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乳がんの手術:乳房部分切除術と乳房切除術、センチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清

乳がん基礎講座⑥



こんにちは。
今日もお読みいただき、ありがとうございます!

今回は再び乳がん基礎講座⑥として、乳がんの手術について、解説していきたいと思います。
少しマニアックな内容かと思いますが、もし興味がある方がいらっしゃいましたら、少しでも参考になればうれしいです。

前回お話ししたように、乳がんの診断がついた際には、乳がんのサブタイプと乳がんの進行度(乳房の中、と、全身への広がり)の両方を精査し、総合的に治療方針を決めていきます。そして、乳がん完治のためには基本的には手術は不可欠というお話をしました。

詳しくはこちらを☟


乳がんの手術を行う際には乳房への手術と合わせて、一番に乳がんが転移しやすい同じ側の脇のリンパ節に対しても手術を行います。

乳房に対しては
乳房部分切除術 もしくは 乳房切除術 の 2通り

脇のリンパ節に対しては
センチネルリンパ節生検 もしくは 腋窩リンパ節郭清 の2通り

があります。

乳房の中での乳がんの広がりの程度、脇のリンパ節への転移の有無により、それぞれへの手術の方法を決めていきます。
乳がんの広がり、脇のリンパ節への転移の有無の可能性については、マンモグラフィ、乳腺エコー、乳房MRI検査、診察所見(皮膚の状況やしこりの可動性など)を組み合わせて総合的に評価します。


乳房の手術:乳房部分切除術 vs 乳房切除術


どういう人が部分切除術の適応になるの?

部分切除術が選択肢となるのは、乳がんの広がりが限局的で、乳頭までは乳がん細胞が広がっていない場合です。
がんを確実に取り除くため、手術の際には周囲に1㎝程度の安全域、マージンをとって切除する必要があります。つまり、しこりの大きさが2㎝程度であれば4㎝程度の範囲の切除が必要です。その範囲をしっかり切除したうえで、残りの乳房を縫い合わせたりなどして形を整え、ある程度きれいな形の乳房として残せる場合には部分切除術も選択肢となります。

元々の乳房の大きさや、
乳がんができた場所(乳頭より上なのか下なのか、内側か外側か)
によっても変形のしやすさが変わってくるので、一概に
「がんの広がりが何㎝までなら部分切除ができる」
というのは難しいです。

乳頭より下の方、足側にできた場合には、手術の際の変形が強くなってしまうので、部分切除術を選びにくいこともあります。
また乳頭までがんが広がってしまっている場合には、乳頭も一緒に切除する必要があるので、通常は部分切除よりは乳房切除術を選ぶことになります。

部分切除術を行う場合には、残した乳房への乳がんの再発を防ぐために、基本的に残した乳房への放射線治療もセットとなります。
乳房切除術を行った場合には、通常は放射線治療は必要ありませんが、リンパ節の転移の数が多いなど、再発リスクが高い方の場合には、放射線治療も追加になることがあります。

放射線治療は1回あたりの治療時間は数分と短いのですが、それを25回*など繰り返し行うので、例えば平日5日×5週間などの通院が必要となります。
そのため放射線治療のための通院が難しいような場合(ほかの合併症があったり、高齢だったりなど)には、部分切除は選ばず、乳房切除術を選択する場合もあります。
(*今は治療の回数を減らした方法も行われるようになっています。)



乳房部分切除と全摘術の、どっちがいいの?⇒結論、、、人によります…。予後=「治る可能性」は基本どちらも同じです。


乳房全摘出術と部分切除術を比較した場合に、
「部分切除ですむのであればそっちがいい!」
と思う方もいるかもしれませんが、必ずしも部分切除がベターというわけではありません。

無理な部分切除術では術後の変形が強くなってしまう可能性があり、イメージと異なる、変形した乳房になってしまう場合もあります。
むしろ、よりきれいな形の乳房を得ることが目標となるのであれば、乳房全摘術+乳房再建のほうがいいかもしれません。

さらに、部分切除術の場合には、再手術が必要になるリスクが全摘術よりも高くなります。
手術の後には、手術でとったものを細かく切って、詳しい顕微鏡の検査(病理検査)でがんの広がりや、手術でしっかりとり切れているかを調べます。
部分切除術の場合には、病理検査で切除したものを調べると、手術前にはわからなかったがん細胞の広がりがあり、手術でがんが取り切れていないという場合も起こりえます。その場合は、再度の手術が必要になることもありますし、術後の放射線治療の回数を増やすことで対応する場合もあります。

また、乳房を残すことで、残した乳房へまた乳がんができるリスク(再発もしくは新しい第二のがん)は多少あるのですが、その場合には再度、治療をしっかりすることで、基本的には乳房部分切除術+放射線治療と乳房全摘術で予後に差はないとされています。
乳房全摘術のほうが、部分切除術よりも予後がよくなる=治る可能性が高くなる、というわけでもないということです。



先ほど、乳房全摘術の場合には乳房再建をする選択肢があるということを書きましたが、再建する、とういのも、実は、一筋縄ではいかないんです…

乳房を再建する方法としては、大きく分けて、
①人工物、シリコンを入れる方法 と、
②自分の体のほかの部分の筋肉や脂肪(背中やお腹など)を使って再建する方法
がありますが、基本的に何度も手術が必要になり、それなりの意欲、やる気がある方でないと大変だと思います。


脇のリンパ節への手術:

センチネルリンパ節生検 vs 腋窩リンパ節郭清

乳がんは一番初めに、同じ側の脇のリンパ節へ転移しやすいです。
そのため、以前は乳がん手術の際には同じ側の脇のリンパ節を全部取る手術=腋窩リンパ節郭清が同時に行われていました。

しかし、脇のリンパ節を取ってしまうと、術後の後遺症として「リンパ浮腫」といって腕がむくんでしまったり、慢性的な神経痛やしびれが残ったり、肩が動きにくくなったりなどのリスクも高くなります。
そのため、リンパ節を全部切除する必要のなさそうな症例=脇のリンパ節に転移がなさそうな症例に対しては、必要以上にリンパ節を取らない手術としてセンチネルリンパ節生検が導入されました。

センチネルリンパ節生検(Sentinel Lymph Node Biopsy, SLNB)は、がんが最初に転移する可能性が高い「センチネルリンパ節」(見張りリンパ節)を特定し、検査する方法です。腋窩リンパ節郭清とは異なり、全てのリンパ節を切除するのではなく、最もがんが転移している可能性の高いリンパ節だけを手術中に摘出し、手術中の迅速病理検査に出し、がんの転移がないかを調べます。
通常30分~1時間ほどで結果が分かり、センチネルリンパ節にがんの転移がなければ、それ以上、脇のリンパ節は切除しません。
もし、リンパ節にがんの転移があった場合には、転移しているがんの量に応じて、がんが少なければ追加で近くのリンパ節を切除のみすることもありますし、転移の量が多ければ、リンパ節をすべて取り除くリンパ節郭清という手術を追加する場合もあります。

センチネルリンパ節生検のみで終了できれば、リンパ浮腫や神経痛のリスクが低いため、術後の患者さんのの生活の質(QOL)を維持しやすくなります。


まとめ

少しマニアックな内容で、わかりにくいかもしれないですね(~_~;)
それだけ、症例により状況が異なり、いろいろな選択肢があるということです。

がんの大きさだけではなく、もともとの乳房の大きさ、がんのできた位置、脇のリンパ節転移の有無、加えて、手術後の生活で何を一番優先したいのか、例えば、手術後の乳房の形が第一優先とか、再手術は避けたいとか、放射線治療を避けたい…など、患者さんの価値観次第で、ベストな手術の方法は変わってきます。

後悔のない治療の選択肢を選ぶためには、自分の乳がんの状況を把握し、自分の治療における価値観に優先順位をつけたうえで、それぞれの手術の方法のメリット、デメリットをしっかり理解し、納得して、自分自身で治療方針を選ぶことが一番大切だと思います。

納得できるまで、主治医の先生からしっかり話を聞いてくださいね。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました(^^♪


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