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合宿

 日本唯一の男性アイドルグループ専門事務所の社長スティーブンペリーは所属アイドルの度重なるスキャンダルに悩まされていた。今時のアイドルは人のいう事をまるで聞かない。所属のアイドルはピュアな少年性を売りにしているが、それにも関わらず共演者やファンの女と毎日セックス三昧の生活を送っていた。何度注意してもこのバカガキどもはサーセンとかとりあえず謝るだけで更生する身振りさえしなかった。スティーブンはいちど思いっきり一晩中説教してやったが、ガキどもには何の効果もなかった。

 ではどうしようかとスティーブンは考えて、あの日本で一番少年らしいロックバンドRain dropsとしばらく一緒に住ませようと考えたのである。そして早速彼は知り合いのテレビプロデューサーにRain dropsの事務所を説得させて合宿中のバンドのもとへ行かせたのであった。社長はアイドルたちがRain dropsと一緒に過ごすことによって少年性の何たるかを身をもって学んでもらうつもりだった。だがバカガキどもは所詮バカガキだから、当然Rain dropのことなどほとんど知らなかった。だから今日からRain dropsのところに泊まりに行くんだ。とマネージャーから言われた時、「Rain drops?あの童貞のおっさんがやってるバンドでしょ?オレらに童貞になれってのかよ!」などととんでもない事を言い放った。

 何が童貞だ!私たちのRain dropsはいつまでも少年性を忘れない純粋なバンドなのよ!アンタたちとは違う穢れのない少年たちなんだから!おっとつい筆者の地が出てしまった。さて話に戻ろう。そんな経緯があってバカガキ一行はRain dropsが合宿中の山中湖のスタジオに向かったのである。

 Rain dropsの面々は某男性アイドルグループ専門事務所からバカガキをしごいて欲しいと言われた時、流石に驚いた。これまで全く縁のなかった芸能界中の芸能界にいるアイドル。そんなアイドルをしごいてあげてくれと言われても自分たちに何をやれというのか。それどころか、アイドルたちとうまくやっていけるのだろうか。みな不安だったが、ボーカル&ギターを務めるリーダーの照山が立ち上がって彼らを笑顔で迎えてやろうと言った。

「なに、しごくなんて僕らがする必要はないよ。他の人たちに接するように自然に彼らに接していればきっと彼らも少年性の何たるかが分かると思うんだ。きっと彼らは自分の中のピュアな少年性を恥ずかしがっているんだ。だから僕らが彼らにそれとなく教えてあげればいいんだ。さあ恥ずかしがらないで君の中の少年性を曝け出していいんだよって」

 メンバーやマネージャーはさすが照山と彼を仰ぎ見た。照山はみんなの視線を浴びて恥ずかしくなったのか、手でまるで嵌め込むように頭を押さえつけた。

 さてバカガキ一行が合宿所にやって来たので照山をはじめとするRain dropsは入り口まで彼らを出迎えた。照山は眩しいほどの笑顔で「待ってたよ。短い間だけど仲良くしようね!」とバカガキたちに声をかけた。だがバカガキ一行は見事にガン無視して合宿所へと向かい、去り際に「死ね、童貞!」と言い放ったのである。これには流石にRain dropsのメンバーは怒った。いくら芸能界のドンの事務所のアイドルだろうがやっていい事と悪いことがある。大体自分たちは汚れた芸能界とはちがうロックという神聖な世界に生きてきて、しかも今回の件は向こうから頭を下げて頼まれたのだ。照山を除くメンバーたちはこのバカガキを怒鳴りつけてやろうと思った。いきり立ったメンバーはバカガキに食ってかかろうとした。しかし照山は彼らを止めてこう言った。

「やめるんだ。彼らを叱っても全く意味ないよ。彼らは今までああいう態度でしか人と向き合ってこなかっただけなんだよ。たぶん大人たちにちやほやされすぎて本物の少年性を見失ってしまったんだ。だから僕たちが彼らに本物の少年性を教えてあげればいいんだよ。みんないいかい?彼らが何をしても受け入れるんだ。決して殴ったりしちゃダメだよ」

 というわけでRain dropsとバカガキアイドルの共同生活がはじまった。しかし共同生活はしょっぱなからトラブルが続出した。バカガキは所詮バカガキなのでRain dropsのメンバーのいうことなど全く聞かないのだ。バカガキたちはRain dropsのリハーサルを見に来ては「俺らまで童貞臭くなるから演奏止めろ!」などといって囃し、それどころか勝手にアンプまで引き抜いてしまった。ギターの有神は大激怒して思わずバカガキたちに向かって拳を振り上げたが、その時照山が割って入り、有神に向ってやめるんだと顔を横に振って止めさせた。それから照山たちRain dropsは練習を続け、バカガキたちは自分たちの部屋に入った。そして日が暮れて夕食の時間になり、メンバーとアイドルで一緒に夕食をとるはずだったが、なんとバカガキたちが来ないのである。バカガキたちのマネージャーがバカガキの部屋に行ったがすぐに帰ってきてみんな外出していると言った。

 結局そのままバカガキたちは帰って来ず、どうしたんだろうとみんなで考え込んだが、バカガキたちのマネージャーがあっと口を開けて話し出した。

「多分あの子たち近くのクラブ行っていると思うの。この辺っていろんなミュージシャンがレコーディングに使っているから結構有名人とか来るでしょ?多分有名人目当てに遊びに来る女の子をひっかけに行ったんだわ。でもあの子たち外出たらもう帰って来ないわよ。こっちが連れ戻そうとしても、今頃はクラブを出てホテルのベッドで女の子にツルルンとした太いソーセージ入れてるわよ」

 マネージャーの言う通り結局バカガキたちは帰って来なかった。Rain dropsの面々は呆れ果てやっぱりあんなバカガキを教育するなんて無理だったとため息混じりに言った。バカガキのマネージャーも同じようにため息をつき、「やっぱり社長は甘かったのね。社長は昔の人だから今の子供が理解できないのよ」ともう諦めて明日バカガキが帰ってきたら東京に連れて帰ると言った。しかしである。ずっと彼らの会話を聞いていた照山が立ち上がり興奮して何故か頭を押さえながらみんなに言ったのだった。

「なんでみんな彼らを見捨てるような事を言うんだ!みんながそんなんだから彼らだって非行に走るんじゃないか!僕は彼らを見捨てない!彼らに最後まで向き合っていくつもりだ!」

 照山はこう言い切ると頭を押さえていた手を離してから再び言った。

「僕が彼らを連れ戻してやる!さっきマネージャーさんがもうクラブになんかいないと言ってたけど行って見なきゃわからないじゃないか!僕はきっと彼らがまだクラブにいるような気がするんだ。だって彼らは少年のように汗を流して演奏する僕らを見たじゃないか!たしかに彼らは僕らを罵倒した。だけどなんで彼らがああやって僕らを罵倒したのかって考えるとやっぱり僕らの音楽が突き刺さったからなんだ。僕らの音楽が彼らの忘れかけた少年性を呼び起こしたんだ。でなきゃあんなに僕らの少年性に満ちた音楽を罵倒したりしないよ!彼らは今クラブできっと苦しんでいるんだ。今まで通り女の子と遊ぶか。それとも少年性を取り戻して僕らの元へ戻るか。僕は彼らの少年性を取り戻すためにクラブに行かなきゃ行けないんだ!」

 そう言うなり照山はTシャツを半パンのまま合宿所を飛び出した。向かいから冬の冷たい風が吹いてくる。しかし今の照山にはそんな事どうでもよかった。堕落への道を滑り落ちてゆく少年たちを救いたい。そして全身で本物の少年に目覚めさせてあげたい。突然頭に冷たい風が吹き付けた。照山はこの頭に吹き付ける冷たい風を浴びて心が澄み切って来るのを感じた。

 さて、バカガキはやはりクラブにはいなかった。しかし女の子とホテルにもいなかった。バカガキはクラブに入るなり女の子を口説きまくったものの、全部空振りしてしまったのである。マネージャーが言っていたようにここら辺はミュージシャンがよく練習に使う場所であり、ロックの聖地のようなものだった。だからバカガキアイドルなんか誰も相手にしなかったのである。女の子たちはみんなバカガキがオレら知ってる?と言っても知ってるよ。アンタたちがバカアイドルだってことぐらいと言い捨てて彼らの元から去ってしまったのだ。彼らは今日は失敗だ。やっぱり合宿所に戻ろうぜと散々女の子の愚痴を言いながら合宿所までトボトボと歩いていた。そんな夜の湖の水辺を歩く彼らの前に突然海坊主みたいにツルツルと禿げ上がった男がたち塞がったのである。するとハゲは彼らに向かってこう言った。

「何も言うな。今すぐ僕と一緒に行こう。僕が君たちに少年ってやつを教えてやるよ!君たちは本当は少年になりたいんだろ?」

バカガキは驚いてハゲを見ると、なんとハゲはさっき照山が来ていたのと同じ格好をして、よく見ると顔もどことなく照山ににているではないか。ハゲは怯えたようにいつまでも立ちすくんでいる少年たちを熱く見つめて息がふれるほど顔を寄せて囁いた。

「さぁ、怖くないよ。君たちは今本物の少年になるんだ」

 バカガキたちは大声で泣きながら合宿所に逃げた。そしてRain dropsのメンバーと自分たちのマネージャーに今までしてきた事を全力で謝り、もう二度と悪さしないから絶対に追い出さないでくれと土下座して頼み込んだ。

 いきなりの謝罪にみんなびっくりしたが、しばらくして照山が出て行ったまま帰ってこないことに気づいた。それでRain dropsのメンバーは照山見なかった?と聞いたがアイドルたちはたしかに照山さんと同じ服を着た人は見たけど知らないと体をブルブル震わせながら答えた。その時玄関から誰かが入ってくる音がしたので照山かと思って全員で玄関に向かった。しかしそこにいたのは照山のTシャツと半パンを着たハゲた中年ではないか。ハゲはアイドルたちを見るなりこういった。

「君たちここにいたんだね」

「コイツですよ!さっき僕らを襲おうとしたのは!コイツ僕らに向かって少年性を教えてあげるとか言って無理矢理僕らをレイプしようとしたんですよ!だけどなんでコイツ照山さんの服着てるんですか?まさか照山さんはコイツに襲われて!」

 ハゲはアイドルたちの言葉を聞いてハッと頭を押さえた。そして絶叫しながら逃げ出していった。

 それからしばらくして髪をつけた照山が戻ってきたが、その表情は暗く憔悴し切っていた。彼は頭を何度も押さえて感触を確かめていた。それを見てメンバーは照山を襲った出来事を想像してゾッとした。


 これがRain drops後期の有名な事件『湖を徘徊するホモの海坊主事件』である。かの海坊主のおかげで結果的にアイドルは更生したのだが、しかしこの時はみなこの海坊主がアイドルと照山を襲ったホモではなくハゲた照山本人だと気づかなかった。全てが白日の元に晒されるのは一年後の東京ドームライブのことである。



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