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バレンタイン・キッス
朝の朝礼で課長が自分の机の前の大量のチョコレートを指しながら説教していた。
「君らは我が社のコンプライアンスをどう理解しているんだ!この私の机に置かれた大量のチョコレート。そして係長やリーダーの机に置かれた少数のチョコレート。自分の机にチョコレートが置かれていた男性社員もいるだろう。私は別にチョコレートを置いた女子社員を責めるつもりはない!きみたち女性は未だに続いている男性優位主義の犠牲者なのだ!今の我が社は意識改革の途上にあるから君たちが我々男性に嫌われないようにこんな真似をしている事は重々承知している。だが君たちは気づくべきなのだ。これは上司や先輩全ての男性社員に対する媚びでしかないのだよ。私は君たち女性にこのような事をさせてしまう社風を一刻も早く変革しようと努力している。そして男性社員諸君!私は君らに言いたい!君たちは女性社員にこのような事をさせて恥ずかしくないのか!私は自分の机にあるこの一個千円以上は確実にするであろうチョコレートの山を見てゾッとしたよ!もしかして君たちは自分の立場を利用して女性社員にコンプライアンスに反する事を要求してないのかね?君たちは弱い立場にある女性社員にこんな高いチョコレートを買わせて当たり前だと思っているのか!もしかして一番高いチョコレートをくれた人間に特別に目をかけてあんなことやこんなことをと考えているんじゃないだろうな!私はこのチョコレートを善意のプレゼントだと受け取っておくが、とにかく我が社ではバレンタインに限らず何かの見返りに女性に褒美を要求する事は断じて禁止だ!いいか!わかったか!」
課長がヒートアップしている中、女性社員たちは呆れながら課長を見て隣同士でヒソヒソ話しをした。
「あのハゲ親父のチョコレート誰があげたのよ。少なくても私があげてないよ」
「いや、あなたなにすっとぼけてんのよ。毎年恒例の説教でしょ。あのハゲ自分が権力あるって事と、モテてるアピールしたいために自分の分と男の社員の分のチョコレート買ってバレンタインの日の早朝に机に配ってんのよ。呆れるわ」
「あっ忘れてたわ。あの噂本当だったのね。だよねぇ、この課にチョコレート送りたい男なんて一人もいないもの」