 自分のアプリのナビ停止処理を呼ぶ
            }
        })

また、逆も然りで、他のアプリがナビゲーション動作中に自アプリがナビゲーションを開始したときに、OSがそれを検知する必要があります。こちらも対応内容はドキュメントに記載されていましたので、それに沿って実装してあげれば解決でした。

車のメインディスプレイ以外にもナビを通知する対応

2つ目の指摘は、車のヘッドユニットへもナビゲーション情報を通知しなさい、という指摘です。車種や車載器によってはメインディスプレイ以外にもヘッドアップディスプレイやクラスタと呼ばれる領域にナビゲーション情報が表示されるため、Android Autoへナビゲーションアプリを提供するためには、これらのディスプレイにもナビゲーション情報を通知できるようにしておきましょうね、ということのようです。
ナビゲーション情報の通知の仕方は例によってドキュメントに記載がありましたのでそちらにしたがって解決です。
次に動作確認です。Android Autoでは下記キャプチャのように、Desktop Head Unitと呼ばれるエミュレータを使用して開発を行うのですが、オプションを追加してエミュレータを起動することで簡易型クラスタ表示をテストすることができます。(左の黒画面内左上に方向と交差点名称、交差点までの距離が小さく表示されています)

エミュレータによる簡易型クラスタ表示
[general]
instrumentcluster = true

// …上記を記載した[cluster.ini]というファイルを作成し、

dhu -c cluster.ini

// というオプションを追加してDesktop Head Unitを起動すれば上記キャプチャのように表示されます。

ここまでご紹介した対応を含めて再度GooglePlayコンソールへアプリを提出したところ、無事アプリを公開することができました。

おわりに

ここまで、ツーリングのナビゲーションを取り巻く事情と、そこに対する『ツーリングサポーター』の取り組みを紹介してきました。
最後に1つだけ紹介させてください。『ツーリングサポーター』のバイクに特化したナビゲーションへのこれまでの取り組みが認められる形となり、2022年度のグッドデザイン賞を受賞することができました!

これからもライダーの方たちの課題に真正面から向き合ってサービスを成長させていきたいと思います。

昨年対応した車載ディスプレイ連携機能ですが、ユーザー様よりいただいた反応を少し紹介させてください。

CarPlay対応待ってました!
バイク特化で大変便利です。使いやすい。 ただ、どうしてもCarPlayに対応して欲しいとずっとまってました。

AppStoreのレビューより

Android autoに対応は地味に有り難いかな?

GooglePlayのレビューより

このような好意的な反応をいただける一方で、今後の機能拡充、品質向上を望む声も多数いただいております。開発・運営を担当しているものとしては世の中に提供したものに対してフィードバックをいただける状況はとてもありがたく、一つ一つのご意見全てに目を通して、今後も引き続き丁寧に向き合ってまいります。
また、それと同時にバイク市場に目を向けると、まだまだ車載ディスプレイを搭載した車種は限られているのが実情です。車載ディスプレイ連携はスマホナビの弱点を補完して、ライダーにとっての最適なナビゲーションができる一つの解決策であることに間違いはないため、対応バイクやデバイスが増えてくることをとても楽しみにしております。

最後までお読みいただきありがとうございました。
これからもバイク市場の環境の変化に一つ一つ対応して、ライダーにとって最適なナビゲーションを追求していければと思います。

以上です!