ツッコミ夫婦
夫婦は毎日突っ込み合っていた。突っ込みと言っても夜のことではない。ずばり漫才である。念を押して言うがマンとは漫才の慢であり、露が満つるのマンでもなく、また女性器を表す言葉ではない。とにかく関西人である夫婦は毎日漫才を演っていたのだった。
夫婦はそうやって毎日漫才をしていたが、ある日突然妻のほうが漫才を飽きたといい出した。夫はそれを聞いて妻が関東人と不倫しているのではないかと疑った。なぜなら関西人にとって漫才とは命そのものであり、それを嫌がるというのは関西人を棄教するに等しかった。関西ではおもろうないやつは生きる資格がないと昔から言われている。関西人が最も傷つく言葉はおもろうないと言われることだ。だから関西人はおもろうないと人に馬鹿にされるのを恐れるあまり暇があれば見知らぬ人でも無理やり相方にして漫才をはじめるのだ。そんな根っからの関西人である妻が漫才を嫌がるとはこれは関東人の気取った東京弁野郎と出来ているに違いない。夫は大の関東人嫌いだった。小学校の時東京から転向してきた奴をいぢめまくって追い出してやったぐらいだ。お前ツマランで!お前ツマランで!毎日そういい続けてたらその東京ボーイは学校から逃げてしまった。
夫は近所の人間を自宅に呼び寄せると、マイクの前に妻を立たせて問いつめてやった。
「お前、東京モンと出来とるやろ!正直に言わんとあかんで!」
「いきなり何言うとるんや、アンタあたまおかしくなったんか?」
「頭がおかしくなったんはお前や。お前最近漫才嫌やとか言っとるやろ?お前はもう関西人やめたいと思っとるねん!それは東京モンと出来とるからや!」
「なんでアンタとの漫才に飽きたからって東京モンと出来なあかんねん!ウチが出来とるのはアメリカ人や!」
「何やアメリカ人か。それやったらええんや。……ってやっぱり他の男と出来とったんかい!」
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