リハーサル

「おい、お前らライブをなんだと思ってるんだ！」

　そう言うなり彼はスタッフがチョーキングしていたギターを取り上げた。そしてそのままギターを振り下ろしてスタッフを殴り倒してしまった。

「ふざけんな！　こんないい加減なことやってライブができると思ってるのか！　俺のために高い金払って見に来てくれたファンを失望させる気か！」

　彼の怒りは収まらない。ギターを振り回してベースを持っていたスタッフに襲いかかり、最後にそのままドラムセットに突っ込んで破壊すると彼はスタッフを並べて説教を始めた。

「お前らは俺がライブにどんだけ命かけてるのかわかってるのか！　いいか！　ライブってのは戦場なんだ！　俺は昔の武士にみたいに切腹覚悟で毎回ステージに上がっている！　なのになんで俺をささえるお前らがヘラヘラ笑いながらいい加減にライブの準備をしているんだ！　ライブ中に事故でも会ったらどうするんだ！　それで客が怪我でもしたらどうするんだ！　お前ら責任もてんのか？　お前らそこ並べ！　一発づつぶん殴ってやる！」

「……あの、いいですか？」

「なんだ！　殴られたくねえのか？　だったら今すぐこっから出ていけ！」

「あのさ、お前だれ？」

　スタッフの言葉を聞いて彼は姿勢を正して言った。

「申し訳ありません。自己紹介を忘れてました。私、ただの不法侵入者です」