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インタビュー/利府おもて梨園


01.宮城県利府町の梨農場へ

今回で4回目を迎える生産者さんへのインタビュー。
4回目を迎える本日は、宮城県利府町にある近江貴之さんの梨農園へと足を運びました。
高速道に乗り、名取から車を走らせること約20分、梨農園へ到着しました。

車から降りると地平線まで続く緑豊かな梨の木が目の前に広がっていました。

一面に力強く根付く梨の木

そこで出迎えてくれたのが利府の”梨王子”こと近江さんと、近江さんが講師として参加された講座会の生徒さんでもある、小倉夫妻。

今日は近江さんと小倉夫妻3人で梨の花への人工授粉を行うとのことで、まずは受粉に使用する花粉交配機を拝見させていただくことになりました。

02.人工授粉の様子を拝見

ノズルの先端にはふさふさとした鳥の羽がたくさん付いています。羽と羽の間から360度花粉が噴射され、梨の花を撫でると傷つけることなく優しく雄しべに花粉を届けることができるそうです。
こちらの交配機の名称が「ラブタッチ」。思わずクスッ…としてしまう名称。どうしてこの名前を付けたのか開発者に聞いてみたいところですが、早速人工授粉の様子を拝見させていただくことになりました。首からストラップをかけ、腰にベルトを巻き、近江さんは慣れた手つきで作業を開始。

花粉交配機「ラブタッチ」
先端についた鳥の羽の束から花粉が噴射
優しく花を撫でます

梨農園はビニールハウスではないため、蜂に花粉を運んでもらう自然交配よりも確実にヒットさせて大きな梨に育てることができる、人工授粉という手段を講じています。
ただ、雨や強風など、天候にも左右されてしまうそう。本来は気温25度以上が理想ですが、生産が間に合わなくなることを懸念し、15度以上かつ風が少ない日を選んで作業をされています。
天気予報とのにらめっこも生産者さんの大事な仕事なのだということがこれまでのインタビューでも分かります。

03.大企業勤めから梨農家へ転職したワケ

作業をしながら淡々とお話ししてくださる近江さんに、なぜ農業を始めたのか聞いてみました。
元々、東京でサラリーマンをしていた近江さん。聞いてみると誰もが名を知る通信系の大企業の係長として、販売企画などの業務に携わっていたそうです。大企業で築いてきたキャリアから心機一転、梨農業へと転職することになったのです。
そんな大手からなぜ経験ゼロの農業に?と思う方もいるでしょう。
「通信事業は結果が目に見えにくく、自分の裁量権に限界があると感じるようになりました。」と近江さんは話します。「自分自身の手で物創りをして商売をしたい。そして誰かに喜んでもらえるような仕事をしたい。」そんな想いから、転職を考えるようになり、地方創生イベントで利府町のブースを訪れた際に、梨の生産や地域おこしをする仕事の募集を知ったことがきっかけで宮城へ帰ることを決断しました。
まずは利府の「地域おこし協力隊」として3年9ヶ月梨の生産に取り組むことになりました。

地域おこし協力隊とは人口減少や高齢化等の進行が著しい地域において、都市部の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、地域力の向上及びその地域への定住・定着を目指す取り組みです。
そんな地域おこしで、手をかけた分だけ立派な果実となる梨に魅了された近江さんは、これからも継続して梨栽培を担う知恵と経験を積んでいきました。

今もなお問題視されている高齢化、後継者不足の問題から減少していく利府の梨農家。そこで高齢のご夫婦の梨農場を受け継ぐ形となり、2023年4月、ついに独立することに成功したのです。

3月〜4月にかけて咲く梨の花
春の訪れを告げるよう力強く咲いていました

「手を加えれば加えるほどいいものができ、梨を食べたお客さんから「おいしかったよ」と言ってもらえることが何よりも嬉しいです。自分の裁量で成功させることができていると感じます。そういった部分が自身のモチベーションに繋がるんです。」とお話ししてくださった近江さんですが、もちろん大変なこともたくさんあります。

04.やりがいと苦労は表裏一体

低い梨の木に対して高身長なため、腰をかがめて作業するのはやはり身体への負担があるそうです。また、朝は収穫、夜は発送作業に追われ、時期によっては無休での労働が当たり前の世界。「フィジカルの面で苦労することはやはりありますね」と話す近江さん。

梨の木よりも背の高い近江さん

また、食物相手・自然相手のため天候に左右されたり、害虫や鳥の被害など人間の予想しない部分での苦労も絶えません。
「大変なことも多いけど、やりがいと苦労は表裏一体なんですよね。」
独立して全て1人で担わなければならない責任は大変だけど、その分やりがいも大きいとお話ししてくださいました。
どちらかの存在が欠けたら成立しない”やりがいと苦労”。達観した視点で物事を考える姿は、近江さんのこれまでの経験と知識を経て得られるものなのだなと感じました。

また、「学生の頃はデスクワークに憧れていたのですが…価値観は変わりますね」
涼しげな笑みを浮かべながらそうお話しする近江さんでした。

05.近江さんの挑戦

そんな近江さんは利府梨を使った梨カレーも展開しています。
梨以外の野菜もできるだけ利府町の農家さんから直接仕入れしたものを取り入れるこだわりぶり。すりおろした梨と7種のオリジナルスパイスが調和した、世界に一つだけのカレーだそうです。「数少ない利府梨を一つも無駄にしない」「全国の皆さんに食べてもらい利府梨のPRをする」というコンセプトで、規格外の梨を有効活用すべく積極的に活用しているそうです。

高齢化が進む利府の農家により、町の魅力を十分にPRできていないことにもどかしさを感じた近江さんは積極的に自身のSNSで梨への想いやPR活動を進めています。
「利府梨のブランド力と価値を高める取り組みをしていきたい」と話す近江さん。
そんな近江さんの想いを乗せて、今後ナチュリノでもジェラートを通して利府梨の魅力を発信していければと思います。
近江さんが育てるたくさんの梨が収穫できる時を楽しみに待ちたいですね。


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