妊娠…ダーリンの下へ 第4章 その5
「猿はスマホのアンタの写真にキスしながら飛び降りたんだべ。そん時の猿が目に涙さ溜めてな、切ねえ顔すてたんた。変なもんだべさ。あの時のアイツは猿なのに恋人に別れさするみてえだっただ。たぶん飛び降りる前に世話してくれたアンタと猿回すに別れのキスをしたんだろうな。なぁアンタ!恋人がなくなってやけになるのもわかるだ!アイツも猿も天国で一緒に猿回ししてるだべ!アンタがそんなに泣いてちゃ天国のアイツも泣くべ!」
涙が滝のように流れて止まりません。ああ!許してダーリン!あなたが毛だらけで全身真っ黒な体で自殺するほど苦しんでいたなんて思わなかった!ごめんなさいダーリン!私は恥ずかしげもなく泣き続けました。天国のダーリンへの謝罪の言葉など見つからずただこうして泣き続ける事がダーリンへのせめてもの償いだったのです。
「私、ここに住みたい……」
不意に出た一言に自分でもビックリしました。だけどそれは本心からの言葉でした。ベイビーと一緒にダーリンのお墓を見守りながら毎日を過ごしたい。そして一生かけてダーリンへの償いがしたい。ああ!この土地を買って畑を耕しながら暮らしたい。私はもうナチュラリストなのよ。もうお金なんかいらないわ。ダーリンいいでしょ!私は卒塔婆を元に戻すと運転手のおじさんにもう一度言いました。
「私ここに住みたい……ここで一生過ごしたいの」
おじさんはちょっと首を傾げたあとで優しくこう言いました。
「それがいいかも知れねえべさ。猿回すもきっと天国で喜んでるだ」
「私、毛だらけで全身真っ黒なあの人のベイビーを妊娠しているの」
「えっ!」
おじさんの驚いた顔を見て、言ってはいけない事を言ってしまったと気付いても後の祭りでした。言ってしまった。毛だらけで全身真っ黒なダーリンの子供を妊娠してると言ってしまった。日本は人種差別主義者の国、ましてやこんなど田舎では、私のような毛だらけで全身真っ黒な外人のベイビーを身ごもった女など猿同然と撃ち殺されかねない!もう住むどころではない、ここから叩きだされるどころか下手したら殺される!とおじさんの顔を恐る恐る眺めたらにっこりした顔で言いました。
「そりゃ目出度いなぁ!アイツもバカな事をしたもんだべ。自分の子供さ出来た事知ってたらあんな事しなかったのに!すかし、あいつそんなに毛深かったのか!意外だべ!いいべ、子供もここに住めばええべ!みんなでワイワイ暮らせばええだ!ところでそのTシャツアイツのだか?WANTEDとか書いてあるべ?」
「そうよ!私は永遠にWANTEDされたのよ!」
「お熱いべ!」