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千軍万馬と侍女人形 (短編小説)

※本短編小説はVRChat内スクショを元に作成したフィクションです。
 実在の人物や団体などとは関係ありません。

★きっかけとなった序文
・かつては戦争で名を馳せた女性騎士団だったが、戦争が終わりを告げた後、国を追われ、身を隠すしか生き延びる方法がなく、親族関係のある貴族の養子と、そのお付として、国から離れた場所で生活しながら、時々来る暗殺者を闇に乗じて切り捨てる
・祖国の裏切りで人間不信になり復讐心を燃やす元騎士と、絶対忠誠を誓う双子お付

★登場人物
隊長 サブリマ・チャーブル
双子 ジェメグホム・チャーブル
   ツイルフェン・チャーブル
叔父 アノウド・ガーテクター

乾いていた。
この世のありとあらゆるものが。
地面は割れ、空気は荒れ、人は倒れていく。
何が正義で、何が大義で、何が正解かもわからない世界。
出来ることは、剣を握り、目の前の敵を切り裂き、
血をすすって生きることだけだった。

「隊長、指示を。」
「…、全軍、突撃!」

私の声に合わせ、私の部隊が動く。
女性しかいない、異例の部隊。
それを女性の私が率いることが、アピールになるらしい。
誰へのアピールなのか、何のためのアピールなのか、気にはならなかった。
私には、それしか道がなかったから。

「敵、射撃攻撃あり!隊長、策は?」
「前衛、盾を構えつつ前進!鎧もある、死にはしない!恐れるな!
 後衛、前衛の隙間から射撃用意!」
「はい!!」

目の前で幾度も見てきた光景。
敵が死に、味方が死に、苦しみの声が耳に響く。
つんざくような悲鳴や、痛みにもがくうなり声。
一つとして同じものがない、死の声。
何に対してなのかわからないが、歯を食いしばる。
これしか、本当に方法がなかったのか。

「敵、前線後退!」
「全軍、前進!敵を殲滅せよ!」
「はい!!」

私の声で命を燃やす彼女たちに、他に道はなかったのだろうか。
命をかけずに、生きていく方法はなかったのだろうか。
平和な世界など、本当にあるのだろうか。
迷う隙など与えられない程、日々が過ぎていく。
死が迫ってくる。

「敵、正体不明の機械に搭乗、何やら戦況がっ!!」

報告の声と共に、大きく吹き飛ばされる。
得体のしれない遠距離攻撃を受けたのだと、瞬時に理解した。

「総員、撤退!態勢を立て直す!」

私の声に、答えるものは少なかった。
それが意味するものが何なのか、理解するのに時間はいらなかった。




「敗戦、ですか…」

新型兵器、戦車というものにより、小規模国家であった自国は、降伏した。
戦車に立ち向かえるほどの技術も、資材も、人も、何もかもがなかった。
勝ち筋など、何もなくなってしまった。

「あぁ…我が国は、かの国に吸収される。私も、これで最後だ。」

そう告げると、首相は目の前で拳銃を構え、自分の頭に押し付けた。

「今までありがとう。」

一発の銃声と、それに呼応するように飛び散り、床を染め上げる血。
戦場で見たものとは、同じもののはずなのに、違って見えた。
机には、処刑者リストが置かれていた。
あの方の、最後のあがきだろう。
私はそれを手に取り、敬礼を一つ、捧げると、部屋を出た。
が、運の悪いことに、既にかの国は我が国の中枢部へと出入りしていた。

「あっ、あの人です!第〇部隊隊長の…」
「あの女を捕らえろ!!」

かつての守るべきだった国民は、既に向こう側だった。
命をとして守ったもの、それらが突然自分に牙をむいた。
何の礼も、何の配慮も、何もない。
彼らからすれば、私たちはもう野蛮な敵なのだろう。
売ることに、何のためらいも感じなかったのだろう。

「これが、結果か…」

胸にこみあげる何かを抑え、階段側へと走り出した。
行く手を阻むものは少なく、私の進行を止めること叶わず、私は外に出た。
当然、外にもかの国のものがあふれている。
止まるわけにはいかなかった。
まだ救える命があることを知っているからだ。

「これが最後の戦場だ!」

使い慣れた剣を構えると、その軍団のど真ん中を走り抜けた。




「おい、起きろ。」

軍事医療室にいる二人に声をかける。
あの戦争時に生き延びたうちの二人だ。
既に外は暗く、自分の体にも疲労が溜まっているのが明確に分かる。

「「た、隊長!ど、どうされたのですか!?」」

二人は私の姿を見て、驚きの声をあげた。
こんな時までシンクロするとは、さすがの双子、といったところだろうか。
鎧を身にまとっていなかった私に、銃撃戦をかいくぐるだけの
超人的な体術などは持ち合わせていない。
いくらかの弾を受け、血があふれ出しているのは、
自分が一番よくわかっている。

「私のことはいい。いいか、よく聞け。我が国は負けた。
 逃げなければ、私たちに待っているのは死刑のみだ。」
「そんな…」
「幸い、ここは中心部から離れている。
 発見までに多少の余裕はあるだろう。
 だから、お前たち二人は、ここに行け。
 私の名前を出せば、匿ってくれる。」

懐から、一枚の紙を取り出し、彼女たちに渡した。
それは私の遠縁の住んでいる場所と名前。
あの辺りでは、名のある貴族だという話を、昔聞いたことがある。

「た、隊長はどうするのですか?」
「この傷だ、長くはもたない…ここで死ぬ…」
「そんな…だめです、隊長!」
「そうです!私たちを救ってくださった隊長が、
 こんなところで死ぬなんて…」

二人は涙ながらに私に答えた。
この二人は、小さいころから私が育てた、いわば娘にも近い双子だ。
だからこそ、何としてでも救いたいと願った。
処刑者リストにはいくつか名前があった。
その中でも私の部隊に関する名前は三つ。
私、そしてこの子たちだ。
おそらく、他の仲間は既にこの世にはいないのだろう。
隊長失格だ。

「神様なんて信じないが、お前たちの元にたどり着け、こうして最後に会えた、それだけで、私は十分だ。いけ。そして、生きろ。」

その後、彼女たちの声が聞こえた気がしたが、その時には、私の意識は既に途切れていた。




悲痛な叫びが聞こえる。
幾度と聞いた死の声だ。
私を恨む、隊員の声なのかもしれない。
そうか、私もいくのか。
あの二人は無事にたどり着けただろうか。
幸せに生きてくれるだろうか。
戦うことしか知りえなかったあの子たちは、
それ以外を知ることができるだろうか。
後悔がないわけではない。
自分の娘のように面倒を見てきた二人の、成長した姿を見届けたかった。
平和になった世界で、戦いを忘れて生きてみたかった。
部隊全員で、笑顔で食卓を囲みたかった。
忘れていたはずの涙が、頬をつたった気がした。
すると、声が聞こえてきた。

「「隊長!!」」

声に驚き、目を開けた。
知らない天井。
どうやら、あの世ではないらしい。
ということは、声の正体は分かる。

「ジェメグホム、ツイルフェン…」
「隊長、良かった…」
「生きてた…」

二人が私の上で泣いているのが分かる。
感覚が鈍いのは、おそらく体があまりいい状態ではないからだろう。

「サブリマ。」

少し離れたところから声がした。
久しぶりに聞いた声だ。

「お久しぶりです、叔父さん。」
「叔父さんと呼ぶのはよしてくれ。まだそんな年じゃない。」
「ふふっ、ごめん、アノウド。」
「その呼び方も…いや、まあいい。とにかく、生きててよかった。」

泣きべそをかきながら私から離れない二人と同じくらいの距離に
アノウドが来る。

「私は、どうなんだ?」
「辛うじて生きてる、という状態だ。一応うちの医者に見せたが、
 元々ガタがきていた身体に複数の銃弾を浴びたせいで、
 筋肉やら骨やらがいかれているらしい。
 よくこの状態で動いていたと、ほめていたぞ。」
「この子たちを迎えに行くので必死だったんだ。よく覚えていない。」
「なるほど。
 で、これからだが、まず第一に、今までのように動くことは困難らしい。
 まぁ戦うことも無くなったんだ、影響は少ないだろう。
 普通の生活を送る分には問題ないくらいには回復するらしいからな。」
「なら大丈夫だろう。」
「それと、お前をうちの養子として受け入れることにした。
 もちろん正規の方法じゃない。名前がばれると面倒だからな。
 その二人はどうする?一応、お前の娘としても登録できるが…」

アノウドのその言葉を聞いて迷った。
もし私の子供としたとき、私に何かあったときにこの子たちまで
巻き込んでしまいそうだと。
そうならないよう、アノウドの子供としても良い気がした。
それもそれで、巻き込まれそうだが。

「まぁそちらに関してはすぐに決めなくていい。
 一応、扱い的にはうちの侍女ということで登録しておいた。
 といっても、何かしてもらうわけではない。
 自由にしてもらって構わない。」
「あ、ありがとうございます…」
「隊長を助けていただいた上に、そのようなことまで…」
「あー、かたっくるしいことはやめてくれ。
 こいつは妹みたいなもんなんだ。
 そんな奴が困ってるなら、助けるのは当然だからな。」

アノウドは珍しく照れているのか、顔を少し赤らめているのが
横目に見て取れた。

「しばらくは安静に、かつ、外にもあまり出ないようにしてくれ。
 嗅ぎまわってるやつらがいるかもしれない。
 必要なものがあれば家の誰かに声をかけてくれ。手配する。
 君たちは、この部屋で寝るかい?それとも別部屋がいいかい?」
「「この部屋で!」」
「わかった、後で布団を用意しよう。
 サブリマ、二人にはこの辺りの状況も含めて色々伝えておいた。
 聞かせてもらうといい。」

アノウドはそう告げると、部屋を後にした。

「隊長、ほんとに、ほんとに生きているんですよね?」
「あぁ、こうして話せるくらいにはな。」
「よかった…」
「それで?アノウドから何を聞いた?」
「はい!報告します!」
「もう戦争は終わったんだ、かしこまらなくていい。」
「わ、わかりました…」

二人とこうして話せる、それだけでまた涙が滲んだが、
まずは状況を把握しなければ動けない。
二人の言葉に、私は耳を傾けた。




あれから一か月弱が経とうとしていた。
リハビリの甲斐もあってか、ひとまず松葉杖ありで
庭園を歩き回れるくらいには回復した。
担当医からは信じられないと驚かれたが、
むしろ遅いくらいだと自分で感じた。
あの子たちのために、出来る限りのことをする。
そして、私たちを裏切った、かつての私たちの国に復讐をする。
固く、心に刻み付け、そのために体を動かせるだけ動かすと誓った。

「サブリマ様、見てください!」
「サブリマ様、こっちも!」

二人は私が回復するまで、侍女の仕事を学び、この環境に適応していった。
それは私を助けたこの家への恩返しの心と、
私のためにできることをしようという思いからだろう。
嬉しく思う反面、もう少し、自由に生きてほしいと願うのは、
私のわがままだろうか。

「綺麗な花だな。お前たちが世話したのか?」
「そうです!こっちは、私がお世話した子たちで…」
「こっちは、私がお世話した子たちです!どっちが綺麗ですか?」
「うーん、どちらも綺麗だから、難しいなぁ…」

花に囲まれた二人は年相応、とまではいかないが、
戦争がなければこうなっていただろうと、
そう感じるほどに、幼げに見えた。
結局、彼女たちは私の養子とした。
そのほうが、私が守ることの意思が固くなると思ったからだ。
もちろん、何か不都合が起こることも考え、彼女たちに確認したが、
二人とも快諾してくれた。

「さて、手始めに、手に職をつけねば…何がいいかな?」

二人は顔を見合わせ、そして、悩んだ。
一番近くで私のことを見てきたとはいえ、戦うところ以外、
私自身何ができるのか、全く見当もつかない。

「試しに、うちの経理でもしてみるか?
 経済を知ることは国を知ることにもなる。
 お前のことだ、自分の国をどうにかしたいと思ってるんじゃないのか?」

何処かへ出かけていたのか、
車から降りてこちらに近寄るアノウドがそう告げた。

「復讐だぞ?そんなことのために手を貸していいのか?」
「知ったことか。私は私だ。最悪、お前を売れば私は被害なんてない。」
「薄情なことで。」

アノウドはそうは言うものの、いざとなったときは
今回のように助けるつもりであることを、私を含め、理解している。
そのため、花を持ちながら彼女たちと一緒に、笑った。

「何かおかしいことでもあるのか?」
「いや、何もおかしいことはないさ。アノウド、頼む、教えてくれ。」
「あぁ。明日にでも、詳しいものを連れてくる。
 せいぜいおとなしく、頑張ってくれ。」

アノウドはそう告げると、屋敷の中に戻っていった。

「お前たち、手伝ってくれるか?」
「「もちろんです!」」




「いかがですかな?」

アノウドが連れてきた男に教わりながら、経理をこなそうと勉強を始めた。
勉学については、一応こなしてはいるものの、やはり苦手意識の方が強い。
しかし生きていくためであり、そのための目的のためであるため、
投げ出すことも、中途半端にすることもしたくない。

「ここの項目についてですが、
 こちらの資料からこのように考えられるかと。」

分析、対策、それによる金の動き。
戦場と違うはずなのに、どこか、戦場と似たような思考もできる。
何も役に立たない、なんてことはなかったのだ。
今までの生活だって、こうして役に立つことだってあったのだ。
しばらくいくつかの言葉を交わし、理解を深めていると、
扉をノックする音が聞こえた。

「時間でございます。下に車を用意しておりますので、ご準備を。」
「おや、もうそんな時間か。すまないね、サブリマさん、また来週に。」
「えぇ、ありがとうございます。」

立ち上がり、頭を下げて彼を見送る。
ジェメグホムが彼を下まで送るのを見届けると、
ツイルフェンがいつの間にか飲み物を用意していた。

「戦争じゃないんだから、足音消すのを直しなさい。」
「す、すみません、つい癖で…サブリマ様、どうですか?
 経理、というものは…」
「うん、難しいが、理解は進んでいる。
 今後、どうすればいいのかも、具体的に見えてきた。」
「そうですか…」
「なに、そんな不安そうな顔をするな。もう血を流す戦いはごめんだ。
 それに、お前たちも巻き込みたくないしな、慎重に動くよ。」
「それを聞いて安心しました。」

ツイルフェンは慣れた手つきで紅茶をカップに注ぐと、机に置いた。
私も、いつの間にかそれを当たり前のように感じ、口に運んだ。

「この後はお食事にしますか?それともお風呂にしますか?」
「そうだな、夕飯には少し早い、先にお風呂に行くよ。」
「承知しました。タオルと着替えはバスルームに用意しておりますので、
 ごゆっくりどうぞ。」

ツイルフェンは軽くお辞儀をすると、部屋を後にした。
戦場で見ていた彼女とはまるで別人のように感じるほど、
精錬された動きをするようになった。
その点で言えば、ジェメグホムは、
まだ荒っぽさが残っているようにも感じる。
双子でも、違いはあるようで、私は少しほほえましく思った。




「すっかり遅くなってしまった…」

あの後、自己学習として借りた本を読んでいて、
気付いたら日を跨いでいた。
小腹がすいて寝つきが悪かったため、何かないかと調理場に足を運んだ。

「確か、ジェメグホムがこっそり隠している夜食がこの辺りに…」

別に盗み食いをしようというわけではない。
ジェメグホム本人が、ここに隠しているから、
お腹が空いたら食べていいと、そう教えてくれたのだ。
二人だけの秘密と、本人はニコニコしながら教えてくれたのだから、
活用しないほうが逆に悪い気がした。

「これは…缶詰と、乾パンか?ふふっ、軍人みたいだな。」

懐かしく思いながら、それを手に、部屋に戻ろうとした。
しかし、途中で、窓の外に違和感を感じた。
誰かがいる。
それに、私を見ている。
ある程度身体は動くようにはなったものの、
まともなやり取りは出来る身体ではないし、まして訓練もしていない。
今襲われるのは危険だ。
出来る限りの速さで、松葉杖を動かし、部屋に急いだ。
部屋なら籠城ができる。
異変があれば、誰かが気付く。
それに期待する他なく、足を動かした。
もどかしい。
あれほど自由に動いていた足が、こうも動かないとは。
焦る気持ちと反するように、足はもつれ、その場に倒れこんでしまう。
瞬間、窓ガラスが音を立てて割れ、人が入ってきた。

「くっ…」

黒に身を包んだ人、おそらくは暗殺者だろう。
何処かで気取られていたのか。
それは私の正確な位置を補足すると、小刀を片手に、走り寄ってきた。
が、その小刀は私に触れるよりも前に、金属の何かと衝突する音を奏でた。

「ご無事ですか、隊長!」
「ジェメグホム!」
「ちっ…」

それは暗殺に失敗したためか、すぐに小刀をしまい、
割って入った窓から外へと飛び出した。

「逃げるぞ!」
「大丈夫です、隊長。」

ジェメグホムの答えに呼応するように、外から悲痛な声が聞こえた。
その答えは、何となく察することができた。

「…、いつからだ?」
「隊長が起きてから、しばらく後くらいからです。
 隊長はここ最近、お疲れでしたし、私たちのお願いで、
 あの部屋は防音性が高いのです。」
「アノウドも知っているのか?」
「はい。アノウド様は夜はここにはいらっしゃいません。
 そのようにも、お願いしています。」
「すまない、私のせいで…」
「いえ。私はどっちかというと、普段の仕事よりこっちのほうが
 好きですから。」

自由に生きてほしいと願っていたはずなのに、
結局は私のために二人を縛り付けていた。
不甲斐ない気持ちと同時に、かつての自国に対する怒りは増した。
真の平和を、真の自由を私たちが獲得するためには、
かの国を滅ぼさなければいけない。
決意固く、怒りを燃やし、夜空に薄っすら輝く月を睨みつけた。

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