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【物語】ピカピカのバイバイ


「帰りたくない!わぁぁーーん!!!」


悲しくて仕方ないというように、
絶望を前にしたように、
小さな子から大きな泣き声がした。

思わず振り返る。

仕事の帰り道。
自宅に帰る前に通る道沿いにある小さな遊園地。
その出口の真ん中で、顔を真っ赤にした男の子が座りこんでいた。

遊園地の帰り道なのだろう。
わあわあ、と切ない叫び声を上げている。

小学1、2年生くらいの男の子。
きっと10分前までは、真夏のひまわりのように笑っていただろうに。
今は、滝もびっくりするほどごうごうと涙を流している。

鈴虫が鳴き始めた群青色の空。
一番星がかすかに光る。

紅葉の赤なのか、
夕日の赤なのか、
どちらとも言えない色で山が赤く染る。

楽しい時間が終わる。
それが嫌だと駄々をこねるように、夕日がゆっくりと沈んでいく。
群青色の空が待っているのに、山際に残った真っ赤な夕日は、時間を稼ぐようにゆっくり沈んでいる。

帰りたくない。
帰らないといけない。

顔を真っ赤にした男の子が、涙を浮かべて主張する。

「帰りたくない!!!」

いい加減にしなさい、とお母さんらしき人が声を荒らげた。


楽しかった思い出が、ガラガラと崩れてしまいそう。

そう思ったその時。


観覧車が、花火のように光った。

刹那せつなじゃ消えない真ん丸な花が、明るく山を飾った。
山際でピカっと咲く花は、七色にその身を変える。

ダボダボと涙を流していた男の子が、
観覧車を見上げて驚いて泣き止む。

イライラしていたお母さんが、
観覧車を見て口を開けたまま沈黙する。

カラフルなイルミネーションで着飾った観覧車は、
遊園地の帰り道さえもみんなを楽しませようとする。


「帰っても思い出は消えないよ。」
「ほら、帰ろうよ。」
「またね。」


観覧車の声が聞こえる。


光を見た男の子は、
グズグズと鼻を啜りながらお母さんの手を握った。

もう、と呆れたように笑ったお母さんが、
その小さな手を握り返した。

ピカピカの笑顔を浮かべた遊園地が、
華やかなバイバイをする。

さぁ、帰ろう。


美しい夕日が秋の山に降りた。
そして、愛しい一日を惜しむように紅葉する山の背に帰った。

やっと出番か、というように群青色の空が上がる。
一番星が瞬いた。

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