【 】この先は任せます。
もしも今世界が終わるというのなら
【翳る日さえも物語】
夜のような昼が始まった。
大きな星が太陽に重なる。
明るい空色の中に少しずつ暗い色が溶けていく。
薄暗い空の片隅に、おびえたような雲が身を寄せ合い、悲鳴のような、掠れた風が吹き抜けた。
もうすぐ、太陽を飲み込んだあの星が落ちてきて、世界は終わる。
僕は草原で寝転んで、ただ終わりゆく空を見上げていた。
一週間前、世界の偉い人が言った。
「この星に、巨大な隕石が落ちる。誰も止められない。」
たくさんの反論があった。
たくさんの検証が行われた。
そして昨日、世界の偉い人達が口を揃えていった。
「明日、この星に巨大な隕石が落ちる。この星に生きるものはいなくなるだろう。」
その瞬間、怒鳴り声と泣き声が町中に響いた。
それは、絶望の音だった。
感情的になった人は恐ろしい。
なんの意味もなく建物を壊す。
大事にしていたものを衝動的に燃やす。
辺りに響く、怒号とすすり泣き、悲鳴と崩れる音と燃える音。あちらこちらから舞い上がる砂埃や燃えかす。焦げ臭いにおいがして、呼吸が苦しい。
───うるさい。
───苦しい。
───怖い。
煙が立ちこめる町の中。
必死で父さんと母さんを探す。
けれど、「食べ物を持ってくるから」と言って家を出た両親が、再び家に帰ってくることはなかった。
僕は、ひとりぼっちだ。
明日、世界が終わるのに。
僕は、ひとりぼっちだった。
僕は、怖くてたまらなくて、家から飛び出し走り出した。 心臓がバクバクする。足がパンパンだ。 それでも走って走って、、、
誰もいない草原にたどり着いた。
やっと、落ち着く場所を見つけた。
そう思って、草原に寝転んだ。
世界が終わる前日は、美しい星空が広がっていた。
鳥のさえずりが聞こえて目を覚ます。
体を起こすことさえ億劫だった。
世界の終わりをカウントダウンする空を、寝転んだまま、僕はずっと見ていた。
そして、太陽が欠け始めた。
空が青いまま、黒ずんでいく。
世界が終わりを感じた。
草原は相変わらずのどかだ。草花の香りがして、蝶々が飛びまわるパタパタという音がする。
空だけが、終わりの予感を感じて暗い。
翳る空を見続ける。
大好きだった遥かな青い空は、もう二度と見れないだろう。だって今日で全てが終わるんだから。
父さんも母さんもいない、一人ぼっちの草原。
僕はここで世界の終わりを迎える。
寂しいけど、涙も浮かばなかった。
だって、どうしようもないのだ。
何をしたってもう変わらないんだから。
今更泣いたって、仕方ない。
もう一度会いたくて探しても、見つからなかったのだ。やりたいことなんかない。何をしても、未来なんてない。
僕は、両手両足を広げ、大の字になった。
その時、
僕の視界に一羽の鳥が現れた。
暗い空を背負う鳥。
パタパタと羽ばたきながら左から右へ飛ぶ鳥を、僕は目で追う。
あの鳥は何色だろう?
白?いや黒?灰色?
何色か分からない。
逆光でよく見えないから、わからない。
──────あ。
僕は気づいた。
空が明るいから、逆光で鳥の色が見えない。
空がまだ明るい。
空が明るいなら、まだここに世界がある。
まだ、世界は終わっていない。
ぶわっと涙が溢れてきた。
なんの涙か分からない。
けれど、確かに僕の心に何かが宿った。
僕は勢いよく、立ち上がった。
もしも今世界が終わるというのなら
○あとがき
世界の終わりの続きは、読者に。
願わくば、この先に素敵な未来がありますように。
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