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転校生

 生意気な彼女だった。彼女は札付きの不良少女であまりにも素行がひどいために東京からうちの市の中学に強制転校させられたと噂があった。おそらくそれは真実だろう。うちの市は東京の一部の区と隣接しており、強制転校は頻繁に行われていたのだ。東京出身の彼女はひどく大人びていて、私達をただの田舎者と馬鹿にしていた。特に同じクラスの私なんか、髪型から何までダサいと嘲笑されていた。彼女の素行はウチの中学でも全く治ることがなく、授業中に車で学校に来た彼女の不良仲間と授業をほったらかして遊びに行ってしまったりした。だけど私が彼女を嫌いだったかと言えば実はそうではない。むしろ憧れていた。親からやれ受験だと強制的に塾に行かされていた私にとって都会育ちの彼女はあまりに眩しかった。出来たら友達になりたい。そう思って恐る恐る近づいてはみたものの、やっぱり気後れしてなかなか声をかけられなかった。だけどある日彼女から声をかけてきたのだ。多分あまりにも私が彼女を付け回したせいだろう。なんでコソコソ人を付け回すの?って彼女はいきなり私に凄んできた。なので私はあなたと友達になりたかったからと正直に答えたのだが、彼女はそれを聞いて思いっきり笑った。だけどその件がきっかけでお互いガードが取れたみたいで、私と彼女は度々校舎の裏側でタバコを吸いながら互いのことを話し合った。私は彼女に自分の夢を語った。私は実はイラストレーターになるのが夢で、美大に行きたかった。彼女はそんな私の幼い夢を鼻で笑ったけど、いつも彼女はそうだったから別に気にはしなかった。ある時私は彼女にこういったことがある。私がイラストレーターになれたらあなたのポートレートを書きたいのって。彼女はそれを聞いていつものように私を嘲笑してこういった。

「ああ、いいよ!あなたがイラストレーターになったら私モデルになるよ。何ならヌードになってもいいよ」

 数年後、親の反対を押し切って美大に入った私は学生時代にコンクールに出展した作品が注目されて卒業と同時にイラストレーターになった。私はこれでやっと彼女が描けると思って嬉しくなり、その勢いで彼女に電話をかけた。

「私イラストレーターになったの。だから約束は守ってもらうよ。ヌードだってなんだって描いちゃうからね!」

「凄いね!本当にじゃあ約束通りあなたにイラスト描いてもらうよ。場所はどこがいい?」

「ちょっと遠いけど私のアトリエに来てくれない?」

「いいよ」

 久しぶりに合う彼女はどうなっているだろう。不良少女なんて卒業してエレガントな大人の女性になっているんだろうな。と私が彼女を待つ間ずっと物思いに耽っていると、アトリエのドアのベルが鳴った。私は彼女だと思って嬉しくなってドアを開けた。

「ほんれ、ひさすぶりだなや!ほんれ、おら中学のとぎの不良処女だなや。なに目さパチクリさせてるだ。オラ、中学卒業すて茨城の彼すの嫁っ子になったんだべさ。ほれ、はやぐオラかけてけろ!そすてモデル代はやぐよこぜ100万円だべさ!」

 私の目の前には昔のあのクールな不良少女の面影などどこにもないただの農家のおばさんが立っていた。おばさんは私に両手を出してはやぐおらのモデル代さよこせとせっついている。私は彼女に向かってこういった。

「あの、あなたどなたです。私イラストレーターじゃなくて画家ですよ。イラストレーターさんならここから100キロぐらい離れた所にいますので探してくださいね」


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