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【短歌】積もりゆく
衝立の向こうにいるのは物書きさん共に物書く積雪の昼
【書く音と雪が導く物語】
大粒の雪を払って、カフェの扉を開けた。
途端にメガネが曇る。
真っ白になった視界とは裏腹に、コーヒーの匂いがふわりと漂ってきた。メガネをコートで乱暴に拭く。店内の温かさに、ホッと息をついた。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「一人です。」
「店内の空いているお席、ご自由におかけください。」
店員さんとやり取りして、私は壁際の二人掛けの席に座る。思ったことをメモしたくなって、私は小さなメモ帳を取りだした。
降り積もる雪が、綺麗だったからかもしれない。
「雪」を綴ってみようか。
お気に入りのペンと百均で買った小さなメモ帳を手に、「雪」で思い浮かぶ言葉を書き込んでいく。
六花、風花、雪あかり、新雪、雪山、積雪、銀世界、牡丹雪、吹雪、氷雪。
「氷」にするなら、他にもあるな。
氷柱、飛沫氷、流氷、樹氷、ダイヤモンドダスト、ブラックアイスバーン、、、
「お待たせいたしました。ブラックコーヒーです。」
夢中で書いていた手を止める。
寒い日の息のように白い湯気を上げながら、香ばしい香りとともにコーヒーがやってきた。
「ありがとうございます。」
お礼を言って、ノートとペンを机の片隅に置く。
フーフーと息を吹き込んで、コーヒーを一口。
香ばしい甘さとフルーティーな酸味、コクリと飲んだ後に残るほろ苦さ。
美味しいなぁ。
いい時間だなぁ。
ゆったりとした雰囲気の中で、ただ思いつく言葉をノートに綴る。なんていい日なんだ。
そっと目を閉じる、
暗闇の中から、カリカリと音が聞こえてきた。
誰かが何かを書いている音だ。
音の発生源は、私が座っている席の衝立の向こう。
お隣さんだ。
カリカリカリカリ、カリカリ。
明るい店内BGMと何かを書く音。
息を吸う事に感じるコーヒーの香り。
まだ熱いコーヒーカップ。
ぽかぽか暖かい店内。
目を開けて、メモ帳とペンを持つ。
もう少し書きたい。
「冬」がテーマなら、どんな言葉があるだろう。
雪景色、スキー、スケート、スノボー、コート、手袋、マフラー、鍋、クリスマス、お正月、初詣、バレンタインデーもあるな。ホワイトデーは冬か春か怪しい。地域によるかもしれない。ああ、スノードームも「雪」の名がついていていかにも冬っぽい。
隣の物書きさんの書く音に触発されて、私もカキカキ、カキカキ。
窓の外は一面の白。
目の前にあるのは、元は白かったメモ帳。
今はノートいっぱいに書かれる冬と雪の文字。
まだまだ響くカキカキという音。
夢中になって言葉を書く。
コーヒーが白い息を吐くのをやめて冷めても、私の中にある熱は冷めなくて、しばらくは言葉の世界へ旅立っていた。
1時間後私が飲んだコーヒーは、私の頭を冷ます、雪解け水のように冷たいコーヒーだった。
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