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歴史のif:三本の矢

毛利元就は息子たちを並べて三本の矢を差し出して言った。
「一本の矢ならばちょっと力を入れれば折れてしまうだろう。しかし矢を三本束ねれば容易に折れまい。その方ら、試しにこの三本の矢を手にとって折れるかどうか確かめてみよ」
元就の前に控える三人の息子たちはそれぞれ順番で回された三本の矢に力を込めて折ろうとする身振りを見せた。三人とも父の言いたいことはわかっていた。何があっても三人で団結せよ。決して兄弟同士争うでないぞ。父がいつも口を酸っぱくして言っていることだ。三兄弟は三本の矢を元なりに差し出すと父の前に平伏して言った。
「父上、この我々三兄弟は独りでは一本の矢のように弱いものです。しかし我ら三人はこの三本の矢のように力を合わせてこの国を守っていきます!」
元就は息子たちの見事な回答に、これでこの国も安泰だ。息子たちよ、これで儂もあの世に行けると満足して笑みを浮かべた。その時である。突然長男の隆元の息子の輝元がひょっこり現れたのだった。この子供は三本の矢を見るなり、「僕にやらせてよ! 僕だったらこんな矢すぐに折ってやるよ!」とキラキラした目で言いながら三本の矢を握りしめて膝を使ったり、その辺の岩に押し当てたりして無理矢理折ってしまったのだった。

それを見た元就はショックのあまりその場に倒れてそのまま死んでしまった。その時三兄弟は目覚めたのだった。やはり人に頼ってはダメだ。絆なんて当てにならない。これからは自分ひとりで生きていかなければ。それから兄弟骨肉の争いが始まった。まず隆元は弟達を国から追放し、そして天下取りに名を挙げまずは九州の島津を滅ぼした。それから四国を攻めとうとう京に上洛した。一方追放された弟たちも負けていなかった。彼らは初めは仲が良かったが、しばらくすると互いに争い合うようになった。彼らは東海地方でたもとを分かち吉川元春は尾張へと、小早川為景は関東へと降り立った。そして彼らはまたたく間に織田信長を倒し、今川義元を倒し、そしていろんな武将を倒してそれぞれ大阪から東海地方、関東から東北を制する大大名になってしまった。なんと日本に三国時代が出来てしまったのである。それからも長い戦乱が続いたが、そのうちに長男の隆元が死んでしまった。その報は元春や為景にも伝わった。彼らは兄が死んだことにショックを受けて仲直りすることにした。彼らは抱き合って泣いた。憎しみ合っていたがそれでも血を分けた兄弟であったのだ。そばにはまだ頼りない兄の遺児である輝元がいた。まだ無邪気な小学生だ。彼は木を三本並べて必死に折ろうとしていた。しかし矢と違って木は太いので折れない。輝元は頭に来てのこぎりを手にとって振り回した。しかし運の悪いことにノコギリが手から滑って飛んでしまい元春と為景の頭を真っ二つにちょん切ってしまったのだ。こうして親戚一同を無くした輝元はやっぱり独りでたくましく生きようと思って幕府を作った。これが毛利幕府の始まりであり、そして終わりであった。なぜならこんなバカに幕府なんかやらせられるかと全国の武将が一斉に反乱を起こしたのである。こうして世は戦国時代に戻り日本は三百年の闇に覆われたのである。



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