
ナビタイムジャパンの「空気を読む」地点検索(2:「空気を読む」検索とは)
自己紹介
こんにちは、サファイアです。
ナビタイムジャパンで全文検索エンジンの研究開発を担当しています。
前回は「地点検索システム」とはどのようなものかについて、「ウェブ検索システム」と比較しながら説明しました。そこでは、「地点検索システム」においては「その地点に行けること」を期待しているユーザーに対して、「実在することが確からしいと判断された地点に関する情報」を提供するのが重要なのだというお話をしました(下記は前回の記事)。

今回のお話と対象読者
さて、前回に引き続き「地点検索システム」についてお話ししていくわけですが、今回は「空気を読む」検索についてご説明したいと思います。
「空気を読む」システムを提供することは、どのようなサービスを提供する際でも重要なことです。システムが「提供できる莫大な量の情報・手段・提案」を全て一気にユーザーに提示してしまうと、ユーザーはその量に圧倒されるばかりで、肝心の意思決定などができなくなってしまいます。
システムは「空気を読む」ことで、「提供できる莫大な量の情報・手段・提案」の中から「ユーザーが本当に必要としていると考えられる情報・手段・提案」を厳選し、分かりやすくかつ納得感の出るような形で提示することで、ユーザーの意思決定に効果的な貢献ができるわけです(下記はユーザーに着目したサービス作りの話の例)。
それでは、一体どうすれば「ユーザーが本当に必要としていると考えられる情報・手段・提案」を分かりやすくかつ納得感の出るような形で提示する「空気を読んだ地点検索システム」を作ることができるのでしょうか。今回は、この点に焦点を当てたお話をします。
空気を読んだサービス作りをしたいと思っていらっしゃる方には参考になるお話になるのではないかなと思っています。
地点検索システムの3つの使い方
「空気を読む」ためには目の前にいる相手のことをよく見なくてはなりません。そこでまずは、ユーザーがどのように「地点検索システム」を使っているのかを観察してみることにします。
そうすると、ユーザーがアプリの検索窓に入力するテキストは、その「曖昧さ」によって概ね下記の3通りに分類できることが分かります。
レベル 1:地点入力型
レベル 2:地点探索型
レベル 3:要求検索型
レベル1は、検索窓に「東京タワー」や「国会議事堂」などの「特定の地点をピンポイントで指し示す言葉」が入力されているタイプです。
レベル2は、「渋谷 居酒屋」や「コンビニ」などの「行きたい場所の特性を示す言葉」が入力されているタイプです。
レベル3は、「渋谷から表参道」や「帰りたい」などの「ユーザーのやりたいことが察せられる言葉」が入力されているタイプです。
この3つのレベル分けからは、それぞれ下記のような地点検索システムの使い方が浮かび上がってきます。
レベル1→「行きたい場所は明確に意識できている。それを支障なく地点検索システムに反映させたい」
レベル2→「行きたい場所の特徴は意識できている。その特徴を満たす地点についての情報を、地点検索システムで探索・収集したい」
レベル3→「やりたいことは意識できている。その要求を満たしうる地点についての情報を、地点検索システムで調べたい」
このレベル分けから見えてくるのは、地点検索システムという一つのシステムには代表的な3つの使い方があり、それぞれユーザーの置かれた状況、求めるものが異なるということです。
3通りのユーザー像、3通りの提供方法
さて、1つのシステムの周りに3通りのユーザー像が浮かび上がってきました。ですが、「1つのインターフェースでこの3通りのユーザー像に対して必要かつ十分な分の厳選された情報を提供する」というのは、(ひょっとしたら可能なのかもしれませんが)とても困難に思われます。
そこで、入力によってうまくインターフェースを切り替えるということが解決策として浮上してきます。以下、Android版の『NAVITIME』の画面を題材に説明いたします。

地点入力型の場合
まず、ユーザーからの入力について「地点入力型である」と想定して左側の画面を提示します。ここでは、「いち早く意図した地点を地点検索システムに反映させたい!」とユーザーが考えていると予想します。
ユーザーにそのような考えがあった場合、ざっくり、下記のような支障がありそうです。
テキスト入力が面倒くさい
タイプミスをしてしまった
こうした支障を未然に防ぐため、ナビタイムジャパンの地点検索システムではオートコンプリート機能を独自に発展させています。「とう」と入力するだけで一画面目に「東京タワー」や「東京駅」「東大寺」「東京ビッグサイト」などの人がよく行く地点が表示できるようになっており、少ないタイプ数でも多くのユーザーの地点入力をカバーできるようになっています。
もちろん、一画面目のオートコンプリートでも、ユーザーが意識した地点の名称を最後まで入力すればほとんどの地点がヒットするようになっているはずです。これで、ユーザーが地点入力型の使い方をしていた場合は、概ねご満足していただけるようになっています。
地点探索型の場合
それでは、ユーザーが地点探索型の場合はどうでしょうか。ここで、最初のオートコンプリートの画面をもう一度よく見てみることにします。すると、カテゴリを意味する検索結果が上位に表示されていることが分かります。検索窓に「とう」と入力された場合は、「峠」「灯台」「通り」などが出てきました。
地点探索型のユーザーは「居酒屋」「コンビニ」などのカテゴリを意味する単語を入力する場合が多いと想定されます。なので、そうしたユーザーはこのオートコンプリートの画面で、上位に表示されるカテゴリを意味する検索結果をタップするだろう、と予想されます。
では、実際にタップしてみましょう。すると、周囲にあるそのカテゴリに該当する地点のリストが結果として返ってきます。行きたい場所の特徴が意識できていたとして、その特徴を近くで満たす地点があるのであれば、わざわざ遠くまで行こうとは思わないだろう、というわけです(下図)。

この画面の右下には「地図表示」ボタンがあり、このボタンを押すと図2の真ん中にある地図が表示されて、表示された周囲の地点がどのような場所にあるのかが一目で分かるようになっています。
こうした「周辺の地点のリスト表示と地図表示」へと最初の画面からスムーズに移動できるようにしておくことで、私たちは地点探索型のユーザーにご満足いただこうとしています。
要求探索型の場合
続いて、要求探索型のユーザーに対して私たちはどのように向き合っているのでしょうか?こうした要求探索型のユーザーに対しては、これまでの技術では向き合うのが難しかったように私は思います。
しかし、昨今のAIの発展などを機に、よりユーザーの意図を汲んだ「自然で」「文脈を読んだ」サービスが提供できるようになってきたようです。私たちも、そうした「(より)空気を読む」サービスを提供するための先進的な研究開発を行っています。例えば、下図のようにPCで『NAVITIME』のサイトを開き、右上の検索窓に「東京から大阪」と書くと、「東京駅から大阪駅までの経路探索結果」を見ることができるようになっています(下図)。

また、何らかの「やりたい!」を持ったユーザーに応えるアプリを提供するということができれば、そのアプリを使うユーザーの「やりたい!」に適合するであろう提案をしやすくなります。例えば、下記の『歩数計 - ALKOO(あるこう) by NAVITIME』というアプリでは、「健康のために歩きたい!」というユーザーの方々の「歩く体験」を楽しくするような様々な提案がされています(下図)。

このように、要求探索型のユーザーに対しては、大まかに「こちらの要求を聴きとる技術を磨いていく」アプローチと「ある要求を持ったユーザーを集めて、その要求に対して積極的に答えを提案していく」アプローチがあるように思われます。
いずれのアプローチにおいても、これからのさらなる発展を私たちは目指していきます。
まとめ
地点検索システムでは、「ユーザーが本当に必要としていると考えられる情報・手段・提案」を分かりやすくかつ納得感の出るような形で提示すること(=「空気を読む」こと)が必要で、それによってユーザーの皆様により快適な意思決定支援ができるのでした。
そこで、ユーザーが本当に必要としているものが何であるのかを見極めるためにユーザーがどのように地点検索システムを使っているのかを調査すると、
検索窓に「東京タワー」や「国会議事堂」などの「特定の地点をピンポイントで指し示す言葉」を入力する「地点入力型」
「渋谷 居酒屋」や「コンビニ」などの「行きたい場所の特性を示す言葉」が入力する「地点探索型」
「渋谷から表参道」や「帰りたい」などの「ユーザーのやりたいことが察せられる言葉」を入力する「要求探索型」
の三通りのユーザーがいることが分かったのでした。
このそれぞれのユーザーの期待に応えるために、それぞれ異なった仕方での機能提供が必要となり、それによってインターフェースのスムーズな切り替えが必要となりました。その結果、
入力の手間やミスをオートコンプリートで解消した上で、選ぶ人が多い候補から検索結果の上位に出していくインターフェースを提供する
カテゴリから周囲にある該当地点をリスト表示し、必要ならば地図表示にも切り替えられるインターフェースを提供する
ユーザーの要求を高度な技術で解析したり、特定の要求を持ったユーザーに訴求するサービスを提供することを通じて、その要求を満たす手段を提案する
といった解決策がそれぞれありうるのでした。
おわりに
以上、今回は前回に比べて少し長くなってしまいましたが、このようにして「空気を読む」地点検索システムを提供しているのだということがお分かりいただけたのではないかなと思います。
ナビタイムジャパンでは、「ユーザーが本当に必要としているもの」を提供するための様々な研究・開発を共に行う仲間を募集しています!「移動すること」を通じて何かを届けたいという思いを技術で実現しようという方は、機会がありましたらぜひお声がけください。