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【エッセイ】季節のはざまに

公園の草むらのそばでコオロギの鳴き声をきき、森の坂にさしかかると蝉の声が響いてくる。汗ばんだ肌をゆるい風がなでると、そこに夏と秋がせめぎあうような気がする

歩きつづけると、体にこもりはじめる熱に去りかけていた夏が戻ってくる。みんながいたときにはできなかった話を、ここでしよう

秋らしい風が吹いて起こる涼しさのなかで、ほのかな火照りが体にこもる。涼しさに閉じ込められて熱の形が鮮やかになる。あるいは去りかけの夏の形が?

同じ岩肌でも夏の手触りと冬のそれは異なっていて、それぞれに違う沈黙があり、その沈黙の数だけその石の姿がある。

見逃されることもなかった石のおもかげ

体の火照りの中からじんわりとしみてくる、私の知らない君の熱。私の知らなかった夏はもういない。

私たちの火照りに私の知らない君と私が溶けていた

涙がちゃんとした色をしていたなら、人は冬の夜にしかそれを流さなかっただろう

「私と君のあいだに滑り落ちていった知らない季節を知りたいが、私にできるのは思い出すことだけだ。年をとったせいか、それとも年をとれないせいか」

私たちはからだの端でしか触れあえず、季節も互いの端でしか触れ合わない
風を肌で感じたあのとき、夏と秋と私の果てが重なったのだ
そしてその重なりを、誰にも知られずに過ぎていった季節があった


読んでくれて、ありがとう。

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