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まぶしかったのはきっと日差しのせいだけじゃない(短編小説)(二次創作)

※本小説は二次創作かつフィクションです。
 実際の人物、団体、その他のものに関係はありません。

梅雨も明け初め、学生たちは迫る夏休みに心を躍らせている。
教師となって、初めて迎える夏。
慣れないことばかりで大変なことも多いが、大きな問題もなく、7月に差し掛かろうとしている。
時が過ぎるのは早く、年を重ねるほどに、一年の短さを思い知る。
自分が学生だった頃が、遠い昔のようだ。
この時期、よく思い出すのは、高校一年生だったころ。
今年よりも、まだ涼しかったあの頃のことだ。


「転校してきた、前田晴斗(まえだはると)です。」

高校一年の夏休み少し前、俺は親の仕事の都合で片田舎に引っ越すことになった。
今まで住んでいた場所を離れ、当然友達もいない。
まして、高校に入ってやっと友達が出来そう、というタイミングでの転校だったのが良くなかった。
転校した高校はほぼ中学からの地続きのような感じらしく、そこに転校生が入り込む余地はない。
何人かと話はすることはあったが、友達と呼べるほどに仲良くしてくれるなんてことはなかった。
クラスでは少し浮いた存在になっていたため、外を見て過ごすことが多かった。
昼休み、教室で弁当を広げるのも嫌になっていた俺は、屋上の存在を知った。
昼休みの間だけ開放され、昼ご飯を食べる人、軽い運動をする人、日陰で本を読む人など、様々らしい。
夏休み前ということもあり、外は非常に暑く、こんな中で屋上に行く人は少ないだろうという読みで弁当片手に屋上に上った。
鍵は開いており、少し錆びついた扉のノブを回す。
外の空気は案の定熱気を帯びて全身に降りかかる。
不快と言えば不快かもしれないが、教室の空気よりは幾分マシに思える。
日陰を探すため、屋上に一歩足を踏み入れ、辺りを見渡していると、横から声が聞こえた。

「あれ?こんな暑い中、なんで屋上に来たの?」

声のする方を見れば、照りつける太陽の光と同じように、明るい笑顔を浮かべた女性がいる。
向こうもおそらく誰も来ないと踏んでいたのだろう、こちらをからかうような口ぶりだった。
その姿に一瞬目を奪われ、ふと、太陽の神様のようだと思った。

「えと、転校したばかりでクラスに居づらくて…」

「転校生、この時期に…珍しいね。」

女性は太陽に照らされて暑くなったのか、日陰に戻ると、こちらにくるように手招きする。
何だか断り切れず、女性に続いて日陰に収まる。

「えと、先輩、ですよね…」

この学校はリボンやネクタイの色で学年が判別できるようになっていると、入学前に教わった。
見たところ、3年生の色を付けているから先輩であると判断した。
が、見た目はとても年上には見えない程幼く、頭の上で揺れるカチューシャがより幼さを演出している。

「そうだよー。そういう君は、一年生だよね!」

先輩はそう口にしながら、俺の首元のネクタイをきゅっと、締めた。
だらしないと思われた恥ずかしさと、幼いながらも女性である先輩に不意に近付かれたことにより、少し後ろに引いた。

「あぁ、ごめんごめん、近かったよね…」

先輩も気付いたのか、恥ずかしそうに手を離した。

「ご飯、一緒に食べよ!」

先輩は照れ隠しなのか、日陰に置き去りにされていたお弁当を慌てて広げた。
俺も先輩に倣って、お弁当を広げる。
嗅ぎなれた匂いと、別の美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。


夏休みまでの数日、お昼休みは基本的に屋上で先輩と過ごした。
名前はアリス先輩というらしい。
変わった名前だというと、先輩は笑った。

「そうかな?私の方では割と普通の名前だよ?」

先輩のいう、私の方、という言葉に違和感を覚えたが、
見た目からして日本人ぽくもないし、海外の方の出身だと勝手に決めつけた。

「先輩は、何でいつも屋上にいるんですか?」

弁当を食べながら、何気なく聞いてみた。
先輩はとんっと、俺の胸をつつくと、笑った。

「君と同じだよ。教室に居場所がないから、ここにいるの。」

相変わらずからかうように笑う先輩は、実年齢よりも幼く、可愛く見えてしまう。
それが自分でもよく分からなかったが、何だか切なく感じた。

「先輩ほどかわいい人でもぼっちなんですね…」

「失礼だなぁ…って、か、かわいい!?」

先輩は最初こそがっかりとした様子だったが、すぐに顔を赤らめ、誰が見ても恥ずかしがっているのが分かった。

「先輩、顔真っ赤ですけど…」

「そ、それは、ほら、か、かわいいなんて、直接言われるの、何か恥ずかしいし…」

顔を隠すように先輩は俺に背を向けてご飯を食べ進める。
背中が微かに揺れるのを見ながら、俺も弁当を頬張った。


「では明日から夏休みだから、けがとかには十分注意するように。」

先生のシメの言葉を最後に、全員が立ち上がり、いつものように挨拶をする。
散り散りになっていく中、数人が俺に声をかけてきた。

「前田くん、夏休み中に遊びに行かない?ほら、この辺知らないこと多いでしょ?案内するよ!」

「ほんとに?ありがとう。」

クラスの中でもよく話す、割と誰にでも好意的な男子が俺に声をかけてくれた。
連絡先も交換し、また日程は後日ということになった。
何だか無性にそのことを先輩に報告しに行きたくなった。
今日は半日で終わりのため、屋上にいる可能性は低かったが、何故か先輩はいる気がした。
荷物をまとめ、屋上への階段を一段飛ばしでかけていく。
扉を開ければ、いつも以上に暑い風が、全身を包んだ。

「もうしまっちゃうよ。」

扉の上、屋上のさらに一番高い所に先輩は腰を掛けて座っていた。

「先輩、俺、夏休みに遊びに誘われました!」

「ふふっ、小学生みたいな報告するね。」

先輩は俺を見下ろしながら、くすくすと笑っていた。
先輩に言われて、我に返り、確かに小学生みたいな報告だと、ちょっと恥ずかしく感じた。

「教室に居場所、出来るといいね。」

「はい…先輩、ありがとうございます!」

そんなやり取りをしているとき、校内放送で校門が閉まる旨の声が聞こえる。

「私、荷物取ってから帰らなきゃ。じゃあね、前田くん。」

先輩は上から軽やかに飛び降りると、予兆も何もなしに、俺の頬にキスをした。
驚いた俺をそのままに、先輩は校内へと戻っていった。


「前田先生、どうされましたか?」

同僚の声にふと意識を戻す。
どうやら終業式が終わっていたようで、担任はクラスに戻るよう促されている様子だった。

「あぁ、すみません…ちょっと、昔のことを思い出してまして…」

「ふふっ、前田先生でも、そういうちょっとお茶目なところもあるんですね。」

同僚に笑われ、少し気恥しくなり、頭を下げて、自分のクラスの方へと急いだ。
結局、あの夏休みのやり取りの後、アリス先輩に会うことはなかった。
それどころか、3年の教室にいっても、アリスという人物は何処にもいなかった。
夢だったのか、何だったのか、とても不思議な体験をしたと、今でも思っている。

「本当に、太陽の神様だったのかな…」

ぼんやりと、あの時の先輩の笑顔を、思い出す。
決して忘れないだろう、俺の初恋のことを。

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