未来のためにできることは、「今を生きている」だけでいい。
「あっ、蛍だ」
生き苦しい気持ちで、川沿いを歩いていた。
ある夏の日のこと。
蒸し暑くて、空気がじとっとしていた。
私の心をうつしだすかのように
あたりが、少しずつ闇に包まれて。
「きれいだなぁ」
ただ、そう感じた。
何年ぶりの光景だろうか。
ついさっきまで、鬱々としていたのに。
またたく光を目で追いかけるうちに
暗がりを彷徨っていたことを、すっかり忘れていた。
涙がとまらなくなる。
「どうして、そんなにきれいなの」
理由なんて、なかった。
生きて、この場所にいる。
それだけだった。
蛍も、私も。
◇◇◇
生きるって、なんだろうね。
しんどいことや、つらいこと。
どうにかしたくなるのは自然なこと。
でもね。
一瞬一瞬の、ひかりのかけらによって。
いとも簡単に、美しいと思わされる。
意志とは関係なく、心が動かされてしまう。
どうしてだろう。
「心とからだが、私を生かそうとするから」
今この時も、一つひとつの細胞が脈打っている。
つらい気持ちは、これ以上、つらい想いをさせまいと。心が守ってくれている証拠だから。
ずっとしんどくないように
うっかり、ほころぶ隙間もつくってくれる。
そう。うっかりと。
あの時。ほんの一瞬でも。
生きていてよかったって。
思ってしまったんだ。
つらいのは、生きようとしているからなんだね。
◇◇◇
蛍は、なにも知りません。
私の想いも、考えも。
きれいだねって言われたいわけでもなく。
励まそうとも思ってなくて。
誰かと競争もしていない。
「蛍はただ、その時を生きていただけ」
きっと、それでいいのです。
私たちも。
未来のことを考えるのは、あとでいい。
「どうか、今日を生きのびて」
ひとつぶの “よかったね” のために。
今、そう思えなかったとしても。
数時間後は、わからないのだから。
逃げてもいいよ。なんて言わないよ。
だって。逃げるって言葉が、へんだよね。
いつも、立ち向かっているじゃない。
どうにもならない、今だって。
泣きたいだけ、泣くといい。
つらいならば、つらくていい。
やりきれないまま、やり過ごせる。
あるがままの姿が。
はからずも、私を、あなたを。
励ますことがあるのだから。
私は、あの夜。
たしかに、そのように感じました。
「未来のためにできること」
あなたが生きているだけで、いいんだから。
◇◇◇
なんとかなるからね。
なんとかなるって、思えるように。
していくからね。
サポートしたいと思ってくださり、ありがとうございます。創作活動の励みになります!