旅路 第二話「機械の街」(小説)
「もう少しで見えてくるはずです…」
「そうですか。サンが過ごしやすい街だといいのですけど…」
眠っているサンをイチがおんぶしながら、荒廃した土地を歩き続ける。
あの雨の日から二日ほど経とうとしている。
食料はもってあと一日分。
サンもまともに寝れていないせいか、体力の消耗が激しいと、ニイが診断した。
「イチ姉…?」
「あら、起きちゃった?もう少しでニイの仲間がたくさんいる街につくから、それまで寝てなさい。」
「ニイ兄の、友達?」
「正確には、同系統のロボット、というのが正しい。あぁ、分かりやすく言えば、親戚、というのがいいのだろうか…とにかく、私と似たようなロボットが複数いるのは間違いない。」
「ニイ兄の、家族…?」
「ふふっ、そうかもしれないわね。」
「イチさん、からかわないでください…」
「あら、珍しく困るニイさんが少し面白くて、つい…」
クスクスと笑うイチに安心したのか、再びサンはその背中で眠りにつく。
顔がないものの、困惑した様子のニイは、サンが目を閉じると、何とも歯痒い状態のまま、歩みを進めるしかなかった。
「あれかしら…」
「信号を確認…間違いない、あそこです。」
しばらく歩いた後、視界の先に街のような、何かが現れた。
倒れたビルや建物の残骸を組み合わせ、塀のようなものが周りを覆う、街のようか区画が目に留まる。
その中には、いくつかのロボットが、まるで在りし日の人間のように、行き来しているのがわかる。
「とりあえず行ってみよう。危険はないと思うが、一応…」
そういうと、ニイは背中に付いていた戦闘用ユニットを待機状態にした。
しかし、それを見たイチは首を横に振った。
「それではサンが危険になる可能性が高いわ。お願い、解除して。」
「…、承知した。」
イチの言葉に待機状態を解除し、歩みを進めた。
「よう、兄弟。」
街の入り口には警備のためか、ロボットが複数機待機していた。
おそらくあちらもニイの信号を随分前から感知していたのだろう、特に警戒している様子はなかった。
「兄弟、というのは適切ではない。私たちは同じ系列の…」
「あー、堅苦しい話は今は無しだ。それより、そこのお嬢ちゃん、早く医者に見せたほうがいいんじゃないか?」
門番らしきそのロボットは、イチに背負われて寝ているサンを指さした。
「戦場用だが、医療系ロボットがこの街の奥にいる。ロボット相手には役に立たないから、暇を持て余してるはずだ。行けば薬なんかもあるらしい。」
「すまない、感謝する。」
「ありがとうございます。」
「いや、礼には及ばない。兄弟の大切な家族だからな。ただ、ここに長居するのは避けた方がいい。人間には、ちと厳しい環境だからな。」
そういうと、門番はニイの方を見つめた。
ニイも何かを察したのか、門番の方を見つめる。
微かな電子音が二人からすると、ニイは少し俯いた。
「どうしたの?」
「いや、今この街のデータを…詳しいことは後で話そう。ひとまず、サンを医者に見せよう。」
「そうね。では、ありがとうございました、門番さん。」
二人は門番に頭を下げると、街の中へと入っていった。
街の中は外から見た様子と同様、様々な瓦礫を組み合わせて建物のようなものがいくつかできている。
しかし、というか、案の定、というか、街中を歩くのはロボットのみで、人間は一人も見当たらない。
「やはり、門番さんのいう通り、人間は住めないのかしら。」
「あぁ。この街に人間が滞在できるリミットは、長くて三日らしい。この街は元々放射能汚染された土地のようで、この街にいたロボットが除去を行ってはいたが、完全に除去することは出来なかったらしい。何でも、除去の途中でそのロボットが壊れてしまい、作業できるものがいなくなってしまった、という記録がある。」
「そうなの…でも、これだけいたら、直せそうなロボットとかもいるんじゃないの?」
「残念ながら、そのようなロボットは開発数が少ない。元々私たちは使い捨てのようなもので、壊れたら新しいものに作り替える、というのが当たり前だった。戦場で直すのは非効率的だという理由もある。」
「それじゃあ…」
「あぁ、心配しなくてもいい。私は当時の最新型、多少の故障なら自分で修理できる。それに、実践投入もされなかった、ただの試作品だ。新品とほぼ変わらず、耐久年数は人間よりはかなり長い。」
「よかった…サンを一人にはできないもの…」
「しかしイチさん、君の方が…」
「私は、人間ではないもの…」
イチは悲しそうな声で、そうつぶやいた。
ニイも、それ以上は何も言わなかった。
二人はそのまま、何も言葉を交わすことなく、街の奥の方へと歩き続けた。