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靴下のかたっぽがみつからない ㉕クロちゃんとアカネ
アカネが5年生になったころの事です。
5年生の春、新学期を迎え、クラス替えがありました。
新しい先生になった、と喜んでアカネは話をしてくれて、私も家庭訪問でお会いして、まぁ転校も多かったことですし、先生のことは「今度はどんな先生かね」程度にしか思っていませんでした。
なんとも平和ボケしてました。
私の脳みそは。
ゴールデンウィークあけの6月くらいから、学級通信が途絶え、先生が短期間のお休みを取るようになりました。
その頃から、アカネは少しずつ不思議なことを言うようになりました。
「クロくんがね、授業中走って教室を出て行くんだよ」
とか、
「クラスで強い男子がいてね、弱い男子に酷いことするんだよ」
みたいな、聞いていて、え?となるようなことです。
担任の先生の休みはさらに増えて、結局そのまま夏休みまで先生は来ませんでした。
それまで教頭先生や、その日空いている先生がホームルームや授業を受け持ってくれました。
夏休み明けたころからか、アカネの話はより一層具体的になってきました。
「クラスの強い子がね、弱い子の机をバーンってひっくり返しちゃってね、机の中の教科書は床に散らばって、その子は泣きながら直すんだよ」
「今日はその子のランドセルを男子たちがみんなで踏んでね、ランドセルにはみんなの足跡がついて、その子泣いちゃって可哀想だった」
これは…と、私も流石に心配になりました。
ランドセルを踏まれているこの名前を聞くと教えてくれました。
よくよく聞くと、クラスでいじめられている子が三人いて、その中には女の子もいるそうで、他人事ながら心配になりました。
けれど、私にはアカネのクラスの保護者の中で、ひとりも名前がわかってないくらい交友関係がなくて、クラス名簿を見ても何度見ても相談する人がいません。
第一先生がいません。
こんな時のためにPTA長がいるんじゃないか、と、無茶振りをおもいつき、その名前を見てさらに困るわけです。
アカネから聞いていたいじめっ子のグループの名前がそこにあったからです。
これはどうしたものか。
カレンダーを見ると、数日後に参観日がありました。
参観日のあとは、保護者懇談会があります。
何か話題が出るかもしれないと、ちょっと緊張しながら参観日に行きました。
参観日では、アカネは自分から手を挙げることはなく、それでもノートに丁寧に字を書く姿は、なかなか可愛いものがあり、私は全然バカで勉強できなかったけれど、かぼちゃの子はかぼちゃになるとは限らないのね、なんて、呑気に見ていました。
懇談会では、担任の先生の長期休みが問題視されていました。
いつまで休むのかと聞くと、教頭先生は
「心の病気でして、それは明確にはわからないです」
と言います。
では、代わりに担任をつけてくれと誰かが言うと、
「担任の席は今の先生なので、かわりに赴任してきてもらうことは出来ないのです」
と教頭先生は答えます。
「クラスで〇〇くんが授業中飛び出して走ってしまうと、先生は追いかけて行くので、授業が一時間平気で放置されるそうですね、その間の生徒はほったらかしって、どういうことですか」
保護者のお母さんがかなり怒っています。
これはもしや、最近世の中で聞く「学級崩壊」ではないかと、思いました。
そうか、そんな事態になっていたのか、と、私は衝撃を受けました。
なんでちゃんとアカネの話を聞いてなかったのだろうかと、激しく反省しました。
いや。アカネは言ってたじゃないか。散々私に。
私はなんてアンポンタンなのだろうかと思いました。
懇談会が終わり帰ろうとすると、1人のお母さんに呼び止められました。
「アカネちゃんのお母さんだよね?」
と、すこし怖そうな声で言われした。
もともとヤンキーされましたか?というような、茶色い髪に、なんだかメイクや服も強そうで、それだけでびくびくになってしまいました。
「そうですけど…」と答えると、そのお母さんは、媚びて笑うことなく、真っ直ぐに言ってきました。
「クラスでいじめがあるって知ってますか?いじめられてる子、4人いるらしいけど、そのうちの1人、アカネちゃんだって知ってましたか?」
とてもショックでした。
アカネは3人と言っていました。
自分のことは言ってませんでした。
じゃああの机をひっくり返されたのは…ランドセルを踏まれてたのは…
びっくりしすぎて、なんて返事をしたか覚えてないのですが、
「教えてくれてありがとうございます」とか、そんな話をされてもいつもの癖のヘラヘラ半笑いをして、答えていたと思います。
聞くとアカネの歯並びの悪さから、クラスの男子に何か妖怪のあだ名で呼ばれているそうなのです。
血は争えないです。
私も今まさに職場の社長の息子から妖怪のあだ名で呼ばれてる真っ最中でしたから。
一時間前の参観日でかぼちゃの子はかぼちゃじゃないのね、なんてのんびり思っていましたが、そんな場合じゃないです。
かぼちゃの子はかぼちゃだったのです。
アカネごめんね、遺伝子半分お母さんのが行っちゃって。
もはや、反省すべきところじゃないところまで、反省しました。
そのあとは、自分にできる範囲内で交代でくる先生とやりとりがあり、でも効果は実感できませんでした。
その頃はクラスの父兄の怒りもピークに達していたのか、異例の緊急懇談会が開かれ、教育委員会の人も同席していて、いつもはお母さんだけの顔ぶれなのに、夫婦揃って参加していて、中には録音をしている方もいました。
そうこうしているうちに、春がやってきました。
6年生になり、もともとの担任の先生は移動となり、見るからにベテランの先生がやってきました。
爽やかで目力があり、生き生きとしていて、見るからに人に好かれそうな雰囲気があります。
その途端、嘘みたいにいじめがなくなりました。
授業中走ってしまうクロちゃんには、特別に先生が1人つけられ、どこに行ってしまっても、担任の先生は授業が進められます。
5年生の間に抜け落ちた学力を、新しい先生は取り戻す勢いで授業をしてくていたようで、あんなに学級崩壊で、大騒ぎだったのに、ウソみたいに静かになりました。
自分自身、学校生活で担任の先生の影響力は大きいと体験をしていましたが、アカネのクラスを通して、さらに実感しました。
なんだ、やればみんなできるんじゃん、と。
そして、6年生になり私は恐れていたことが起きました。
PTAの大きな役員になってしまったのです。
地区会長というやつでしょうか。
引越しを繰り返しすぎた私は、前の学校で役員をやっていてもやったことにならないらしく、6年の役員の仕事ともなると、みんなやりたくないわけで…
必然的に、過去に役員をやらなかった人は片手程度で、もうその人数で全員、何かしらの役をやらなければいけなかったのです。
その中の役員決めですら、欠席しているのが2人いて、1番の大役の長を避けることはできたのですが。
こんな大事な場に来ない人が長になって、その下でみんなちゃんと動けるのかな、破茶滅茶にならないかな、と、変な思考が走りまして。
私の思考回路、おかしくないですか。
まぁ何年か前は、育児サークルでこんなポンコツなわたしでもなんとか回ってたのだから、大丈夫、なんとかなる、やれない仕事はないんだよ、と、変に落ち着いた自分もいて。
結果、長をやることにしたのですが。
本当に甘かったです。
女の人って怖いですね。
あー怖かったぁぁぁぁぁ。
あーわたし。やっちまったーーーと、後悔したのは、役員会1回目でした。
役員決めで欠席していたのは二人、姉妹の方でした。
一人はクロちゃんのお母さんでした。
あーーーーー、そうきたかと、思いました。
去年わたしの住んでいるアパートの下の階の人が、トラブルに巻き込まれたことがありました。
夕方アパートの2階にいた私は、悲鳴が聞こえてビクッとしました。
男性の激しく怒鳴る声と、女性の悲鳴です。
私は子供の頃のフサコさんの件があるせいか、人の大きな声はとても苦手で、びっくりして下の階に見に行きました。
みると、知らない男性が、下の階のお母さんの長い髪を鷲掴みにしていて、足元にはたくさんの毛が抜け落ちていました。
私のようにびっくりして見にきたのか、女性の方が他に二人、立って見ていたので、
「これは警察を呼んだ方がいいですか?」
と聞いたら、返事がありません。
警察を呼ぼうと部屋に戻ろうとしたら、男性は帰っていったので、結果呼ばなくて済んだ、ということがあったのですが。
クロちゃんのお母さんは楽しそうに言ってきました。
「アカネちゃんのお母さんって、あのアパートの二階に住んでるよね?一階の人の〇〇って知ってる?あのときめっちゃウケたよね、髪の毛バサーって抜けてさぁ」
「そうそう、あんなに抜けるなんてめっちゃウケるよね」
もう一人のお母さんもいいました。
え?
ってなりました。
そこで初めて、あの玄関先に立って見ていたのは、この二人だったのかと知りました。
どうやら子供同士の喧嘩にもならないやりとりに、当時恋人だった男の人が、
「うちのクロに何しやがる」のノリで下の階の人に文句を言いにいったそうで。
とんだセミがここにいました。
このセミ姉妹は、他にも言っていました。
「アカネちゃんって、うちのクロが同じクラスなんだよね?5年の時の担任覚えてる?あいつ使えなかったよね、家によく来たんだよ、こっちが文句言うからさ。慌てて来んの。話が全然通じなくてさ、めっちゃむかついたよ。あいつすぐ病んで入院しちゃうしさ」
え?
と、またなりました。
この驚きが読んでる方にも伝わったら嬉しいです。
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