【エッセイ】(絶対的に)「できる」「できない」
すべてを滅ぼせるような能力をもった存在は、きっと、それだけの能力をもっているために、すべてを滅ぼさない。
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すべてが滅んでしまえば、その力の行使先がなくなって、その力自体が無意味になってしまうからだ。その力それ自体が失われてしまう、と言い換えてもあまり差しさわりがないくらいには。
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それよりは、その能力の一端を小出しにしながら、ゆっくりと時間をかけて、その滅ぼせるはずの「すべて」と共に、徐々に滅んでいくだろう。それが、その能力が能力として生きながらえる唯一の道であり、その存在が自分自身を保つ唯一の方法だからだ。そうして、その「すべて」が弱体化していくのと比例して、その存在自身も弱っていく。
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だから、すべてを滅ぼすことが「できる」というその絶対さは、かえって、そのすべてを滅ぼすことが「できない」。このような「できない」に比べれば、他の「できない」はささいなものだ。
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絶対的な「できる」が、ひとつ影をひそめることで、無数の小さな「できる」が生かされることになる。たった一人の犠牲、身代わりによって、あるひとつの世界が生まれる、というように。
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あるいは、ちがう考え方をするなら、私たちの小さな「できる」は、「できない」も、いつかの、どこかの、誰かの、何かの、つまり他の「できない」のおかげで、成り立っているのかもしれない。
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私たちが極小の細胞の集合であるように、より大きな自然の一部であるように、私たちの「できる」は、もっと小さな「できる」の組み合わせであり、もっと大きな「できる」の一部である、と。
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「私」が極小の細胞の集合の隙間であるように、より大きな自然に開いた無数の小さな穴のひとつであるように、私たちの「できない」は、もっと小さな無数の「できる」の組み合わさりのあいだに浸透する隙間のようなものであり、もっと大きな「できる」に、スポンジの空洞のように開いた穴のひとつである、と。
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あるいは、私たちの「できる」は、もっと小さな無数の「できない」の組み合わさりのあいだに浸透する隙間であり、もっと大きな「できない」というスポンジに開いた、小さな穴のひとつである、と。
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ただひとつの絶対的な「できる」の沈黙によって、「できる」と「できない」が生じてくる
あるいは、どんな「できる」も「できない」も、もっと複雑な組み合わさりの結果なのか
すくなくとも、あるひとつの小さな「できる」「できない」が、他の「できる」「できない」の影なのはたしかだ
この言葉はどんな「できる」「できない」が落とした影だろう
読んでくれて、ありがとう。