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同僚

 我が社の高松美津子さんと春山浩二さんはとても仲が悪かった。なのに何故か二人の席は隣同士だった。上がどういう意図で二人をくっつけていたのかはわからない。とにかく強制的に隣同士にされた二人はぶつくさ文句を言い、時には相手を直接罵倒していた。

 当然二人にはプライベートがあり、それぞれに人生のイベントがあった。二人はそれぞれの恋人と結婚したが何故か同時期に別れた。その時期に二人は相手を見ると必ず自分の左手の薬指を見て舌打ちした。ああ!一体なぜこんな偶然が起こるのか。こんな奴と同じ時期に離婚するなんて!

 それから二人は異性関係に恵まれずずっと独身で生きてきた。互いに白髪が目立つようになり、太り気味になっても二人は隣同士でいがみ合っていた。

 だがそんなある日の夕暮れのことだった。就業時間前で片付けをしている最中に浩二さんのペンが美津子さんの所に飛んでしまったのだ。美津子さんは自分の所に飛んできた浩二さんのペンを憎さげに見つめて弾いてやろうとしたが、その時突然彼と一緒に働いていた日々を思い出して何故か感傷的な気分になってしまった。そして自分は一体何故彼をこんなに嫌うのか考えた。しかし答えなんか見つからなかった。人は特に理由もなしに相手を嫌えるものだからである。彼女はしばらく思いに耽っていたが浩二さんが大きな声で自分を呼んでいるのを聞いて我に返った。

「高松さんそれ僕のペンですよ!早く返してくださいよ!」

 美津子さんはハッとしてこうじさんに動揺を悟られないように冷静を装ってペンを返す。浩二さんは彼女の態度になにかを悟ったのか。慌ててペンをもぎ取るように取るとすぐに彼女から離れてしまった。

 美津子さんはカバンとメモ類が無造作に散らばっている浩二さんの席を見つめて呆れたようにため息をした。しかしこの彼の机を見るのもあと少しだ。自分も彼も近いうちに定年がやってくる。そして就活の準備を始めなければならない。彼はその事についてどう考えているのか。窓から見える夕焼けはとても綺麗だ。だけど一人で見るには身につまされるほど孤独で寂しい。美津子さんは再び物思いから覚めて片付けの準備を始める。彼女の机は浩二さんの机と違っていつも綺麗だ。水鳥も跡を濁さぬほどに。

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