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リアルタイム遅延考慮検索にバス遅延予測を導入しました

こんにちは。英語先生です。ナビタイムジャパンの研究開発チームで、経路探索エンジンの新規機能開発や、既存機能の改善に取り組んでいます。
本日は、当社が提供しているリアルタイム遅延考慮検索バス遅延予測機能を導入しましたので、その経緯についてお話したいと思います。

リアルタイム遅延考慮検索とはなにか

ナビタイムジャパンでは公共交通の遅延を課題と捉え、電車やバスのリアルタイム遅延考慮検索を提供しています。

リアルタイム遅延考慮検索は、遅延した時刻表を考慮して経路を探索する機能です。遅延している列車・バスに乗っても一番早く到着できるのであれば、その列車・バスに乗る経路を、そうでないのであれば迂回した経路を提示する機能となっています。

リアルタイム遅延を考慮した経路を検索することで
1本後の列車に乗る経路が出るようになっている

なぜバス遅延の予測が必要なのか

ここまでくると、「既に出来てるから遅延予測する必要ないんじゃないの?」と突っ込みたくなるかもしれませんが、これには理由があります。
バス事業者によって、全ての停留所での遅延時間が配信されていない場合があるためです。

当社はリアルタイムな遅延を考慮した経路検索を実現するために、バス事業者が提供しているGTFSリアルタイムのバスロケーション情報を活用しています。
GTFSリアルタイムは公共交通のリアルタイムな情報を格納するためのフォーマットで、TripUpdate(ルートの最新情報)やVehiclePosition(車両位置情報)などの構造体が定義されています。
ただ、GTFSリアルタイムはあくまでフォーマットであるため、全てのバス事業者で同じ情報が配信されている訳ではありません。
TripUpdateとVehiclePositionの両方を配信している事業者もあれば、VehiclePositionのみ配信している事業者など、バス事業者によって様々です。
遅延情報はTripUpdateにしか格納されていません。VehiclePositionのみ配信している場合に遅延情報を提供するためには、遅延時間を予測する必要があります。

提供されている情報の違い
VeheclePositionのみだと、現在位置での遅延しかわからないため、
終点までの遅延を予測する必要がある

バス遅延の難しさ

加えて、バスの遅延は電車と比べると、遅延が大きく変動しやすい性質があります。

ある路線での遅延のイメージ

バスの遅延は走行時間が長くなるほど遅延時間が大きくなる傾向がありますが、上記グラフのように、渋滞や人の乗降の影響を受けて突発的に遅延が大きくなる場合があります。
一方で、バスの時刻表は遅延することを前提に作られていることもあり、駅などの利用頻度の大きい場所では出発時間に余裕を持たせている場合があります。この場合は遅延がほぼ無くなり定刻での運行になります。

こういった複雑な遅延の変動を予測するためにバス事業者が公開している、バスロケーション情報から配信される遅延情報を過去数ヶ月分学習させ、遅延予測用AIモデルを自社開発しています。
開発にあたって路線ひとつひとつの傾向を分析し、バス遅延の特徴にあわせたモデルを選定し、時系列的な遅延の変化度合いを考慮して予測しています。
これにより、乗車人数が多いなど遅延の変動が大きい路線に対し、AIを使わない場合と比較して50%高い精度で予測可能になりました。

予測精度の分布

遅延情報の鮮度を保つために

遅延情報を経路探索に反映する都合上、予測値が実際の遅延時間と異なっていて「電車の乗り換えに失敗する」や「待ち合わせ時間に遅れてしまう」可能性を減らすために、遅延情報の鮮度を非常に重要視しています。
そこで情報の鮮度を保つために、毎分間隔で遅延を予測し直し、当社の経路探索エンジンから参照可能にしています。

しかし、全てのバスを対象に遅延を予測しようとすると、データの前処理や推論時間などAIの実行時間がボトルネックとなり、遅延情報の鮮度を保つことが困難な状況にありました。
そこでどうにかしてAIの実行時間を短縮できないか検討したところ、①「遅延の変動が大きい路線」がある一方で、②「ほとんど遅延の変動がない路線」があることが判明しました。
そこで①「遅延の変動の大きい路線」に対してはAIで予測し、②「遅延の変動が少ない路線」に対しては単純な手法で予測するという、手法の組み合わせによって、精度を落とすこと無く、情報の鮮度を保つことが可能になりました。

最後に

今回は、リアルタイム遅延考慮検索にAIによる遅延予測を導入した経緯と取り組みについて説明させていただきました。
遅延予測の導入により、より安心して移動できる社会の実現に向けて一歩前進出来た一方で、まだまだこれから改善を積み重ねないといけない部分もあります。
引き続き、我々は今後も研鑽を続け、より良く移動のサポートが出来るように努めて参ります。

最後までお読みいただきありがとうございました。