全員マスク! 第15話:逆転負け寸前
勇者の誇り、剣の代わりにマスクをはめてジョニーはビルへと向かう。遥カオリこと、キャロラインと育んでいった全員マスクという妊娠八ヶ月なベイビーを守るために。全員マスク!を生まれる前に流産させてたまるか。キャロラインと俺が何度もヤリまくってようやく出来た全員マスクベイビーは絶叫に産んでやるぜ!ダディとママを兼任するジョニー。全員マスクを誕生させて、そのご褒美としてリアルでキャロラインとヤる権利を得るために彼は今会議室へと向かう。
だが会議室の扉は開かない。ICカードをいくらかざしてもロックされたままだ。ロックはロックンロールに回らなきゃロックじゃないぜ。ほら、なに緊張しているの。もしかして童貞さん?ああ!童貞じゃないぜとドアをこじ開けようとするジョニー。だがドアは開かない。お前ヴァージンじゃないんだからそんなに緊張するなよ。さぁ、ゆっくり股を広げて……。
「おい何やってんだよ沢村。お前らの会議室はここじゃないぜ」
後ろからの聞き慣れた声。振り向くとムカつくほど余裕かました宮島ことマーティンの笑み。このクソがここは昨日まで俺ら全員マスク!プロジェクトが使っていた会議室じゃねえか!テメエなんかお呼びじゃないぜ!
「ヘイ、マーティン!テメエこそ間違えてるんじゃねえか?ここは俺ら全員マスク!の会議室だぜ!」
それを聞いたマーティン。いきなり腹を抱えてジョニーを指差しながら激しく笑い出す。
「お前バカか?この会議室は今日から俺たちもういいよマスクが使うんだよ。お前らの会議室は地下の倉庫だよ。まぁもうお前ら全員マスク!は今度の取締役会でめでたく終了だけどな!」
ジョニーは思わぬ事実を知って項垂れる。そのジョニーの前をもういいよマスクのプロジェクトメンバーが次々と通り過ぎて会議室へと入ってゆく。その中には全員マスク!のメンバーもいた。見事なまでの裏切り。まるで関ヶ原みたいな大惨事。石田三成と大谷翔平、いや吉継みたいに裏切られた俺とキャロライン。無数の小早川秀秋たち。共和国の終焉。ナポレオンに踏み躙られた「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の三原則。ああ!今その悲しみジョニーの前を綺麗すぎるにも程がある徳川家康な一ノ瀬エリカ、愛しのエリーが通ってゆく。
愛しのエリー、もういいよマスクを顎まで下げて唇晒しの一大ストリップ。唇だけで男を勃たせる女。ああなんてこったい!キャロラインは唇さえ見せないのにこいつは具まで晒して!エリーはジョニーの前で立ち止まって彼に声をかける。
「あら、沢村くん。いえジョニーって言った方がいいかしら。ジョニー久しぶりね。元気してた?」
野球の九回表で10vs0が200vs10にされたような絶望に沈むジョニー。圧倒的な敗北感に返事さえできない。唇晒しのエリーはそんなジョニーを憐れんで優しく慰める。
「ごめんねジョニー。あなたたちの会議室奪っちゃって。でもしょうがないのよ。会社はもういいよマスクを選んでしまったんだから。あなたたちの全員マスクプロジェクトは来週の月曜日の取締役で正式に廃止が決まるわ。だけど私あなたをこのまま地下の倉庫係に左遷なんてしたくないの。出来たら私たちのもういいよマスクのプロジェクトメンバーに入れたいと思っているの。あなたが作った全員マスク!のロゴ。あれは最高だったわ。あなたはあんなブッチャーの下にいるべき人間じゃない。私の元で羽ばたくべき人なのよ。ねえあなたはどう考えているの?いつまでもあの鼻の下を晒せない整形失敗女の下についていくつもり?でもアイツは元々デブデブの性悪女でしかも整形に失敗して鼻の下を永遠に晒せないほど酷い顔の女なのよ。今からでも遅くない。私のところにきなさいよ。私のところにきたらあなたは即中核メンバー入りよ」
唇晒しのベルベットで語られる誘いの言葉。ルー・ザロメ、マゾッホ、アルマ・マーラー。ああ!エリー、ヨーロッパからやってきた宿命の女!彼女はジョニーのアメリカに食らいつく。ヨーロッパはアメリカの天敵。牛と戯れているような連中は文明の香りを浴びたら一瞬にして堕落する。ジョニーのヨーロッパへ向かおうとするスピリチュアル。キャロラインが泣いて彼を引き止める。キャロライン・ノー、ブライアン・ウィルソン、ラメリカ、ドアーズ、U.S.A、DA PUMP。そっちに行っちゃダメよ!あなたのアメリカンスピリッツを忘れないで!
我を失うまいと気張るジョニー。だがエリーは紙切れ一枚差し出してさらにジョニーを誘惑する。
「このチケットあなたにあげるわ。これ私たちが明日の土曜日に私たち『もういいよ、マスク』プロジェクトチームがクラブでやるパーティなの。いってみればプロジェクト決定の前祝いよ。まだ決まってないのに早すぎるって声もあるけど心配ないわ。だってすでに決定したようなものなんだから!」
そう言った途端に立ち上がって勝者の笑みでにっこり微笑むエリー。ああ!晒した唇を大胆に光らせて!ビキニよりもエロい唇。ジョニーは何も言えずにチケットを手にただ立ち去る。敗者の歯医者にかかりたいほどの痛みを抱えたジョニー。病室のキャロラインへの誓いはすでに虚しい。
地下の会議室。ドアの脇にくしゃくしゃの紙で貼られた『全員マスク!プロジェクトチーム会議室』の文字の虚しさ。扉をあけたら当然のように誰もいなかった。