靴下のかたっぽがみつからない ⑱ハルちゃんとわたし
アカネとアオイが保育園に通い始めました。
その頃からちょっとした変化がありました。
実家から離れた距離に嫁に来て、歳も歳で若すぎ、私の周りの友達はようやく社会に出た頃の年頃で、ママ友らしい友達が居ません。
私は寂しくて、当時買っていた育児書の雑誌の中のお友達募集の欄から知り合ったママさんと、定期的に会っていました。
お互いの家を行き来して、お菓子を少し食べながら、子供たちを遊ばせて……くらいの、ゆっくりな交流です。
たまたま私はパソコンでホームページを作ったり、何かパソコンでするのが楽しくて、そのママさんと、インターネットを使った子育てのサークルを立ち上げようと盛り上がりました。
まだSNSが危ないと言われた時代です。
調べてみると都会の方にそういう育児サークルのサイトがありましたが、まだ私の住んでいる地域ではなかったのです。
そうなると、ただでさえ妄想癖がある私ですから、暴走するわけです。
地域の情報を織り交ぜて、使いやすい掲示板を設置し、パスワード制にして、なるべく本当にママさんだけが利用出来るようにしました。
すると、地味にですがメンバーさんが増えていくのです。
どこの公園がいいとか、ご飯どころはどこが便利かなど、ローカルな話が交わされて、固定の方たちのやり取りもありました。
新聞記者さんからも問い合わせがきて、掲載してもらうこともありました。
交流が深まってくると、メンバーさんからオフ会を開こうという声があがります。
本当に世の中って凄いなと思うのは、誰か誰かが知ってるのですよ。
いい場所を。
行動力がある人もちゃんといるのですよ。
あの辺でそろそろオフ会しようか、と誰かが言うと、その地元の人が、だったらいい公園あるよ、と言ったふうで、話が決まっていきます。
私はみなさんについていくだけ……
お花見がしたいねと誰かが声を上げると、それなら近々ならあの場所がいいよ、といった具合です。
時にはBBQもしました。
その行動力、みなさんすごいです。
私みたいに何もしないで考えてネガティブになって終わったり、そんなこと無理だよなんて、言う人は誰もいません。
そこで、色んなママさんと知り合って、子育てという共通の立場ではあっても、何もかもが違うので、話の盛り上がり方がちがくて面白いことを知りました。
子供の年齢がたまたま近かっただけで、これまで生きてきた場所はみなさん違いますから。
AさんとBさんが、テレビ番組の話をしてる所へ、ちょっと頭の良さそうなCさんが途中から参加すると、何故か話は外資系の話しなったり、保険の話なったりするのです。
話の方向が大きく変わるのも聞いていて楽しかったですし、アカネとアオイも色んなお友達と交流ができて、なんてありがたい環境なんだと、心の中で思わず手を合わせたくなります。
私が子供の頃抱えてた悩み、保育園や学校でうまくいかくて、家でも上手くいかなかった時、そこで世界が終わってしまわないように、学校のお友達がいないような、3つ目の環境があったら良かったなと、思っていて、
こういうサークルの繋がりって、のちのち子供にもいい思い出になるんじゃないかなと、そんな思いでいました。
そのオフ会で知り合ったのが、ハルちゃんです。
ハルちゃんは、アカネとアオイと同じ学年の子供がいたので、会話の共通点が多かったです。
実は、ハルちゃんは、実際に会う前からネット上では存在は知っていのですが、なんだか言葉じりがきつく見えて、きっと友達になれないだろうなと、勝手にイメージしていました。
初めて会った時も、よそ行きの顔をするわけでなく、普通の声のトーンで話をしてきます。
これはなんか、怖そうだな……とどこかビクビクしている私でしたが、気がついたらお互いの家を行き来する仲になっていました。
どうしてそうなったのか、よく覚えていません。
ごめんね、ハルちゃん。
ハルちゃんは、今まで私の周りにはいないタイプでした。
私が「お義母さんからなんか嫌な言われ方されちゃって……」と言うと、「なんて言われたの?」と具体的に聞いてくれます。
私はそういう話を今までしたことがないので、ぼんやり、雰囲気しか伝えれません。
「覚えてないけど、なんか嫌な言われ方された」
そんな程度なので、いつもハルちゃんに
「主語がない」と怒られます。
そうなると、今度はちゃんと覚えておこうと思うのです。
「カンちゃんにこんな言われ方されたんだよ」
と言います。
ほら、今度はちゃんと具体的に言えたぞ。
そう思うと、ハルちゃんは間髪入れず
「で、ナツゴロウちゃんは、カンちゃんになんて返事したの?」と聞かれます。
さて困った、言われた悲しさしか頭に残っていなくて、その後どうしたなんて、覚えていません。
「え、なんて言ったっけな、えーとえーと、、覚えてない」
というと、
「もー!!!」
と、ハルちゃんはイライラして怒ります。
でも、セミのような怒り方ではありません。
その怒りがどこに飛んでいくのか分からないような怖さはありません。
それどころか何故か笑いが出てきます。
私のちょっとささくれみたいな出来事は、ハルちゃんに言えばみんな笑い話にしてくれます。
なんだかお焚き上げをしてもらったような気分になります。
ハルちゃんとのやり取りは、書き続けてキリがないので程々にしておきます。
何かタイミングがあったら、お話させて欲しいです。
ハルちゃんのことを描いたら、一冊の本になるくらい面白い人です。
あんなに変な人、滅多にいないので、是非聞いてほしいです。
そんなこんなで、オフ会をしていくうちに……人の欲は果てしないですね。
フリーマーケットがしたいねって話が出てきました。
今のママさん達は分からないのですが、当時私の周りでは、子供は直ぐに体が大きくなるから、ちょっとしか着ないのに、捨てるのはもったいない、という声と、ちょっとしか着ないから、フリマで充分という声が多くて、もうその時点で需要と供給ができちゃっていました。
今のように、ネットのオークションやメルカリみたいな便利なサイトはありませんでしたから。
当時その地域でもフリーマーケットを開催している団体はあったのですが、主催する側からすればイベントってかなり事前の打ち合わせが必要ですし、当日の体力消耗に、かなりハードなので、そんなに頻繁に出来ないのです。
なので、もっと沢山やりたいという声が上がり、そこで動くのはハルちゃん並び、そのサークルに参加してくれてたママさん達です。
その力量は凄かったです。
まずは場所です。
小さな子供を持つママさんでも危なくない、安心して買える場所で、駐車場は沢山あるところがいいです。
出店するママさんたちも、きっと小さな子供がいるでしょうから、危なくなく、尚且つ荷物の搬入が楽な方がいいです。
山の中の広いところでは、知名度がないと来たい人がこれないので、そこそこわかりやすい場所がいいです。
まずは、思いついた公園はどうかとなり、そうなると、ハルちゃんは直ぐにその場で電話します。
「公共の場では金銭のやりとりはいけないんだって」
知らなかったです。
あれ?じゃあなんでよく新聞に載ってるフリマやクラフト市みたいなのが出来るの?と思いましかが、まぁよそはよそということで。
結果、地元で大きいお店があったので、そこはどうかと言う意見があがりました。
そのお店なら屋上に広い駐車場があるので、締め切ってしまでは事故は防げるのではないか、と考えたからです。
そうなると、ハルちゃんはその場でまた電話をします。
何この人の行動力、また今度ねで終わらせないのか、という驚きがありました。
そして、そのお店の副店長さんにお会いすることになったのですが。
「店長さんが長期でいないから、副店長さんが聞いてくれるって。」
って、しっかり会う日程まで決めてくれました。
人を巻き込むとこうなるのですね。
いや、巻き込んだつもりはないのですが。
走り出しはネット上だけの交流サイトだったで、そこに目をつけくれてオフ会などたまに様子を見に来てくれた男性がいました。
行政に務めている方で、今で言うと子育て支援課みたいな立ち位置の、当時はそういう名前の部署があるのは知らなかったのですが、そういう働き方をしている方でした。
ちょくちょく声をかけてくれたり、私も困ったことがあると聞けるような、そんな方でした。
今回の話をすると、一緒に打ち合わせに来てくれるとなり、ハルちゃんとその方と私で、副店長さんに会いに行きました。
凄いですね、名刺の力は。
これが大人の世界なのかと知りました。
そして、仕事が出来る男性が1人いるだけで、話の切り込み方が違うのです。
今地元でこんな育児支援の活動をしているお母さんたちがいるのですよ、と、カッコよく紹介してくれますが、聞いてる私からすると
「いや、単に日頃お金が無くて子供の服とか安く手に入ればいいなという、よこしまな思いだけでして……」なんて思います。
副店長さんはとてもいい方で、かなりいい条件でお店の屋上を月に1度、イベントのために貸してくれることになりました。
結果いざイベントをしてみると、お店側はかなり驚いたそうです。
普段お客さんがこない売り出しでもない日に、小さな子供をつれたお客さんが短時間で押し寄せて、フリーマーケットの買い物が終わると、買い物にきたママさんたちはそのままフードコートでご飯を食べたり、店内を買い物をして帰ってくれだそうです。
副店長さんから、喜びの声をいただきました。
そのうち、警備員さんを2人配置してくれるようになりました。
警備員さんへのお金はお店側で払ってくれます。
いやいや本当にみんな凄いです。
結果何度か回を重ねていくうちに、知名度も増して、1回のイベントでお買い物に来る参加者は250人くらいになりました。
田舎なので、それは本当に想像を超えた人数でした。
それもまた、新聞に取り上げていただいたり、ローカルラジオに出させてもらったり、本当に感謝しかないです。
そのうち、イベントのスタッフも増えました。
手伝ってくれるママさんが、1人誘っては、また違うママさんが参加してくれます。
気のいいママさんが、気のいい方を誘ってくれるので、セミのような人はいなくて、10人と少しの人数くらいのスタッフが揃いました。
打ち合わせと称して、公民館の一室を借りて週に1度定期的に集まりました。
みんなそれぞれ、小さな子供がいます。
ママさん1人に対して、一人の子もいれば2人連れてくるママさんもいるので、今思えば賑やかいわけですよね。
私はなるべく一番に行って、公民館の部屋の鍵を事務所から借ります。
お湯を沸かして、ポットにスタンバイします。
家からコーヒーやらお菓子を持ってきて、その頃には人数がポツポツ増えていきます。
内職の道具を片手にくるママさんもいました。
本当にみなさん、よく参加してくれました。
9割方雑談ですが、1割はどうしても打ち合わせが必要です。
回数を重ねる度に、イベントにと、貸してくれる会場が増えて、その度に出店方法やみんなの動きが変わります。
告知不足を解消するために、地元の保育園にチラシを配らせてもらおうとなり、そのためには教育委員会の後援や協賛がいるということで、行政に行ったりもしました。
誰かが言うのですよ。
教育委員会なら、合同庁舎にあるよ、と。
すると、教育委員会は、
「フリーマーケットメインではお金が動くのが目立ってしまって後援は出来ないけれど、何かほかのこともしてくれればいけるかも」
とアドバイスをくれて、それならばと、子育てイベントとして開くことになりました。
開催する度に、地元の人に人形劇をしてもらったり、吹奏楽の演奏をしてもらったりします。その謝礼金が必要なので、スタッフでポップコーンやかき氷を販売してみたり(これは保健所にいって、いい勉強が出来ました)夏は金魚すくいをしてみたり、その度に機械はどこから借りるか、誰が持ってきてくれるか、など、話はどんどん大きくなっていきます。
あれ、フリーマーケットをしたいだけなのに、おかしいなと、何度も思ったのですが、時すでに遅しです。
フライヤーを作るのが得意なママさんがいます。
地元のコミュニティが濃くて、すぐに情報を集めてくれるママさんもいます。
夏は高校生のボランティアスタッフさんも来てくれて、(ちゃんとツテがあるママさんがすごい)子供たちと遊んでくれたりもしました。
私はただ、公民館の鍵を開けてお湯を沸かすだけなのに。
スタッフのママさんたちは無償なのに本当によく参加してくれました。
今でもたまに大人のママ友会と言っては、飲み会をしたりします。
ビアガーデンを企画したときは、過去一番出席率が高くて笑ってしまいました。
子供の頃のをふと思い出すのです。
お友達がいなくて、ペアになれと言われるといつもオロオロしたわたし、
イダ先生に臭いと言われたわたし、
酔っ払って暴れるフサコさんを眺めるわたし、
あのとき、包丁で刺さなくてよかった、こんないい人生が待っててなんて、乗り越えて本当に良かったと、思いました。
とにかく感謝しかないです。