背中合わせのキス
背中合わせでキスしてなんて彼女は言う。僕は冗談言うなよ司馬懿じゃあるまいしなんて三国志の知識をひけらかして彼女に答える。だけど彼女は厳しい顔で僕に言うんだ。
「司馬懿が首を180度回す事ができるのは知ってるよ。だけど首を180度回してキス出来るの?回したとしてもキスできるのは私のうなじじゃない。あなたいやらしいね。私は背中合わせのキスから恋を始めたいのに、あなたはうなじにキスしてセックスをしたいって考えてるんだから」
「僕はそんな事一言も言ってないだろ?僕はただ司馬懿みたいに首を180度回せないから背中合わせのキスなんかできないって言っただけじゃないか!いやらしい考え方をしているのは君のほうだ!」
「酷い!私は背中合わせのキスがしたいって言ってるだけなのにどうしてそんな事言われなきゃいけないの?私を愛してるんだったらわかった君のために背中合わせのキスして見せるって言うはずよ。全く人を馬鹿にして!わかったわ、もう二度とあなたには会わない。別の背中合わせのキスをしてくれる人探すわ。私を愛してるんだったら君のために首ぐらい手術で伸ばすよなんて言ってくれるはずよ!」
そう言って彼女は都合良すぎなぐらい突然に降り出した。雨の中を去っていく。このままじゃ永遠に彼女は去ってしまう。僕は彼女に向かって叫んだ。
「僕は君と背中合わせのキスをするために首を伸ばして見せる。今から整形外科言ってくるよ!」
僕の叫びを聞いて彼女は立ち止まる。そして振り返って言う。
「本当に?」
ああ本当さ。
その一ヶ月後僕は彼女に再会した。今の僕は二メートルをゆうに超え、司馬懿どころじゃなくてブロンドザウルスぐらい首をぐるりんと回せる。背中合わせでキスなんて全然平気だ。僕は彼女に顔を向けながら背中を見せた。さぁ背中合わせになろう。僕らは今背中合わせのキスをするんだ。だが彼女は僕に背中を見せず後退りしてこう叫んだ。
「お前はろくろ首かよ!」