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乳がんのサブタイプと治療法を徹底解説!あなたに合った治療方針とは?

乳がん基礎講座⑤



こんにちは!
今日もご覧いただき、ありがとうございます。

前回の記事では
・乳がんがどこからできるのか
・非浸潤がんと浸潤がんの違い
・乳がんの完治のためには手術が欠かせないこと
・浸潤がんの場合には、手術だけではなく、全身へのお薬の治療も必要になること
などをお話してきました。

今回は、乳がんの全身へのお薬としてどんな薬を使うのか、使う薬の種類と決め方、治療方針の決め方について解説していこうと思います。


乳がんのサブタイプ

一言で乳がんといっても、実は、乳がんにはいろいろな種類(サブタイプ)があり、サブタイプごとに性格も違います。
このサブタイプに合わせて、戦い方=治療方針(薬剤の種類や治療の順番など)を選択していきます。

乳がんのサブタイプは、実際にしこりに針を刺して細胞を取る検査(針生検)で取ったがん細胞を顕微鏡で詳しく見る(病理検査)ことで調べていきます。

がん細胞の形や構造から悪性度を判断し、また免疫染色という特殊な染色を追加して、性格を分類していきます。

がんの性格の分類のために、
女性ホルモン受容体(ER、PgR)*
HER2(ハーツー)
Ki67(キー67) 細胞の増殖のスピードはどのくらいか
などを免疫染色で調べます。

(*ER:エストロゲンレセプター、 PgR:プロゲステロンレセプター)

女性ホルモン受容体(ER,PgR)を持っている乳がんは、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)を餌にして育つタイプなので、女性ホルモンを抑える飲み薬、ホルモン剤が効くタイプです。
HER2が陽性になるタイプはHER2タンパクをターゲットにした分子標的薬である抗HER2療法が効くタイプです。
女性ホルモン受容体もHER2も陰性の場合には、抗がん剤治療(化学療法)が行われます。


乳がんのサブタイプ

この病理検査の結果により、乳がんは大きく分けて以下のようなサブタイプに分けられます。

①ルミナルタイプ(ER/PgR陽性、HER2陰性)
女性ホルモンを餌にして育つタイプの乳がんです。このタイプはLuminal(ルミナル)タイプと呼ばれ、乳がん全体の60~70%程度を占める、一番多いタイプです。ルミナルタイプは増殖力により、ルミナルAタイプとルミナルBタイプに分けられます。

ルミナルAタイプ
女性ホルモンを餌にして育つタイプのうち、おとなしくて増殖スピード(ki67)が低いタイプです。こちらはホルモン治療(飲み薬で女性ホルモンを抑える治療)がよく効き、逆に抗がん剤は効きにくいタイプになります。
このタイプは治療の中心はホルモン剤になりますが、手術の結果によって脇のリンパ節の転移が多かったり、がんの大きさが大きかったりなど、再発のリスクが高い方の場合には手術後に抗がん剤を追加で使うこともあります。

ルミナルBタイプ
女性ホルモンを餌にして育つタイプのうち、増殖能が高い=Ki67が高いタイプです。
増殖能が高いので抗がん剤がよく効くタイプになり、再発リスクにもよりますが、ホルモン剤に加えて、抗がん剤治療も追加で行うことが多いタイプです。

②ルミナルHER2タイプ
ホルモン受容体陽性かつHER2も陽性になるタイプです。増殖能が高いタイプが多く、HER2タンパクをターゲットとした分子標的治療(抗HER2療法)がとても効果があるので、ホルモン剤に加えて、抗HER2療法と抗がん剤を組み合わせた治療が行われます。

③HER2(ハーツー)タイプ(ER/PgR陰性、HER2陽性)
女性ホルモンとは関係なく、HER2陽性のタイプです。このタイプは通常、増殖能が高いタイプになります。こちらは抗がん剤と抗HER2療法を組み合わせた治療が必要になります。

④トリプルネガティブタイプ(ER/PgR陰性、HER2陰性)
女性ホルモン受容体(ER/PgR)もHER2も陰性のタイプです。この中にもいろいろなタイプがありますが、多くは悪性度が高く、Ki67も高いことが多いサブタイプになります。ホルモン剤も抗HER2療法も効果がないので、治療には抗がん剤を使うことになります。

乳がんのサブタイプと治療で使う薬剤


治療方針の決め方

乳がんの治療方針は上記のサブタイプと乳がんの進行度(乳房の中、と、全身への広がり)によって、総合的に決めていきます。
乳がんは同じ側の脇のリンパ節に転移しやすく、またほかの部位としては肺や肝臓、骨、脳などに転移を起こしやすいです。

マンモグラフィ、乳腺エコー検査、乳房MRI検査で乳房内や脇のリンパ節への乳がんの広がりを評価します。合わせて、CTやPET検査などで全身精査を行います。全身精査により術前の進行度、Stageが決まります。

もしここで、ほかの部位に転移が見つかってしまったら、、、
残念ながら転移性乳がん(StageⅣ)の診断となってしまい、この場合はなかなか根治が難しく、乳がんとうまく付き合いながら、より長く元気に生きられることが治療の目的となります。

ほかの部位に転移がなければ、根治を目指して、しっかり乳がんをやっつけることが治療の目的となります。
この場合には根治のために手術や放射線治療などの局所治療と、薬剤による全身への治療を組み合わせて、総合的に治療を行います。
局所療法によって乳房や脇のリンパ節にある目に見えるがん細胞を取り除き、お薬により、血管やリンパ管内に入って全身に散らばっている、小さながんの種が転移を起こさないようにやっつけるのです。


乳がん根治を目指した治療の流れ

多くの場合にはまずは手術を行います。
乳房内の乳がんの広がりによって、乳房部分切除術もしくは乳房切除術を行います。
また手術前の検査で脇のリンパ節転移があることが分かっている場合には、脇のリンパ節を取る手術(腋窩リンパ節郭清)を一緒に行います。脇のリンパ節への転移がなさそうな場合には、転移がないかを調べる検査(センチネルリンパ節生検)を手術中に行います。
(手術についてはまた別の記事で解説していきますね。)

手術で取り除いたものを細かく切って、顕微鏡でみる病理検査で詳しく調べます。がん細胞の顔つき、悪性度、大きさ、リンパ節への転移の有無/個数などを評価、サブタイプの再確認をし、病理検査の結果によって、術後のStageを決定します。
これにより乳がんの再発リスクを評価し、また年齢や合併症なども考慮し、サブタイプに合わせた治療方針を決めていきます。

手術の前に抗がん剤治療を行う場合も

ただ、HER2陽性のタイプやトリプルネガティブタイプの場合には、手術の結果によらず、必ず抗がん剤治療を行うことは決まっているので、手術の前に抗がん剤治療(HER2タイプの場合には+抗HER2療法)を行うこともあります。

手術前に抗がん剤治療をすることで、実際にそのがん細胞にこの薬剤が効果があるのかを知ることができます。
術前の抗がん剤治療がとてもよく効いて、手術の時にはがん細胞が消えてしまっていることもあります。(特に抗HER2療法を組み合わせた治療はよく効くことを多く経験します。)その場合でも、現時点ではがんが消えてしまったことを確認するために、もともとがんがあった部分を切除する手術は必要ですが、手術でとる範囲を小さくすることができます。(将来的には手術をしない選択肢も可能になってくるかもしれません。)

またルミナルタイプでも手術前の評価の時点で、リンパ節転移の数が多くて術後に必ず抗がん剤を行うことがあらかじめわかっている場合や、現状ではしこりが大きくて部分切除は難しいけれど、どうしても乳房を残す部分切除術をしたい場合にはしこりが小さくなることを期待して、手術前に抗がん剤治療を行うこともあります。


患者さんお一人お一人の乳がんの進行度やサブタイプ、そして治療に求める優先順位、希望、価値観は皆さん異なります。
お一人お一人に寄り添って、それぞれにぴったりな治療方針を決めていくことになります。


もし乳がんになってしまった場合には、自分の乳がんがどんなサブタイプでどの程度広がっているのか、どういう治療が必要なのかをしっかり理解し、また自分が治療していく上で大切にしたい優先順位は何なのかをしっかり考え、一緒に治療方針を決めていくことがとても重要です。


まとめ

・乳がんにはサブタイプがあり、サブタイプごとに性格が異なり、効果がある薬剤も異なるため、タイプに合わせた治療が必要になります。

・根治のためには手術などの局所療法と全身への薬物治療が必要で、サブタイプや乳がんの進行度によって治療の内容や順番も変わります。しっかり治療を行うためには、まずは自分の乳がんのタイプを理解することが重要です。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!
一般の方にとっては、少し難しい内容になってしまいましたね…
少しでも乳がんの治療のイメージがついていれば幸いです。

次回は手術について解説していきますね。
またお会いしましょう(^^♪






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