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《長編小説》全身女優モエコ 第五話:文化祭

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 モエコの生活それからしばらくは変わらなかった。相変わらず学校ではひとりぼっちで過ごし、学校が終わると、相変わらず男達の家で一緒にテレビを観て、そして金をもらうために(嗚呼!モエコは自宅にテレビを購入した今となってはわざわざお友だちの家にテレビを観に行く必要などなかった。今男の所に行くのは純粋に金のためだけだっだ!)町まで歩いて行くのだった。時は移ろい、夏は秋に変わり、緑が紅葉に変わり、人は厚着を着始めていき、とうとうモエコの小学校最後の文化祭の日が近づいてきた。

 とはいっても今まで文化祭なるものに関心など持たなかったモエコである。彼女は文化祭など素知らぬ顔で、放課後に居残って文化祭の出し物の稽古をする同級生を尻目に、さっさと下校して、お友だちたちとテレビを観るために町へと出かけていた。

 そうしていつものようにモエコは男達の中の、今日会う予定だった例の地主の息子の家まで行って、早速彼の家の門を叩いたが、うんともすんとも反応がなかった。頭に来た彼女は早く出てこいと蹴りまで入れたがそれでも返事すらなかった。激しやすい彼女は、せっかくきてあげたのにこの扱いなに?と激怒して、当てつけに他の2人のお友だちの家に向かったが、何故か彼らも家に不在で、頭にきた彼女は三人の家の門に『二度とおまえの家なんかこないからな!』と張り紙を貼って、それきり彼らの家に行くのをやめてしまった。

 とりあえず手持ちの金は有り余るほどあった。貰った金は両親にほとんど分取られたが、残りのはした金でさえ小学生にとっては十分過ぎる金額であった。だからしばらくは男達の家にはいかなくてもよかったのだ。

 彼女は男達の家に行かなくなると時間が余り退屈してしまった。テレビドラマを観ようにも、この時間帯に彼女が毎日観ていたドラマはすでに終わっており、今は退屈なバラエティ番組に変わっていたので、テレビを観る気もなくしていた。おまけにあの両親がいる。

 両親は彼女が金を出すようになってからすっかり態度が変わった。彼らはモエコに媚び出すようになったのだ。モエコが学校に行く時は何故か家の前まで見送り、また夕方よろしくねと、下卑た笑いを浮かべて送り出すのだった。そしてたまに学校からまっすぐ家に帰ってくると、両親は急に心配そうな顔になり、今日はお友達んとこ遊びに行かないんかね。と真顔で聞いてくるのだった。


 家にも帰る気が起きず、ただ学校の体育館の周りをプラプラしていた彼女は、クラスメイトの声が体育館から聞こえてきたので足を止め、体育館の窓から中を覗いた。そこではクラスメイトが文化祭の出し物のお芝居の稽古をしていたのだ。

 担任と何人かの生徒が床に座り、ステージでは箒を持った女生徒を数人の生徒がいぢめていた。生徒たちは「やーいこの煤っ子!」と囃し立て、そのいぢめにたまらず女生徒は「やめてぇやめてぇ私ばかりなぜいぢめるの?」と棒読みのド下手くそな演技で訴えている。

 モエコはその芝居がシンデレラであることが瞬時にわかった。彼女にとってシンデレラとそのお話は一生の宝ものであった。彼女は幼いころシンデレラの絵本を図書館から借り、読んだ途端にすっかり絵本に夢中になり、挙句の果てに夢中になりすぎて返却期限がきても返さず、これは私のものと未だに肌身離さず持ち歩いているのだ。彼女にとってシンデレラは自分そのものであった。姉たちからから煤っ子とからかわれているシンデレラに、ど田舎の不細工な同級生どもにいぢめられる美少女の自分を重ねていたのだ。

 いつのまにかモエコは体育館の中に足を踏み入れていた。このシンデレラを演じられるのは私しかいない、この煤の中の美少女のモエコしかいるもんか!このど下手くそをスデージから突き落として私がシンデレラになってやる!そう決意しモエコはステージに向かったのだが、同級生の女子たちが体育館に土足で入り、ステージに歩いている彼女を見つけて一斉に囃し立てたのだ。

「うわぁ、本物の煤っ子だ!煤っこ!煤っこ!煤っこ!煤まみれぇ〜!煤っこぉ〜、体育館をくつでよごすなよぉ〜!」

 担任は慌てて、モエコに対する生徒達の野次を止めようとした。しかし、生徒は、「せんせ〜い!いつも体育館にくつで入っちゃいけないって言ってのにぃ〜!なんで煤っこだけ体育館に入っていいの?貧乏だからぁ〜?貧乏で下履買えないからぁ〜?煤っこ!煤っこ!煤っこぉ〜!」とかえって騒ぎ出し、大混乱になってしまった。周りから一斉に野次が飛ぶ中モエコは耳を塞いで蹲み込んだ。そして堪え切れなったのか、とうとう絶叫して体育館から飛び出してしまった。

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