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重力の声のゆくえ

あなたを引くこの重力は、あなたを選び取った重力であり、あなたが選び取った重力でもある

それはいつもあなたを、あなた自身よりも高いと同時に低い場所にとどめておく
昔どこかでやっていたなにかの実験で、あなたがそういうことをしたように

試すように体の、心の、節々に重みをかけながら重力は、居心地の良い場所を探してる
人はその結果重力のたどりついた場所を重心と呼ぶけれど、いつだって重力はそこから逃げ出したがっているのだ。重みのはじまり。心のはじまり

二人とも逃げ出す前から逃げ出したがっている
重力の重みとは、ずっと泣きたいと思いながら口喧嘩をしているときの「泣きたさ」みたいなものだ

涙にこもる透明な重力に自分自身も溶けていけたら
そうやって焦がれるところで、あなたははじまっていく
だけどきっと涙も、あなたのために泣きたがっていたのだ
自分では涙を流せないことから自分自身をはじめながら

私たちから逃げ出そうとする重力の声は、世界の果ての無にまで働きかけるだろう
もちろんそれは、私たちから遠ざかるほど微かなものになっていく
「果て」を通りすぎるときにはもはや、声というより無音に近い

私たちから逃げ出そうとする重力の声は世界の果ての無にまで届く
もはや音よりも無に似ていきながら
けれどもだからこそ、無に近いからこそ、むしろ無に触れられるとでもいうかのように

もはや逃げたかったことも忘れて、立ち止まることも忘れて、停止するのではなく溶けて消えていくそのとき

届かないことと届くこととがかぎりなく似ていくその先で

声は届かないで届いていた


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