ナビタイムジャパンにおけるアジャイル開発と導入支援
【対談参加者】
メタルは全てを解決する : 2009年入社。VPoE、研究開発部門ルートグループ責任者、そしてアジャイル開発の導入支援を行うワーキンググループのリーダーを担当。
プロモデラー : 社歴17年のベテランPM。プロダクト・データ・アルゴリズム等、様々なプロジェクトのPMを歴任。
むらさきしきぶ : 2021年入社、新卒3年目。1年目の冬頃からアジャイル開発の導入支援を行うワーキンググループに所属。
聞き手 : 採用チーム(あ)
「アジャイル開発」とナビタイムジャパンでの導入・普及
ー今日はお集まりいただきありがとうございます。今回のテーマは「ナビタイムジャパンにおけるアジャイル開発」です。アジャイル開発の導入支援を行うワーキンググループ(以下WG)の責任者のメタルは全てを解決するさん、メンバーのむらさきしきぶさんと、直近でWGから導入支援を受けたプロジェクトからPMのプロモデラーさんにお越しいただきました。
まず基本的なところからですが、「アジャイル開発とは?」ということについて、お話しいただけますか?
メタルは全てを解決する 最近だと大学でもいくつかの大学でProject Based Learning(問題解決型学習/以下PBL)というかたちで、アジャイルを回しながらモノづくりをするというカリキュラムが導入されているので、ご存知の学生の方も増えてきているのではないかと思います。 「アジャイル開発」は一言でいうと、「少しずつ繰り返し的に作っていく」ということです。なぜこのような手法が取られるかというと、作って、動かしてみて初めて分かることがたくさんあるからです。例えば、お客様が「Aという機能が欲しい」と望んだときに、その通りに開発をして実際に触れてもらったら、「実際に求めていたのはAではなくBだったかも」ということに初めて気づくようなケースがあります。
ナビタイムジャパンにおいては、自社開発でモノづくりをしてきた企業ということもあって、元々自分たちで開発手法を選択していました。その中でアジャイル開発について自分たちで勉強したり、外部の勉強会に参加するなどして知見を蓄積し、開発手法として導入しているプロジェクトもあったのですが、導入に成功してうまくいっているプロジェクトのやり方を、他のプロジェクトが見よう見まねで導入してしまうと目的を見失ったり、機能不全を起こしたりすることにつながってしまいます。また、当社のビジネスは個人向けサービスであれ法人向けサービスであれ、売り切り/買い切りのソフトウェアやサービスではなく、ユーザーの方に使っていただいている間にもソフトウェアやサービスが進化していくという形態なので、アジャイル開発を導入して、進化を加速させていきたいというニーズは高まっていました。
そこで、ナビタイムジャパンという企業の特徴・方針に合ったカタチのアジャイル開発手法を確立させるとともに、「なぜそうするのか?」という根本の部分から説明を重ねたガイドラインを作ってきた、というところまでが、ナビタイムジャパンにおけるアジャイル開発導入の経緯です。
※アジャイル開発手法の確立やガイドラインの作成に関する詳細は、
「NAVITIME Tech」のこちらの記事をご覧ください。
アジャイル開発の導入支援を行うWGの役割と動き
ーアジャイル開発の導入支援を行うWGは、今回同席いただいているむらさきしきぶさんはじめ若いメンバーも多く所属していますが、このWGが担っている役割についても教えていただけますか?
メタルは全てを解決する 実はこのWGは、ガイドラインの作成前から存在していて、社内でアジャイル開発を実践したいプロジェクトを支援する目的で作られていて、プロジェクトに入り込んで一緒に実行していくということをやっていました。その後ガイドラインが作成されたので、各プロジェクトがそれを導入していく際に、何かうまくいかないところがあればそれを手伝うということをやっています。具体的な活動事例を挙げるとすれば、ふりかえりのファシリテーションをすることであったり、インセプションデッキと呼ばれるものの作成を支援するなど、ですかね。あとは、リソースの問題もあって全てのプロジェクトに入り込んで支援することは難しいので、こうすればうまくいきますよ、というテンプレートや型のようなものを作成して広めていくということもやっています。それから自分たちで勉強して実践するという流れができればより広まりやすくなりますので、勉強会を主催したりもしています。この勉強会は、参加することに慣れていなかったり、勉強することの楽しさに気づけていないような人にこそ参加してもらいたいと考えて、極力カジュアルにするなどしていました。ここをむらさきしきぶさんに頑張ってもらっています。
ー実際にやってきたことをお話しいただけますか?
むらさきしきぶ 今は一区切りついているのですが、少し前にみんなが気になっていた「設計」をテーマにした読書会を開催しました。できる限り若手にも参加してもらいたいということで、参加しにくくなるような要素を極力取り除くようにしました。
例えば、連続して開催される勉強会だと、休まず参加し続けないといけないとか、一度穴を空けてしまうとその次の回に参加しづらくなる、みたいなことが起きがちで脱落者が出たり参加を躊躇する人が出やすくなってしまいますので、1回の時間を短くしてブランクを小さくなるようにしたり、議論の内容を参加者に共有できるカタチにして振り替えれるようにしたり、前半後半に分けて前半が終わったところで一度まとめ会をやったり、間ができてしまっても復帰しやすいようにしていました。
メタルは全てを解決する もう一つ勉強会に参加するハードルに、書籍を購入する、というものがあります。技術書は数千円するものもあったりして、特に若い人たちだとためらってしまう人もいるのではないかと考え、今回の勉強会については参加する人たちの中で希望者に対しては、書籍を全て会社で購入して貸し出す、というかたちをとりました。
むらさきしきぶ 今回私の同期も多く参加してくれたのですが、「本まだ借りられる?」と聞かれることも多かったです。本を貸し出してもらえると、お試しで参加しやすい、ということもあったかなと思います。
アジャイル開発導入の具体的事例
ーここから後半戦ということで、プロモデラーさんから、プロジェクトでアジャイル開発を導入することになった動機や背景にある課題などについて、お話しいただけますか?
プロモデラー まだ世の中に出ていないサービスなので、詳細はnoteに出せないのですが、*****という旧システムのリプレイス案件を行うプロジェクトです。開発から年月を重ねてきたこともあってリプレイスした方が良いタイミングになったためできたプロジェクトでした。元々あったサービスのかたちは踏襲しつつ、機能やUIなどで見直すべきところはこのタイミングで見直す、というミッションを担っています。
そしてアジャイル開発導入の背景にあったのが、私がずっといたプロジェクトではなく、今回の案件を担当するためにスポット的に入ったプロジェクトだったということです。簡単に言えば、プロジェクトマネージャー(以下PM)がプロジェクトの中で一番新しいメンバーだった、ということです。なので、元々プロジェクトにいて状況などをよく分かっているメンバーに主体性を発揮してもらって、どんどん動いてもらうような体制を作りたかったのです。そのためには、PM主導ではなくアジャイルの方が適しているだろうという判断をしました。
ーアジャイル開発導入支援のWGが入って、まずは何から手を付け始めたのですか?
メタルは全てを解決する 最初はインセプションデッキの作成からですね。プロモデラーさんがこのプロジェクトにあとから入ってきたPMであるということもあって、「何のためにリプレイスをするのか」という意識合わせを丁寧にする必要があったためです。
メタルは全てを解決する インセプションデッキの作成がなぜ大事かというと、プロジェクトのメンバー一人ひとりは「何のためにこの仕事をやるのか」という意義は持っているのですが、それが他のメンバーも全く同じように思っているのかというとそうとは限らないので、まずは目線合わせをする必要があるからです。この作業を通じて、開発者、プロダクトを提案・販売する営業、そして経営、それぞれの目線を合わせて優先順位付け、合意形成ができ、その後の業務が進めやすくなりました。また、業務を進めていく中でみんなで合意形成をしたことと違うことが起きた場合に、「違う」ということが可視化されているので「違和感を持ちつつも進めてしまう」ということが起こりづらくなりました。
ー導入支援を受けたことで、プロジェクトの中ではどのような変化が起きましたか?
プロモデラー やはり我々はお客様がいらっしゃる中でモノづくりに取り組んでいるので、プロジェクトメンバーでインセプションデッキを作成したときには「お客様が求める機能・サービスを実現する」が最優先事項になったのですが、それを経営と共有したときに、「ここを優先するあまり、サービスとして継続的な開発・改善をしていくことの優先度を相対的に下げてしまった結果、長期的視点でお客様の利益に繋がらなくなってしまっているのでは?」という問いが投げかけられました。
メタルは全てを解決する かなりリアルな話ですね(笑)
プロモデラー でも実際にここが一番大きな変化だったと思います。経営からのメッセージを踏まえて「目の前のビジネス視点を優先しすぎるではなく、継続的に開発・改善がしやすいようにすることで、結果的にお客様の利益に貢献する」という考え方に切り替わったのが最も大きな変化でした。
メタルは全てを解決する 従来の状態だと、ボタンを掛け違ったまま進んでしまったのかなと思います。目の前のビジネス視点だけではなく、継続的な開発・改善を行うことで長期に渡ってお客様の利益に貢献するということは当初から大事だったはずなのですが、「とは言え事業として成果を出さなければならないので、目の前の『結果』を追わなくては」になってしまいそうになっていたところで、「関わる人たちの頭の中にあることの可視化」というステップを挟んだことによって、改めて考え直すことができたのではないかと思います。
プロモデラー 一番大事なのは、お客様の要望の通りに作ることではなく、本当の課題に向き合い、開発・改善を繰り返していくことで解決に近づいていくということなのだと思います。プロジェクトメンバーでインセプションデッキを作成し、それが充分ではなかったことに皆で気づくことができました。言わずもがなですが、「お客様の要望通りに作ることではなく」というのは、お客様の要望をないがしろにするということではなく、むしろこれまで以上に課題解決に対して真摯に向き合っていかなくては実現できないことです。今回WGに入ってもらったことによって、そこがメンバーみんなのマインドとしてコンセンサスがとれたことが良かったと思います。
メタルは全てを解決する 日本人の気質や感覚として「お客様の言うことは絶対」「マネージャーなど役職のある人の意見が強い」になりがちですが、「関わるメンバー全員の価値観は共通しているよね」ということをインセプションデッキの作成を通じてすることと、ふりかえりが仕組みとして入ることによって一人ひとりの意見がより出しやすくなるので、意思決定がより良いカタチになっていくのではないかと思います。
ー個人的な感覚では、ナビタイムジャパンという会社は元々年齢や入社年次、経験や役割などに関わらず、みんなが意見を出し議論をして物事を進めていきやすい文化があると思うのですが、それでも今回のような合意形成や仕組みづくりをすることは大事だったのでしょうか?
メタルは全てを解決する それは間違いなく大事だと思います。当社の事業責任者やプロジェクトマネージャーは、アジャイル開発の導入は関係なく、メンバーから意見がどんどん上がってくることに対してはウェルカムだと思いますが、意見を受け止める側がそうだからといって、メンバー全員が自由にガンガン意見を言っていけるかというと、そうではないんですよね。例えば入社以前の育ってきた環境、人生の中で関わってきた人たちによっては、「意見を言うと怒られてきたので・・・」という人もいたりします。なので、実際に発言できる場所を作ること、意見を言っても大丈夫だとう体験を繰り返し積んでもらうことによって、本当に大丈夫なんだなということが浸透することが大事なんです。アジャイル開発の導入はそれが仕組みとして作りやすいということです。
ーみんなの性格や気持ちで成り立っていた部分を、明文化したり仕組みをつくることによって、本当の意味で漏れなく定着させることができるようになるということなんですね。
メタルは全てを解決する 年齢が上の人たちは本当に気をつけなければいけないと思うのですが、「気軽に話しかけてね、意見してね」は通用しないということです。やはり年下の人たちから見たときに存在自体が取っ付きづらいということもあると思います。なので、仕組みづくりもそれを前提に設計しています。
ー貴重なお話ありがとうございました。採用活動の中で社風や文化を伝える際に「コミュニケーションが活発ですよ」「若手も意見を言いやすいですよ」ということはどこの企業も話していることかなと思いますが、ナビタイムジャパンはこういう仕組みづくりをしているからこの社風・文化になっているんですよ、と話せた方がより断然説得力が増すなと思いました。