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夜の誘惑者

 夜の誘惑者になれる男なんて限られている。大半の男はそんなを夢を見て一生を過ごすだけだ。そんな夢のBGMには当然KIYOSHI YAMAKAWAは欠かせない。このシティポップ最大の天才の音楽こそ我々哀れな男たちの癒やしになってくれるのだ。KIYOSHI YAMAKAWAの代表曲に『アドベンチャー・ナイト』という曲がある。もうあえてここで語るまでのないほど有名な曲だがこの曲は全ての愛し合う男女と、全ての孤独な男たちに捧げられている。そのどこまでもシルキーなバックの演奏と、そのバックの演奏に乗って歌われる野太いソウルの歌唱はリスナーをたちまちのうちに夢の世界へと連れて行ってしまう。こんな全ての人間を癒やしてくれるような音楽はあるようで実はない。KIYOSHI YAMAKAWAの音楽は誰かを絶対に排除したりしない。全ての人間を包み込むソウルミュージックなのだ。だからKIYOSHI YAMAKAWAの音楽は日本は勿論、海外でも異様なまでに注目されているのである。だから私は今夜もKIYOSHI YAMAKAWAを聞く。しかも今夜は今までのようにYou Tubeではなくレコードでだ。私は中古のレコード屋で胸を高鳴らせながらKIYOSHI YAMAKAWAの『アドベンチャー・ナイト』を買った。あのファンには有名なオープンカーに乗ったサングラスの謎の東洋人が金髪の外人女を侍らせているあのジャケットのやつだ。私は震える手をどうにか抑えながらレコードをターンテーブルに乗せた。何だが初めてアダルトビデオを見るようなそんな背徳的な気分さえ感じてしまう。今プレイヤーの針がKIYOSHI YAMAKAWAのレコードに暑いメスを入れた。まるで処女のようなKIYOSHI YAMAKAWAは歓喜の叫びのような声を上げてストリングスを奏ではじめる。さあ、来いよ。KIYOSHI YAMAKAWAお前のアドベンチャー・ナイトを聞かせておくれ。ストリングスが高揚しついに歌が始まった。

「ああ~♬アヴァンチュール・ナイトぉ♬熱海の夜はぁ~♬」

 私はこの酷すぎるZ級に酷い歌謡曲以下の音源に唖然として思わずレコードを止めて思わずジャケットを見た。なんだこれは!俺はKIYOSHI YAMAKAWAのレコードを買ったんだよな。しかしジャケットはどう見てもKIYOSHI YAMAKAWAのレコードである。

 私は腹が立ち翌日レコード屋に行ってレコードを交換してもらうように言った。しかしレコード屋の親父は私に対して間違ってないとあくまで強弁したのだ。何故だ!と私は怒鳴ったが、そんな私に親父は指を差してこういった。

「最近勘違いする人多いんだよね。いわゆるKIYOSHI YAMAKAWA違いさ。ほらここにレコードのタイトルあるだろ?よく見てみな」

レコードには『シティポップの帝王登場!スティーリー・ダンの完璧さとボズ・スキャッグスの熱いソウルを持つ男が歌う危険な恋のアヴァンチュール!』という帯があり、そしてタイトルにはこう書かれてあった。『KIYOSHI YAMAKAWA:アバンチュール・ナイト』

「アンタみたいに『アドベンチャー・ナイト』のKIYOSHI YAMAKAWAのレコードを買いたがっている人ってたくさんいるんだけどさ。みんなジャケットもろくに見ないで買ってくんだよね。アドベンチャー・ナイトのKIYOSHI YAMAKAWAのレコードなんて十万以上のプレミアがついているのにさ。アンタみたいのがたくさんいるからもう返品なんて受け付けないからね!」

 私は結局レコード屋を立ち去った。私は夜の誘惑者ならぬ昼の徘徊者となり、KIYOSHI YAMAKAWAの『アヴァンチュール・ナイト』を片手に街をさまよっていた。そうしているとだんだん手にぶら下げたKIYOSHI YAMAKAWAの『アドベンチャー・ナイト』に腹が立ってきた。私はとうとうブチ切れてレコードを叩き割って叫んだ。

「お前誰だよ!」



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