勿忘草、語ります。/ラーメンの熱き物語。
美味しいラーメンに胸を打たれたから、語る。
私には、お気に入りのラーメン屋さんがある。
ラーメン屋さんが沢山あるこの街の中でも、私は昔ながらの醤油ラーメン屋さんと、シャキシャキした玉ねぎととろけるようなシャーシューが乗っている豚骨ラーメン屋さんが同率1位で大好きだった。
ひそかに、2大エースラーメンと呼んでいた。
ラーメンを食べに行こうと誘われた時、この2大エースラーメンを候補に挙げると、「お前はそこ好きだな。」と父に呆れられた。
しかし、時代は変わるもの。
お店が人気になっていくと、お店が移転する。
それをきっかけに具材が変わり、味が変わる。
私の2大エースラーメンも人気となり、その一途を辿った。
昔ながらの醤油ラーメン屋さんは、塩ラーメン主体のお店になった。醤油ラーメンもある。しかし、主体となる塩ラーメンに合わせて作られた麺は、私が好きだった醤油ラーメンの風味を変えた。
豚骨ラーメンのお店は、具材が豪華になり、見た目も時代に合わせてオシャレになっていった。シャキシャキした玉ねぎが少なくなり、チャーシューが鶏肉になった。
もちろん、どちらのお店も美味しい。
変わったとしても、美味しいお店は美味しいお店のままだ。
ただ、「あの頃の味が食べたい。」という私の想いは、「変わった味」では消化しきれない。どこか物足りなさを抱える日々が続いた。
ある日、ラーメン好きの父が言った。
「お前が好きな豚骨ラーメンのお店、前のラーメンも復活させたぞ。」
耳を疑った。
もしそうなら食べたい。
しかし、同時に行くのが怖かった。
お店が「昔のラーメン」だと言って提供してくれるラーメンが、私の思っていた味と違っていたら、立ち直れそうにない。
2ヶ月、3ヶ月と過ぎたある日。
どうしても我慢できず、私は決心して父と豚骨ラーメン屋さんへ向かった。
店員さんに注文をした後、私は試合前の武士のような静かな心持ちでラーメンを待っていた。同じく待っていた父が、私の気迫に若干引いていた。
店員さんの声と共に、わたしのもとにラーメンが届けられた。
そのラーメンを見て私ははっとする。
ラーメンどんぶりの中に入っているのは、たっぷりのシャキシャキ玉ねぎ。
分厚くて今にも溶けそうなチャーシューは、濃い茶色の豚肉だ。
ほんの少し載せられたほうれん草は、こってりとした豚骨ラーメンの中に色どりを添えた。
マスクを外すと香ってきたのは、まさに私の2大エースラーメンとして輝いていたあの時の豚骨ラーメンだった。
目を輝かせてラーメンを見つめる私を見て、父が確実に引いていた。構わない。
左手にレンゲを、右手に箸を持つ。
「いただきます。」
掛け声の後に麺を啜った。
そのラーメンは、私の期待を裏切らなかった。
スープが熱くてなかなか食べすすめられないが、箸は止まらない。若干、舌がひりひりする。一口目を食べた時、舌をちょっと火傷したかもしれない。それでも、次々に口に入れていく。
シャキシャキの玉ねぎは少し辛い。しかし、こってりとしたスープに絡んで美味しい。ラーメンと絡めると、麺のもっちりした感触と玉ねぎのシャキシャキ感が素晴らしい歯ごたえを生む。
次に、麺とチャーシューをターゲットにした。
とろけるシャーシューは、箸で持っただけで半分くらい千切れる。そのまま半分にして口に入れる。ジューシーで香ばしい味が口いっぱいに広がって滑らかに油が溶けた。
箸休めに麺とほうれん草をいただく。油を吸っているほうれん草も、このラーメンの中ではさっぱりした後味になる。
次々と口に運ぶ。
シャキシャキ、
ずるずる、
もぐもぐ、
シャキシャキ、
もぐもぐ。
復活した私の2大エースラーメンの1つは、
「復活のエースラーメン」に改名して、
私のもとに戻ってきた。
ここに来るまでに色々あっただろう。
今、豚骨ラーメン屋さんは色々な味のラーメンを出している。たくさんの工夫をし、挫折とチャレンジを繰り返し、強くなった。
そうしてまた、私の元に戻ってきてくれた。
お店の店員さん、ラーメンの麺職人さん、そしておごってもらう予定の父に感謝しながら、私は完食した。
「ご馳走様でした。」
本当はスープも飲み干したいが、もうおなかが一杯だった。私の代わりに父がスープを完食した。
あーーー、ラーメン美味しい!!!!!!