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こんな学校あったらいいな

この学校は、ほんの少しだけ変わった学校です。

でも、何が変わっているのかは、子どもたちは知りません。

***

朝、子どもたちが登校します。

元気いっぱいのタイトくん。

おっとりのユウナちゃん。

おとなしいトモキくん。

しっかり者のリリちゃん。

校長先生にあいさつをします。

「おはようございます!!」と大きな声をだすタイトくん。

「おはようございます」とていねいにおじきをするユウナちゃん。

「おはよう、ございます」と小さな声で呟くトモキくん。

「校長先生、おはようございます!」と元気に手を振るリリちゃん。

くつをげた箱にいれたあと、みんなが一列に並びます。

「今日はどのクラスかな」とタイトくんがトモキくんに話しかけました。

トモキくんは「今日はプールがあるから、タイトくんと一緒がいいな」と小さな声で照れながら言いました。タイトくんはそれを聞いて嬉しそうに、「今日も一緒のクラスになろうぜ」と答えました。

4人が並ぶ列の前に教頭先生が、やってきました。

「それでは、今日のクラスを決めましょう。」

教頭先生は、計測器を一人ひとりのおでこに当てて、何かを計っています。

おでこを計られた子どもたちは、それぞれ赤、黄色、青のクラスへ入っていきます。

トモキくんの番になりました。

教頭先生は、トモキくんのおでこに計測器をあてると、ピッという音が鳴り、それを見て「トモキくんは、今日は赤クラスだね」と言いました。

続いて、タイトくんのおでこに計測器をあてて「タイトくんも赤クラスだよ」と言いました。タイトくんはトモキくんは、二人でうれしそうに赤クラスの教室に入っていきました。

ユウカちゃんとリリちゃんも続けて、計測器をおでこに当てられました。教頭先生は「ユウカさんも、赤クラス。おや。今日は、リリさんは青クラスだよ」と言いました。

リリちゃんは、「昨日は赤クラスだったのに・・・」と少し不満そうに言いました。ユウカちゃんは「明日はきっと一緒のクラスになれるよ」とリリちゃんを励ますように言いました。

リリちゃんとユウカちゃんはお互いに手を振り合ったあと、それぞれの教室へと向かいました。

***

職員室では、教頭先生が校長先生に相談をしていました。

「今日、4年生のリリさんが青クラスでした。」と教頭先生が言うと、校長先生はびっくりして答えました。「朝、あいさつをしたときはそんな風に見えなかったんですが」と首をかしげます。「リリさんは今まで、青クラスになったことはありましたか?」と教頭先生に尋ねます。

教頭先生は、机から記録簿を取り出し、リリちゃんのページを見ました。

「黄色クラスの日はごくたまにありましたが、青クラスは初めてですね。」とリリちゃんのページをみて答えました。校長先生も記録簿をのぞき、一言もしゃべらずにじっとページを見つめました。

しばらくして「青クラスなる子は、だいたい原因がわかるんだが・・・」とつぶやきました。そして、顔を上げて教頭先生に向かって言いました。

「明日もリリさんが青クラスなら、養護の武村先生に様子を見るようにお願いしてみましょう。」というと、教頭先生も大きくうなずきました。

***

翌日、4人はいつものように登校しました。

今日もくつを脱いだ後、1列に並びます。リリちゃんは、不安そうにユウナちゃんに「今日はみんなと一緒のクラスがいいな」と話しかけました。

リリちゃんはユウナちゃんの手をぎゅっと握りました。ユウナちゃんのリリちゃんの手を握り返し、言いました。

「昨日は、リリちゃんがいなくて寂しかったよ」

その言葉を聞いて、リリちゃんは少しだけ笑って「私もだよ」と答えました。

教頭先生がリリちゃんたちのおでこに計測器をあてます。

「タイトくん、トモキくん、ユウナさんは赤クラス・・・」

そして心配そうな顔で「ごめんね。リリさんは、今日も青クラスだよ」とリリちゃんに向かって言いました。

それを聞いたリリちゃんは、すこし大きな声で「どうしてですか」といった後、うつむいてしまいました。

元気でしっかり者のリリちゃんがいつもと違う様子なので、びっくりして3人は顔を見合わせました。

ユウナちゃんが「教頭先生、リリちゃんを赤クラスにしてくれませんか?」と尋ねました。

教頭先生は、首を横に振って「ユウナさん、それはできないんだよ」と静かに答えました。そしてリリちゃんの肩にそっと手を置いて、「リリさん、青クラスに行ってみてどうでしたか?」と尋ねました。

リリちゃんはうつむいたまま、少しだけ時間を置いて「みんながいなくて、さみしかったです」と小さく答えました。

教頭先生は、リリちゃんの言葉を聞いてうなずきました。

「保健室で少し落ち着いてから、教室に入ろう。」と言いました。そして3人には、赤クラスの教室に入るように言いました。

3人は保健室へ連れていかれるリリちゃんの背中を心配そうに見送った後、教室に静かに向かいました。

***

リリちゃんが保健室に入ると、武村先生が迎えてくれました。武村先生は、とても穏やかで優しくて、学校のみんなが大好きな先生です。

武村先生は、リリちゃんを椅子に座らせて、自分もリリちゃんの前に椅子を持ってきて座りました。リリちゃんと武村先生の二人っきりの保健室でした。

武村先生は、リリちゃんに優しい声でそっと話しかけました。

「リリさんは、最近、何か悲しいことや辛いことがありましたか?」

それを聞いたリリちゃんはうつむたまま、小さく答えました。

「みんなと、同じクラスじゃないのがつらいです」消えそうな声でした。

武村先生は、静かにうなずきました。そして、「みんなと違うクラスなのはつらいよね」というと、リリちゃんの肩に手を置きました。

「みんなに言えないような、つらいことや悲しいことはありましたか?」と続けて言いました。

その言葉を聞いて、リリちゃんはハッと顔を上げ、武村先生の顔を見ました。ようやく顔を上げたリリちゃんを見て、武村先生はにっこりと笑いかけました。

「もし、みんなに言えないような辛いことがあれば先生に話してくれないかな」と武村先生は優しく言いました。「リリさんが一人で悩んでいることがあれば、先生はリリさんの力になりたいの。それは、お友達のユウナさんやタイトくん、トモキくんも一緒だと思いますよ。でも・・・」と一度、大きく息を吸い、大きく吐き出して、リリさんの手を握りました。

「でも、お友達にも言えない辛いことがあれば、先生たちを頼ってほしい。きっと先生はリリさんの力になれると思う。」

リリさんは、武村先生の言葉を聞いて、大きな涙を一粒、一粒と流しました。ポロポロと流れてくる涙が止めようとしても何度も何度も流れてきます。

しばらく、リリちゃんの涙が止まるまで静かに武村先生は待ちました。

それから、リリちゃんはゆっくりと話しました。

家族のこと。

今度、家の悲しい事情で引っ越さなければならないこと。

ゆっくりと、絞り出すようなリリちゃんの言葉を、武村先生は静かに聞きました。

*****

次の日、4人はいつものように一緒に学校に向かいました。

ユウナちゃんは、「昨日は大丈夫だった?」とリリちゃんに心配そうに話しかけました。リリちゃんは、「うん」と大きく頷きました。タイトくんやトモキくんもそのリリちゃんの姿を見て、少し安心しました。

タイトくんもトモキくんも、ユウナちゃんも昨日のリリちゃんの様子が普通ではないことを感じていました。

4人がそろっていないクラスはとても寂しいということに気付きました。

「今日こそは、みんな同じクラスになりますように」

4人の思いは一つでした。

でも、リリちゃんを除いた3人には少しだけ不安がありました。

「もし、今日もリリちゃんが青クラスだったら・・・・」


くつを置いたあと、いつものように列にならびました。

そして教頭先生がリリちゃんたちの姿を見つけると、にっこりと微笑みました。「今日はみんな、一緒のクラスになれるといいね」そういうと4人のおでこに計測器を当てていきました。

ピッ、ピッ、ピッ、ピ。

結果がでたようです。

それを見た教頭先生が困ったような顔をしました。

「今日は、リリさんが赤クラスで、あとの3人はみんな黄色クラスになってしまったよ」というと、4人は声をそろえて驚きました。

タイトくんが「ねぇどうして?」と教頭先生に尋ねます。

ユウナちゃんとトモキくんも不安な顔をしました。

リリちゃんも「せっかく赤クラスになったのに、みんながいないと意味がないよ」としょんぼりとしています。

教頭先生は、「これはどうしたことだろう」と首を傾げてしまいました。

タイトくんが「先生、お願いがあります!」と大きな声で言いました。

「もう一度、ぼくたちを測ってくれませんか?もう一度、測ったら赤クラスになると思うんです。」というタイトくんに続いて、トモキくんが小さい声ながらもはっきりといいました言いました。「ぼくも、そう思います」

「教頭先生お願いします」とユウナちゃんも言いました。

リリちゃんも、「今日こそみんなで一緒のクラスになりたいんです」と必死にお願いをしました。

そこに4人の様子を見ていた武村先生は教頭先生の顔を見てにっこりと笑うと大きくうなずいて言いました。

「教頭先生、今日だけは特別にお願いします。」

教頭先生が「仕方がないですね」と困ったような、でもどこか安心したような顔で答えました。

教頭先生は、タイトくん、トモキくん、ユウナちゃんのおでこに計測器を当てました。

ピッピッピッ

「よし。みんな赤クラスですよ。」教頭先生の明るい声に、4人は大はしゃぎ。

みんなにつられて笑顔になった教頭先生に、リリちゃんは話しかけました。

「教頭先生、これは何を計っているものなの?」

教頭先生は、リリちゃんの耳元でこっそり呟きました。

「これはね。みんなの心の元気を測るヒミツの道具だよ」





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