やってみない?
真夜中のピアニスト(2005/フランス)
監督:ジャック・オーディアール
出演:ロマン・デュリス ニエル・アレストリュプ
ピアノを弾いたことのある人なら、手に取るようにわかるだろう。主人公の焦燥感。喜び。夢。挫折。
この最後のチャンスに賭けてみようか。無謀な挑戦なのはわかっていても、彼はもう音楽への狂おしい情熱を思い出してしまった。
そうして暴力的な世界から逃れるように、彼はピアノにのめりこんでいくのだが、10年のブランクがあるので全身全霊を傾けての猛レッスン。仕事をしている時もお酒を飲んでいる時もピアノのことが頭から離れず、彼はテーブルの上で指を動かし続ける。
最初は手も足も出なかった曲が、次第に自分のものになっていく豊かな快感。ああ、これが楽器を奏でるということ。その喜びに身を委ね、彼は忘れていた自分を少しずつ取り戻していく。
そんな綱渡り的な猛進の果てに迎えたクライマックスは、そりゃもう「うわぁ~っ!!」と叫びそうになるような展開で、ただただ胸がつぶれる。
これは夢物語ではないが、夢のある物語だ。『ロッキー』のようなカタルシスはないが、人生のはかない光と影をかみしめる余韻が残る。