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全身女優モエコのあらすじを出来るだけ簡潔に書く試み(まだ途中)
生きた、愛した、演じた。昭和の末期にこの言葉そのままに生きた一人の女優がいた。その名は火山モエコ。文字通り命をかけた女優人生をおくった彼女を人は『全身女優モエコ』と呼んだ。この物語はその火山モエコの一生を彼女の生涯のマネージャーであった男が語ったものである。
目覚め編
楽屋で今回のドラマの主演を務めるバカアイドルのチカが漢字が読めないと喚き出した。それを聞いたデブのマネージャーはスタッフを呼び出して台本にふりがなをつけろと文句を言い出した。スタッフはそのチカと彼女のマネージャーデブに平身低頭でチカに平謝りしていた。その光景を見ていた一人の老いた清掃人は在りし日の女優火山モエコを思い出してバカグループのバカアイドルに頼らなきゃドラマ一つ作れない今の芸能界を慨嘆する。ああ!火山モエコが今生きていたら!するとバカアイドルのチカが突然ブチ切だした。彼女はブッサイクな太い脚でゴミを撒き散らした挙げ句、近くにあったボロい椅子を蹴り上げる。清掃人はチカが椅子を蹴ったことに激怒して彼女を怒鳴りつけた。そのボロい椅子は今は亡き全身女優火山モエコがいつも座って椅子だったからだ。
チカは騒ぎ出しテレビ局の幹部やプロデューサーを呼び出す。彼らはチカを怒鳴った清掃人が火山モエコの元マネージャーである猪狩鎮安だと知り亡き火山モエコを思い出して泣きむせぶ。しかし今の芸能界ではバカアイドルのチカが所属するバカアイドルグループの権力は絶対なので涙をのんで猪狩に首を通告する。猪狩は仕方があるまいと去ろうとするが、なんとバカアイドルのチカが涙を流しながら彼を引き止めたのだった。猪狩はバカアイドルまで涙を流させるとはと在りし日の火山モエコを思い出して感激に咽ぶが、バカアイドルのチカがその猪狩に向かって自分のようにブリブリにかわいいおんにゃのこだったのと身の程知らずにも程がある事を言ったのでブチ切れて彼女に向かって火山モエコがどれだけ偉大な女優であるか語り始めるのであった。
火山モエコは九州のとある火山の麓にある村で生まれた。そこはしょっちゅう噴火が起こる場所であった。モエコは噴火が起きる度にマグマを何度も見に行ったという。彼女はマグマを見るたびに命の鼓動を感じていた。モエコは極端に貧しい家に生まれたせいで通っていた小学校でも友達がいなかった。クラスでは煤っ子と罵られ、家に帰っても当時でも普通の家庭に一台はあったテレビさえなく、ろくでなしの父親に叩かれるような陰惨な毎日を送っていた。
そんな彼女の唯一の楽しみは毎日下校中に立ち寄っていた町の電気屋である。電気屋の前にテレビが飾られていたからである。彼女はお目当てのテレビドラマのために村の小学校から10キロ以上歩いて町の電気屋に行っていた。その日も彼女は電気屋でドラマを観ていたのだが、モエコはそこで宿命的な出会いをする。ドラマの中で当時情熱先生という学園ドラマで人気を博していた神崎雄介がキスシーンを演じていたのである。モエコはたちまちのうちに神崎に夢中になり、ついに相手役に完全になりきってテレビ越しにキスしてしまう。電気屋が店から飛んできてテレビにキスしているモエコを無理矢理引き剥がしたが、モエコは途端に泣き叫んで電気屋にいたずらされたと泣きわめいて逃げた。その後電気屋は幼女わいせつを疑われ、商売にならなくなりそれから程なくして店を閉めたが、それを知らなかったモエコは蛻の空になった店のシャッターを叩きテレビを出せと絶望して泣きわめくのであった。
命の糧となっていたテレビを突然奪われたモエコはショックのあまりテレビ中毒になってしまった。いつもうわ言のようにテレビテレビとつぶやき、人の鼻を摘んではテレビのチャンネルレバーみたいにねじるようになってしまったのだ。モエコの病はさらに深刻になり、とうとう他人の家に無断侵入してガラスの窓からテレビを覗くような事態にまでなった。
しかしそんなモエコに救世主が現れた。その人物とはモエコがテレビ見たさに侵入した地主のひとり息子である。彼はモエコをひと目見て自分の好きな手塚治虫の漫画のヒロインに似ている事に歓喜してモエコを部屋の中に迎え入れる。地主の息子モエコから事情を聞き、彼女の境遇に深く同情してこれから毎日来てもいいと二万円渡した。モエコはじめてのお友達が出来たと感激して犬のように吠えた。しかし地主の息子は翌日尋ねてきたモエコからお小遣いでテレビを買うのが夢だと聞かされた途端態度を一変させて小遣いを減らすと言い出した。その言葉にブチ切れたモエコは地主の家を飛び出して町の駅で一緒にテレビを見てくれる男を探す。こうしてモエコは二人の男とお友達になり、翌日涙を流して謝ってきた地主の息子の三人と長い友達関係を続けて行くことになるのだが、この時の彼女には後に降りかかる悲劇を想像することさえ出来なかっただろう。しかしある日大事件が起きた。モエコが帰宅すると何故か両親が特上の寿司を並べてビールを飲んでいた。モエコはハッとして自宅の部屋の押し入れに駆け込んだが、やはり貯めていた金が全てなくなっていた。モエコは茶の間に駆け込んで両親に金の在り処を問いただすが、父親にお友達ごっこの事を口汚く罵られ、さらにお金をいただくのは娘を思う親心だと言われたので激怒のあまり酒瓶で父親の頭を叩き割る。その後これに懲りた父親と話し合い。毎日家に金を入れることを条件にテレビを購入することを承諾させた。
季節は過ぎ文化祭のシーズンとなった。小学六年生のモエコにとって小学校最後の文化祭であるが、モエコは今まで文化祭なるものに興味を持っていなかった。彼女は放課後の体育館に向かうクラスメイトと別れてお友達に会うために町へと向かったが、その日に限って三人とも不在であった。この仕打ちに激怒したモエコは三人の家の文句『お前とはもう会ってやんないからな!』と筆で書いた紙を貼り付けてお友達と会わなくなってしまう。お友達と会わなくなったモエコは何もやることがなくなり、買ってもらったテレビにも飽きてしまった。両親は毎日お友達の所にいかないのかい?と金をせびってきた。そんなモエコであったが、彼女はたまたま体育館でクラスメイトが文化祭の出し物の舞台稽古をしているのを見て思わず見入ってしまった。その出し物がモエコが愛する『シンデレラ』だったからである。モエコはクラスメイトの酷い演技に我慢がならず思わず下足のまま体育館に上がったが、それをクラスメイトに見られて思いっきりからかわれた。クラスメイトの悪口耐えられず体育館から逃げ出したモエコ、しかし彼女はただ逃げ出したわけではなかった。
モエコは町の服屋に入ってシンデレラとメイドの服はないかと尋ねる。しかし店員は呆れてそんな服はないと答える。その店員の返答に激怒したモエコは店員が止めるのも聞かずに服を投げ散らかして必死に探す。そしてようやくシンデレラのドレスとメイド服らしきものを見つけたモエコは合計50万だけど払えるのかと言う店員の前に50万を突き出してそのまま店を飛び出した。
一方体育館では先程のモエコのことで話が盛り上がっていた。そこにメイド服を着たモエコが現れた。モエコはメイド服を着たモエコに驚く女子生徒たちの前でまるで八変化のように華麗にドレス姿に変身し、クラスの生徒たちに向かってお嬢様言葉で自分こそがシンデレラだと宣言した。そして教師に向かってシンデレラ役を自分にしろと訴えたが、そのモエコに対して教師は木の役をやれと言い放った。このあまりの仕打ちにモエコは激怒して激しく喚き散らすが、教師はモエコに対して地球が木がなければ成り立たないように、シンデレラもまた木がなければ成り立たないと、わかったような、わからないような説教をする。しかしモエコは教師の言うことを聞かず、全速力で体育館から飛び出してしまう。
自暴自棄となったモエコは家で昼間から飲んでいる父親とばったり出くわした。父親は激しく落ち込むモエコに向かって、金はどうなっているんだ。お友だちと喧嘩でもしたのかと声をかけ、続けてお友だちを悦ばせて仲直りしろととんでもないことを言ったので、モエコは大激怒してまた酒瓶で父親の頭を勝ち割ってしまった。そして山で死のうと玄関まで駆けた時、今度は母親と出くわしてしまう。もう完全に死ぬ決意を固めたモエコはキンキラキンのドレスを見せびらかす母親に向かって父親の頭を勝ち割ってやったと叫んで山へと駆けて行った。