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全員マスク! 第5話:『全員マスク!』プロジェクトの旗印

第4話 連載小説『全員マスク!』 第6話

 キャロラインはジョニーのオンボロアパートを目にして急に立ち止まる。ジョニーはそんなキャロラインを見て思う。おいおい、キャロライン。男の部屋にはいるのは初めてじゃないだろ?それとも逆に自分の部屋に男を呼んでいたのかい?しかしジョニーはキャロラインが長く銃社会のアメリカに滞在していたことに気づき、ベイビーまさか俺がホワイト&ブラックみたいにアニマルになるとでも?と動揺した。アニマルズ、朝日の当たる家、俺のオンボロ小屋、夢しかないこの部屋だけど、夢だけで暮らしていけるぜ!だから来いよ、ロカビリースタイルで来いよ、俺のディズニーランドへ!

 ジョニーはキャロラインに向かって部屋に早く部屋に入るように促す。来いよベイビー、トラスト・ミー、俺を信用しろよ、信用詐欺師じゃないぜ!信用詐欺師とは『白鯨』の作家メルヴィルの隠れた傑作。、エイハブも羨ましがる俺のモービーディック。お前を悦ばせるためなら手術だってしてやるぜ!信用詐欺師だってことはバレバレだ。しかしキャロラインはそんなジョニーをせせら笑ってこう言う。

「あなたこんなボロいアパートに住んでんの?信じられない!」

 抜かしやがったな、このブルジョア女め!貧乏人を舐め腐った可愛すぎるプッシーキャット。エドワード・リア、ストラヴィンスキーの遺作。プッシー、プッシー、プッシー・キャット!ジョニーは半ギレでキャロラインにじゃあお前はどこに住んでるんだと問いただす。ああ!俺の想像よりもランクが下だったらボロクソにこき下ろしてやる!このプッシーめ、さあ答えてみやがれ!

「帝国ホテルのスイートルームよ。まだ日本に来てからいくらも経ってないからマンション買えないの。でもそのうち会社がマンション買ってくれるわ」

 想像以上だった。まさか帝国ホテルのスイートルーム住まいだったとは。リバーサイド・ホテル、井上陽水、おんなじ名前のラブホが全国至る所にある。ホテルカルフォルニア、イーグルス、ロスのビーチでお前と二人……。

「さ、早く案内してよ。て、ちょっとあなた何目を閉じてんの?ふざけてる暇なんかないのよ」

 ジョニーは小っ恥ずかしさを抑えてアパートのドアを開ける。帝国ホテル住まいのお前から見ればこんな部屋ウサギ小屋以下だろうけど、ここはビッグドリームの発祥の地。未来のイーロン・マスク、ジョニー・サワムラのその夢への第一歩を踏み出した部屋。あの有名なタムラ・モータウンも工場から始まった。ホンダも松下も小さな工場から始まった。最初はみんな小さかった。だけどベイビー、俺は小さな男じゃないぜ。見ろよ、キャロライン。この未来のビッグ・ドリームの卵たちを。

 キャロラインはジョニーの部屋に入った瞬間、至る所に貼られたジョニーお手製のマスクリスペクトのロゴとイーロン・マスクの写真に驚いて棒立ちになっている。ジョニーはそんなキャロラインを見て思う。どうだい?キャロライン。これが俺の夢。田舎からイーロン・マスク目指してやって来た、花の都大東京。薄っぺらのボストンバック、東京電力、東京ガス、値上がりはゴメンさ、だけど東京はあくまで夢の中継点。目指すのはアメリカ。シリコンバレー、サンフランシスコ、果てしなき砂漠に大輪の花を咲かせて。サイモンとガーファンクル、みんな自由を求めてアメリカに来たんだ。約束の地アメリカ。

「凄い……」

 長い沈黙を破ってキャロラインが呟く。凄い?何が凄いんだい?そんなに目を潤ませて。

「あなた何これ!この部屋中に貼ってあるMASKrespectってロゴなんなの?そういえばあなたいつもこれと同じ文字がプリントされたマスクしてるよね。まさかこれあなたが作ったの?ねえ?教えてよ!このMASKrespectってなんなの?」

「俺が近い将来立ち上げる会社の名前さ。名前は勿論イーロン・マスクからとってる。イーロンのマスクといつもつけてるマスクをかけたのさ。キャロライン、俺は会社を立ち上げたら速攻お前を私設秘書に雇いたい。なぜなら俺とお前は一心同体。インアンドヤン、陰陽、双子のロッテ、ロッテマリナーズ、佐々木朗希、パーフェクト、そう俺たちはパーフェクト。そうだろキャロライン?」

 しかしキャロラインはジョニーの戯言なんか最初から聞いちゃいない。ジョニーを無視して部屋中に貼られているロゴにすっかり夢中になってる。ああ!キャロライン。ベイビー、俺の愛の告白を無視するなんてなんてビッチのクソ野郎なんだ!

「ねぇ、ジョニー。一つお願いがあるんだけど、このMASKrespectのロゴ私にくれない?これを『全員マスク!』プロジェクトのロゴに使いたいの」

 ベイビーいきなり何を言い出すんだい?そいつは俺の夢の結晶だぜ。そんなものいくらお前でも譲るなんてノーセンキューだ。ジョニーはキャロラインのあまりのおねだりを断固として拒絶する。ベイビーそれだけは無理だ。

「ジョニー、わかってるでしょ?私は『全員マスク!』プロジェクトを成功させるためにあなたの会社に雇われたのよ。ジョニー、そのためにはあなたの、あなたのそのロゴが必要なの。そのロゴを私にくれたらあなたにご褒美をあげるわ」

 いきなりのおねだり攻撃、おねだりストライク、俺のハートにジャストミート!ジョニーはキャロラインのおねだりストライクを浴びて息も絶え絶えだ。だけどジョニーは理性を取り戻す。なめんなよ俺は童貞じゃないんだぜ!舐めるのはお前の舌でしろ!ジョニーはキャロラインを睨みつけて要求する。要求は交渉には必要不可欠、多少ふっかけて、いただくものはなるべく多くもらうぜ!

「キャロライン、このロゴには俺のイン・マイ・ドリームが詰まってるんだ。くださいなんて言われてもはいそうですかなんて簡単にやるわけにはいかないんだよ。ベイビー、俺は対価が欲しいんだ。お前はこのロゴの対価として俺に何をくれるんだ?」

 いつの間にかキャロラインを壁に追い詰めていた。ジョニーの熱い視線。そしてバレないとこで膨らんだ欲望。ああ!壁ドンまであと一歩だ。キャロラインはジョニーの熱い視線に戸惑い慌てた調子で言う。

「ふ、ふん。対価が欲しいなら私が会社に掛け合ってあなたにそれなりの地位とボーナスを用意するわ。だからどきなさいよ!」

「キャロライン、俺はそんな事聞いてるんじゃねえ!会社がどうとかホントどうでもいいぜ!俺はお前のハートに聞いてるんだ!この俺の未来が詰まったロゴをお前にプレゼントしたらお前は俺に何をしてくれるんだ。ベイビー、俺の気持ちはわかってるだろ?ベイビー、お前は俺がお前にフォーリンラブだって事ぐらいわかってるだろ?答えろ、キャロライン!」

 叫び終えると同時の強烈な壁ドン。隣に住んでるヲタクの住人がうるせい!と怒鳴りつけてくる。だけど知ったこっちゃねえ。ジョニーは熱くキャロラインを見つめる。キャロラインは慣れないジャップ式の愛の告白に戸惑って顔を赤く染めまくる。

「ふふふ、ジョニー、あなたはロゴの対価として地位やマネーじゃなくて私を求めるのね。いいわ、わかったわ。あなたがロゴをくれたらプロジェクトが終わった後にマスクを外した私の全てを見せてあげる。それでいいでしょ?ジョニー」

 悪いわけがない。ベイビー、プロジェクトが終わったらお前のマスクの下に隠された上の口からスカートとパンティでガードされた下の口まで存分に味わってやる。

「それでいいぜ。キャロライン」

 ジョニーとキャロラインは見つめ合う。ああ!これから始まるプロジェクト。キャロラインは俺のロゴをもらってどうする気なんだ。それは後のお楽しみよとキャロラインは言う。ベイビーにベイビーを売り渡すなんてクレイジーだ。グレイシー柔術を決められるぐらいやばい圧迫感、高揚感、多幸感。夜通しコカインを決めまくった後で見るアリゾナの朝日のように。

 ジョニーの部屋から出る時にキャロラインはジョニーデザインのロゴの入ったマスクが欲しいとまたおねだりストライクして来た。ジョニーは着けて帰るならいいぜとかます。するとキャロラインはあなたもしかして私のマスクの下を覗く気?とジョニーの目論みを見抜いて警戒する。ジョニーはキャロラインに言う。

「やっぱり前借りでお前のマスクの下だけは見たい。お願いだ。やっぱり信用は誠意を見せなきゃ成り立たないと思うんだ。お前の誠意大将軍を俺に見せて俺を安心させてくれ!」

 露骨に下世話なモード。親父ギャグまで引っ張り出しての逆おねだりストライク。ジョニーは恥知らずにも土下座しまくって懇願する。懇願、嘆願、懺悔、神のためにマスクを脱ぎなさい。神父さんって超エッチ。イエス・キリスト。

「私は別にいいけど……。あなたにはその覚悟があるの?言っておくけど、マスク姿がキュートだからってマスクの下もキューティーってわけじゃないのよ。あなたは真実の私を見る勇気があるの?」

 鋭い問い。まるでカラマーゾフの大審問官。世界苦。神は死んだ。ドストエフスキー。なんて可哀想なんだそんなにハゲ散らかして!ジョニーは苦悩のあまり頭をあげられない。ああ!マスクを外したキャロラインが不細工だったら俺は後悔と絶望のあまりデスヴァレーでサソリに噛まれて死ぬだろう。

 キャロラインがジョニーに別れの挨拶をする。なんとすでにジョニーのMASKrespectマスクに付け替えていたキャロライン。手にはあの黒光りのマスクをぶら下げている。キャロラインの唾液がこびりついた黒マスク。ジョニーは優しくキャロラインに語りかける。

「よかったらその黒マスク俺が捨ててやるよ。だから黒マスク俺に寄越しな」

 するとジョニーはスクランブルの時のように一瞬で床に崩れ落ちた。キャロラインは地べたに這いつくばるジョニーに向かって言い放つ。

「ジョニー、あなたホント最低の人間ね。あなたは徹底的に躾なきゃダメね!ジョニー、明日またオフィスで会いましょ。じゃあ!」

 部屋に一人残されたジョニーはキャロラインの再びのカンフーチョップに悶え狂い床を転がり回る。タランティーノのキルビルの続編。ユナ・サーマンの後を引き継ぐ謎のエイジアンビューティーのキャロライン。誰よりも重いパンチを持った女。きっと彼女がミリオンダラー・ベイビーに出たら勝ちまくってチャンプになるだろう。



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