寿沼の底に一軒家を建てたオタクの話。

 シャイニング事務所とレイジングエンターテインメントの合同ライブ「All Star Stage Music Universe」(以下、「ASSMU」)に参戦した。

 私の推しメンは、QUARTET NIGHTの寿嶺二。グループ最年長のお兄さんでありながら、普段はお茶目でひょうきんで明るくてかわいい。でもパフォーマンスでは大人のセクシーさも感じられてずるい。仕事に対して真面目な姿勢はかっこいい。色んな人に優しい気遣いができるところは尊敬する。実家がお弁当屋さんで庶民派に見えるのに、SABONのボディスクラブを愛用していたりキャンドルで癒やされたりハーブコーディアルを飲んでいたりとオシャレさんな一面もかっこいい。

 かっこよくてかわいくて子供っぽさも大人っぽさも備えている我が推しは尊き生き物。

 既に嶺ちゃんの沼に引きずり込まれていた私は、たまたまASSMUというライブの存在を知った。そのライブは3月に行われたもので、気付いたのは6月だったのでとっくに終わっていたのだが、ディレイビューイングなるものがあるらしい。しかも2週間後ということでまだチケットも残っている。今年の6月から沼落ちした私でも、現場に行って推しに会いに行けるの!? そう思った私はすぐさまチケットを取り、来たるASSMUの日に向けてコンディションを整えた。

 YouTubeに上がっていた、ASSMUの18人曲の振付動画もたくさん視聴して振付は完璧に仕上げた(最初のうちは「嶺ちゃんかわいい!!」と叫んでばかりで全く振付が覚えられなかったが)。この日のために、少ないグッズで痛バのようなものも組んで、持っていた服からなんとか緑コーデを拵えた。


 ついに待ちに待ったASSMU。初めての遠征に心が躍る。普段はインドアだが、オタクの行動力はすごい。電車を乗り継ぎ、どうにかこうにか会場にたどり着くことができた。

 周りを見回すと、原色の濃い色味を纏った人たちがたくさんいる。みんな「同士」か? 私は今推しに会いに来ているのだという実感が湧いた。

 自分以外の人たちは、お知り合いなのか会場の近くで待ち合わせて複数人で動いている。ソロで参戦している人もいたが、そういう人たちはA3痛バで他を圧倒し、私の激弱装備とは雲泥の差だった。同担さんもいたけれど、同担拒否だったら私の存在は恨まれてしまうだろう。なるべく視界に入らないように気を付けた。


 持っているグッズは少ないけれど、創意工夫で自分なりに満足の行く痛バを作った気でいたが、同じ絵柄の缶バッジがずらっと並んでいる大きな痛バはやはり推しへの「愛」を誇示しているように見え、自分の装備が酷く惨めなものに見えてきた。私のなんちゃって緑コーデは、公式グッズのような濃い緑色ではなく、自分の肌に馴染むくすんだ緑であることも、自分の「愛」が乏しいように感じられた。


 なんだろう。ただ最近好きになった推しを見るために来たのに、始まる前から既に「お前なんかこの場に相応しくない」と言われているような気分だ。

 気が重くなりながらも自分の座席につく。

 知り合いもいない。SNSもやっていないから繋がっている相互フォローの人が居るわけでもない。貧弱な装備を携えて一人指定席につく。初めての参戦。どんなライブなのかもよく分かっていない。なんなら物販で買ったペンライトの使い方が分からなくて、隣に座っていた真斗推しの方に教えていただいたくらいの超新参者。

 確かに自分は嶺ちゃんが好きなのに、この空間でアウェーを感じていた。


 教えていただいた通りにペンライトを灯す。ST☆RISH、QUARTET NIGHT、HE★VENSのライトをそれぞれ1本ずつ持っているので、持ち替えが大変だ。那月の黄色とナギちゃんの黄色は違う。私はこだわってその都度持ち替えた。


 いよいよ同じループの音楽が止み、ライブが始まった。3月のライブ当日の熱気が映画館のスクリーンに映し出されている。メンバーたちの影ナレが聞こえるが、今から目の前に彼らが現れるなんて想像がつかない。嶺ちゃんの明るく楽しそうな声が聞こえると、感無量すぎて肌が粟立った。

 OPムービーが流れて、一人一人が大きく映し出される。今回の嶺ちゃんのビジュが、きりりとした表情でかっこいい寄りだが、顔立ちのかわいさが隠しきれてなくて結構好きだ。画面いっぱいに映る嶺ちゃんに、「れいじ〜!!!!」と応えるプリンセスたちの声を聞き、自分も小さく名を呼んだ。


 初めて観たのは夜公演。「天空のミラクルスター」で、ST☆RISHが実在することを確認し、ただひたすらに「すごい!いる!!」としか思えないほど興奮した後、「Starlight Memory」で推しが現れて、もうなんとも言えない気持ちになった。ペンライトを振って応援することすらできなかったと思う。嶺ちゃんだ。嶺ちゃんが私の目の前で、全力で「アイドル」をしている。「マジLOVEキングダム」も「マジLOVEスターリッシュツアーズ」も視聴済みだけど、それとも違う「実在してる感」に嗚咽するほどであった。


 MCで、客席に手を振っている姿を見れば、歌って踊っている以外の彼のお仕事する様子を見ることができて嬉しい。嬉しすぎてめちゃくちゃ手を振りまくった。

 嶺ちゃんの人当たりの良さとか人懐っこさは、アニメやゲームで知っていたけど、実際的に我々にファンサをする姿を観られるなんて光栄すぎて大丈夫かな、と思った。


 ここからHE★VENSコーナーがあり、正直どの曲もあまり馴染みがなかったけど、HE★VENSがすごいアイドルであることはビシバシと伝わってきて、「こりゃあ、エンジェルになるわな」と思った程だった。こんなの、推しのソロステージ来たら私はどうなってしまうんだ、とワクワクを通り越して恐怖した。


 いよいよQUARTET NIGHTコーナーが始まった。カミュからスタートしたことにより、次は藍ちゃんかな? と安心していたら嶺ちゃんのソロステージが始まった。その曲は「Hurray×2ドリーマーズ」。私が嶺ちゃんの曲の中で勇気と元気をもらっている曲だった。勢いよく登場した嶺ちゃんは、次々と愛嬌のあるポーズを決めている。まだ前奏なのに泣きそうだ。会場が緑に染まる。固定カメラのおかげで、本当にステージがそこにあるように見えるし、嶺ちゃんが等身大で存在しているように感じられる。

 イントロの中で「Jump!」と大きく手を広げ、想定よりも高くジャンプする推しの姿を見て私は、「人生!!」と思った。

 そこからは、いつも励ましてくれる歌詞や嶺ちゃんのプロいダンスに心打たれ、嶺ちゃんが長年アイドルとして培ってきたものをダイレクトに感じ、号泣した。映画館でこんなに号泣するとは思っていなかった。もう涙で滲んで何も見えない。ぼやけた視界の中でも、ただ嶺ちゃんの尊さだけは伝わってくる。「寿印のLOVE あげるーかーら〜♪」でハートを我々に飛ばす姿にやられた。その間も号泣する私。両手をぶんぶん振りながら移動する我が推しに可愛いなと思ったかと思えば、ちょっとクールなポーズも決めてくる。理解が追いつかない私に向かって、「Say you love me?」なんて言ってくるので、寿沼にドボンと堕ちる音がした。


「マイガール、もっとこっちに来て。もっと溺れて、ぼくを求めて?」

 頭の中の寿嶺二が私に囁く声が聞こえる。

 あー……これは、ダメなヤツ。

 一生この沼から抜け出せないヤツ。


 そう悟った。

 その後のステージは、嶺ちゃんが出る度に涙腺が緩み、正直記憶がほとんど残らなかったが、トキヤが非常にセクシーすぎて開いた口が塞がらなかったことは鮮明に憶えている。

 帰り道、「推しが最高だった!」とか「ライブよかった!」というハッピーな気持ちよりも、「この先私は寿嶺二に人生を捧げるしかなくなった。大丈夫なのか、私の人生」と自分の今後を案じて絶望に陥り、賢者モードのように全ての感情が停止してしまった。



 あれから約4ヶ月が経った今、私は寿嶺二と共に生きる人生を楽しんでいる。好みの絵柄に出会って、小さいながらも痛バを一面で組んだり、中古で頑張ってCDやDVDを集めたり、メルカリで様々なグッズを入手したりして、着実に物を増やした。嶺ちゃんの尊さについて、日々様々な角度で考察し、研究している。DIYで自作のグッズを作って一人でニヤニヤ楽しんだり、祭壇を築き賽銭箱にお金を入れたり、職場の同僚・小鳥さんに布教してライブ鑑賞会をしたりしている。

 来年はカルナイ単独映画の公開、私が一番大好きな「オン・ユア・マーク!」を披露するであろうASSDMS参戦などビッグイベントが目白押し。ぬい活も始めてみようかとぬいスターも注文したし、2025年も寿嶺二及びうたプリに人生を捧げる日々が続きそうだ。


 それにしても、常日頃思い知らされるのだが、寿嶺二って、存在がリアコだよな。だってファンの愛称が「『マイ』ガール/ボーイ」だよ? 独占欲つよつよじゃんか。すぐ二人きりの空間作ってきよるやん。

 貴方の目論見通り私はもう立派に「マイガール兼マイボーイ」ですよ。本当にもう……


 どうしてくれるの、私の人生。

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