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もう「父」と呼べなくなっていくカウントダウン ③

心の中では不満を抱えながら、
私・妹・そして(母方)のおばあちゃんとともに
故郷に向かった。

そこには久しぶりに会う(父方)おばあちゃん、
そして少し疲れた表情の母がいた。
母の疲れた姿を見て、「なんでだろう」と感じたが、
理由を知るのはもう少し後のことだった。
そして、そこには父の姿はなかった。
父は動けず、奥の部屋にいるというので、
挨拶しに行った。

久しぶりに会った父は、
もはや別人のようだった。
父は完全に寝たきりで、以前の元気な姿からは想像もできないほど弱っていた。
それでも私たちを見ると、
世界一幸せそうな笑顔を浮かべていた。

私は素直になれなかった。
弱り切った父をみてどう接すればいいのか
…わかんなかった。
ただ父と同じ部屋に居ることしか出来なくて、
パソコンゲームをしてるふりをした。

そして、なんで母に久々に会った時あんなに疲れてたか分かった。
最初は疑問だった。
父の母もいて、姉も妹もたまにくるのに、
なぜあんなに疲れた顔してたか。
みんなで交代交代世話をしてたんじゃないのか??
と思っていた。
でも、
実際のんが後々(母方)おばあちゃんに聞いた話は、
母一人で毎日ずっと父の世話をしていたらしい。
父方のおばあちゃんは何も手伝わず、
母に負担を押し付けていたらしい。
慣れない環境で、家族の世話に気を遣いながら、母は懸命に父に尽くしていたのだ。
それを知ったとき、
母の疲れた表情の理由がようやくわかった。

数週間が経った頃、
私と妹、(母方)のおばあちゃんは予定より早く帰国することになった。
その理由を後から知った。
(父方)おばあちゃんが母にこう愚痴をこぼしたという。

「妹の泣き声がうるさい。長女はずっとパソコンしてるし、何のために来たの?」
「こんなんで私の息子がどう療養できるの!?」

母は言い返すこともなく、
母は最後まで看病して一緒にいたいと言って、
「のんは学校もあるから」と私たちを先に帰国させたらしい。

だが、さらに残酷な出来事が待っていた。
私たちが帰国した後、母もほどなくして帰国することになったと聞いた。
理由を尋ねた(母方)おばあちゃんから知らされたのは、あまりにもひどい出来事だった。

その日、母が父のためにマーケットで食べられそうなものを買いに出かけ、帰宅したときのことだ。なぜか鍵が使えなくなっていた。
家の中にいたお義母さんに電話で頼んだが、
返ってきたのは冷たい言葉だった。
「鍵は変えたわよ。日本へ帰れば?財産目当ての女狐が。」

母は何度も懇願した。
「財産なんていりません。ただ夫の世話を最後までしたいだけなんです。どうか入れてください。お願いします」

だが返ってきたのはこうだった。
「そんなの信じれるわけないでしょ?もう日本に帰りなさいよ。あなたに財産なんて一銭たりともあげないわよ!」

ただ、日本に帰るにしても重要品が部屋の中のままだった母は、
「そんな事言われてもパスポートとか諸々部屋の中なんです。せめて取らせてください」

それでも拒まれた。
仕方なく警察に助けを求め、ようやく中に入れたという。

母が見た最後の光景。
家の中では、父方の母、父の姉、妹が勢ぞろいしていた。母を盗人でもみるような鋭い目で睨みつけていた。
そんな中、母は急ぎ足で荷物をとりに部屋に入った。

荷物を取るために父のそばを通ったとき、
母は父に言った。
「少し日本に帰らなければならなくなったの。またすぐに来るからね。」

父は、自分の母が奥さんに言っていた事を全部聞いていたのだ。意識がはっきりしていたが、ただ声を出すことがほとんどできなかった。
それでも、母に向かって
「行かないでくれ、君は俺の奥さんだ。いてもいいんだ。」と、必死に口を動かしていたという。

ただ、そうもいかない事も知っていた。
涙を必死で堪え、その場をあとにした。

(それが母と父の最後の別れとなった。)


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