夜に鳴く雌鶏はやがて飛び立って
いつも夜に鳴いている雌鶏がいました。彼女はたくさんの卵を温めていましたが、いつまでも雄鶏が帰ってこないので寂しくて、淋しい病気にかかった人を見て呆れそうになるぐらい寂しくて鳴いていたのです。彼女の声はたいへん艶やかで夜空を飛んでいる鳥は声に聞き惚れて電柱にぶつかりそうになったりしました。
やがてそのうちの若い雄鶏が彼女の巣にやってきました。雄鶏は梟よりもずっと魅力的な朗々としたテノールでたちまち雌鶏を虜にしてしまいました。その雌鶏に向かって雄鶏は自分と夜空に飛び立たないかと口説き始めました。すっかり彼に夢中になっていた雌鶏は頷きそのまま一緒に飛び立ってしまいました。
父も母もいなくなった巣で一つの卵からメスの雛が生まれました。彼女はじきに生まれるだろう弟妹たちを守るためにその小さな体で必死に卵を温めようとしました。だけど彼女の体は小さすぎてとても卵を温められません。それに生まれたとしても今の彼女には弟妹たちに餌なんか持ってこられません。夜、彼女は自分の辛さに泣きました。そしてそれはいつしか誰かの助けを求める鳴き声へと変わりました。彼女は他の鳥の気を引くようにとかつての母そっくりに鳴きました。そうして何日か鳴き続けていまある夜一羽の黒い見慣れぬ鳥が彼女の巣の前に止まってしました。その鳥は震える雛の彼女とその彼女が温めている卵を見て歓喜して舌で嘴を舐め回しました。