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バカみたい

マリー・アントワネット(2006/アメリカ)
監督:ソフィア・コッポラ 
出演:キルスティン・ダンスト ジェイソン・シュワルツマン

裏タイトルは、ずばり「マリーの青春」。つまりこれは、「マリー・アントワネットだって普通の女の子。だから青春があった(はず)!」という映画である。

でもそんなことは、日本人なら「ベルばら」でもうとっくの昔に知っているんじゃないのかねえ。

私はマリーの青春よりも、「ベルサイユ宮殿で暮らすというのは、こういう感じなのか」と思った。何しろ本物のベルサイユ宮殿で撮影しただけのことはあり、さすがに今までにはない臨場感。

だだっぴろい宮殿と庭園の中で完結している生活って飽きないのかなと思っていたけど、それは現代の一般市民の感覚であって、同じ敷地内に作られたマリーの別荘は別世界だったし、案外広い世界で生きていたのかもしれない。

それから、側近に囲まれて過ごす初夜や公開出産のことは知っていたけど、王の寵愛を受ければ、娼婦であっても王族と一緒に食卓につけるのには驚いた。解放的というか、何でもありというか。安易に比べちゃいけないけど、日本じゃ殿様でも皇室でも、ここまでおおっぴらにはできんでしょう。

ま、この映画のどこからどこまでが史実に基づいているのか、わかりませんが。

他にも馬車での長旅の退屈さや、「やらなきゃいけないのは、後継者を産むことだけ」というまさに「産む機械」であるマリーが、嫁ぎ先からそこはかとなく受ける冷たい空気も、彼女がしょせん「嫁」であることを痛感させる。

一番印象的だったのは、外でくつろいでいたマリーが、ある日突然バスティーユ監獄の襲撃を知らされるシーンだ。

史実はともかく、マリー・アントワネットからすれば、フランス革命というものはじわじわ迫ってきたのではなく、こうやってつるべ落としのように、いきなりやってきたんだろうな。

ホントかどうかは別として、そういう感覚をこの映画を見ることで初めて知った。ソフィア・コッポラ、こういうところがなかなかうまい。

つまりこの監督は、「気分」を描くのがうまい。

不安な気分。初恋気分。欲求不満から買い物に走っちゃう気分。でもよく考えたら、そういう「気分」しか描いていないっていうか。

いや、こういうの、嫌いじゃないよ。嫌いじゃないけど、口に出して「好き」とも言えない、言いたくないこのモヤモヤはなに。

とっかえひっかえ登場するお菓子もファッションもすべて、マリーの「気分」を表す小道具でしかない。そう。マリーの気分。マリーがお菓子に指を突っ込んで舐めるのも、それはその時の彼女の「気分」なのである。

そりゃあこんな私にだって、そういう「気分」はわかる。でも心のどこかで、そういう「気分」の演出にはついていきたくないなと思う。

それからこの映画は、スクリーンいっぱいに広がるマカロン色に話題が集まったが、計算しつくされているところが見えてしまい、それで気が散ってしまったのは私だけ?

なので、フワフワした優しい色使いなのに、ちょっとした息苦しさを感じた。

ああ、この映画べつに嫌いじゃないのに、なんで悪口になっちゃうのかなあ。

それにしても、ソフィア・コッポラってやっぱり育ちがいいのね。いわゆる生まれながらのセレブなのね。制作上の苦労はもちろんあるだろうけど、作品の評判とか予算とか、そういうことを考えたことがなさそう。呑気でのびのびとしていて、まるでホームビデオを作っているみたい?

そうそう。注目のフェルゼン役に「誰が見てもハンサムな男」を選んだそうだが、これがもうすばらしく印象の薄い平凡なハンサムで、こういう絵に描いたようなハンサムを好きになるなんて彼女はまだ子供だったのね、という気がしてよかった。

おまけに、フェルゼンとの恋愛が拍子抜けするぐらいあっさりと描かれていたのもよかった。「一生に一度の真実の愛」みたいなドラマチックなイメージは、ベルばらの功罪だったか。

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