お前は誰だ?
オールド・ボーイ(2003/韓国)
監督:パク・チャヌク
出演:チェ・ミンシク カン・ヘジョン
やっぱこうでなくちゃ!韓国映画は!
なよっちいワンパターン恋愛モノが韓国映画だと思われているようだが、こっちが本流ね。見れば脳みそガツン。しばらく放心状態。韓国映画の底力ここにあり。
DVDで見ると、ついウロウロキョロキョロしてしまいがちなのに、これはもう一瞬たりとも目が離せなかった。スピードで引っぱるジェットコースター式の映画でもないし、目を奪われるほどの美男美女が出てくるわけでもないのに、恐るべき力でグイグイ引き込まれてしまう。またそれが快感。作家性と娯楽性が見事に融合した傑作である。
さすがカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、審査委員長だったタランティーノに「本当はおいら、パルム・ドールをあげたかったんだよぉ」と絶賛されただけのことはある。タランティーノ、好きそうだもんなあ。
復讐物語というものは、恨みが深ければ深いほど、復讐を遂げた時のカタルシスは大きいので、主人公は前半でかなりひどい目に遭うのが通常パターンだ。そして復讐に大儀が生まれ、復讐は正当化され、相手は報いを受けて当然という勧善懲悪のノリになる。
ところがこの映画の場合、主人公が想像を絶するほど理不尽な目に遭うという点ではすさまじい復讐物語なのに、従来のものとは根本的に違う。
何しろ「私、復讐する人。あなた、される人」という単純な構図が通用しないのだ。
まったくどっちがどっちに復讐してんだか。
復讐が生きる糧になってしまった2人の男の、恐ろしくも悲しいお話。ありがちなカタルシスなんか、これっぽっちもないです。
しかし、どう考えたって悲惨な話なのに、こんなに感動してしまうのはなぜだろう。事の発端が愛だから?犯人の狂気も愛ゆえと思えば、理解できないこともない。
実はこの映画の原作は、日本のマンガ(確かにマンガみたいにぶっ飛んだ話)である。でも、この純愛というか、一途な愛が復讐の背景にあるという設定は、原作にはないのだそうだ。
ああ、そこがやっぱり韓国映画。
この映画はハリウッドでリメイクされたが、そこらへんはどう処理してあるやら。アメリカ人にわかるのかな。そこらへんの情が。キモが。
ところで、「うお~っ」と叫びそうになるあんまりな展開に手汗握り、そしてウワサ通り思わず目をそむけたくなるシーンが2回あるのだが、特に2回目のすんごいシーンの時、ちょうどアボカドを食べながら見ていた私は、ちょっと気分が悪くなりましてねえ。これが生タラコだったら、吐いていたかも。
でもそれはこの映画に必要な、本当に意味のあるシーンだったので、バイオレンスシーンでよく感じる不快感はゼロ。むしろ「そこまでする主人公の必死な想い」に共感し、涙が出そうになった。
あと、ちょっとしたことなんだけど、うまいなあ~と思ったのが、主人公が一人で大勢を相手にケンカをしているシーンで、背中にナイフが刺さったまま戦っていたところ。なんかこうリアルでもあり、絵的には滑稽でもあり。
ナゾだったのは、犯人のスッポンポンの後ろ姿が映った時、お尻の割れ目のところに、さりげなく刺青されていた十字架である。
なんだ、あれは。カトリック教徒ならではの復讐の誓い?
あ、もっとナゾだったのは、15年ぶりに監禁生活から解放された主人公が目を覚ますと、そこにいた男。室内犬みたいな白いフワフワした犬を抱えたヒゲの男。「私がなんで死にたいのか、聞いてくれ」って、あんた誰?結局何者?偶然そこに居合わせただけなら、このシーンだけシュールすぎる。
それにしても「口は災いの元」とはいえ、全くやりきれんよ。切ないよ。でも主人公には、どんな形であれ、そばにいて自分を愛してくれる人がいる。私はそこに救いを見出したい。