ダイオキシンが出ないポリエチレン素材です
この文句を読んだとき、素直に「ラップはポリエチレンだってことに加えてポリエチレンは燃やしても大丈夫って教えてくれているんだな。親切だなぁ」と思った。
これはポリラップの最初に剥がす開け口の部分に印刷されている。誰にとっても使用済みラップは燃やすゴミに捨てていいよってことが分かって有益な情報に思える。
「容器包装って余計なことぐちゃぐちゃ書いてあることが多いけど、これは良い情報だよね〜」
妻に報告しに行った。ポリエチレンの化学構造は以下の通りで、可燃ごみ中に水気たっぷりの生ゴミ比率が高い昨今、ゴミ焼却には重油を加えて燃やしているが、ポリエチレンはそれ自体が燃料になる。
重油(安価なC重油だけど)を動力としたタンカーで海外から原油を輸入し、コンビナートで重油やナフサに精製し、ガソリンやポリエチレンのペレットにして各所に(ガソリンを使って)運び、家庭で出た生ゴミ(水)を(ガソリンを使って)収集して重油を使って燃やす。燃えた生ゴミはほとんど二酸化炭素と水蒸気になる。
このとき、重油の燃焼カロリーを少しでも補助できるようにポリエチレンのゴミや空のペットボトルを燃やすことは熱力学的にも理に適っていると思う。埋め立てて結局マイクロプラスチックになるくらいなら熱回収すべきだ。
ちなみに、生ゴミは別に燃やさなくても微生物の働きによってどのみち二酸化炭素と水に分解される。病原性細菌等の発生を抑制するためにわざわざ火で清めるわけだ。
そんなわけで、ポリエチレンのラップは燃やしても良い、という啓発文の存在は有意義な印刷だと思った。
ところが、、、
妻いわく「でも、その書き方だとダイオキシンが出るポリエチレン素材もあるって勘違いする人もいるんじゃない?」とのこと。
衝撃的な発見だった。
確かに…!!!
A:このフィルムは(燃やしても塩素系ガスやダイオキシンが出ない)ポリエチレン素材です。
なのか
B:このフィルムは燃やしても塩素系ガスやダイオキシンが出ない(ポリエチレン)素材です。
なのかは、読み手次第だということに気づかなかった。ポリエチレンには塩素が含まれていないので燃やしても問題ない、と知っている人はAの()を省略して読んでも意味が通じる。
「塩素で置換していないのか。ま、ペラペラだもんね。OK、オーケー。」
一方で、ポリエチレンが何か、塩素とダイオキシンの関係をよく知らない人が読めば、Bのように何か特別なことをして(あるいはしないで)特殊な性質を付与した素材なんだ、とも読める。
盲点である。
妻にとっては朝イチに一ボケかましておくか、くらいの一言だったかもしれないが、そのおかげでクラス標語の”人が嫌がることを率先して行いましょう”と同じくらい面白い言葉として輝き出した。
さらに、なぜこんな回りくどい書き方をしたのか・・・いや、せざるを得なかったのか?について考えてみた。
おそらく、ポリエチレンは熱可塑性樹脂の代表として再生可能なプラスチックであるという認識が強いのだろう(と仮定した)。すると、自治体によっては分別回収してリサイクルに回すこともあるのかもしれない。
ゆえに、軽々には「ポリエチレン素材の本製品は燃やすゴミに捨ててください」とは書きにくかったのではないか。
もちろん、同社の製品開発者としては、ポリエチレンの構造や性質は常識だと思っていて、ここまで書けば親切すぎるくらいだ、とまで思った可能性もある。が、その可能性は低いだろう。
おそらく、この製品を手に取ってくれた様々なお客様のために、様々なお客様の目線に立って、どんなお客様のとっても分かりやすい言葉は何か、どのように書けば伝わるだろうか、せっかく購入してくれた製品の使用後の瞬間まで(捨て方分からないなぁ…)と煩わしい時間を与えることがないように配慮に配慮を重ね、最初から最後まで気持ちよく使ってもらえることを目指して、この限られた文字数のなかにいろんな想いを詰め込んだ結果の言葉だと思う。
きっと、リリースに至るまでに何度もボツやダメ出しがあったに違いない。そんなドラマティックな背景を想像すると、この厚紙に印刷された言葉がとても尊く思えた。
添削ではないが、とっさに代替となりうる文句を2,3考えてみたがそれも野暮だと思った。
大切にしないといけない気がした。スマホを取り出し、この言葉を写真に収めた。
でも、さっさと食べ残した朝ご飯をラップして冷蔵庫に入れたいので、この厚紙は燃えるゴミに捨てた。
3連休でも朝は忙しい。予定はないけど、朝は忙しいもの、という刷り込みのせいで、わざわざ妄想してまで頭の中を忙しくしてしまった。
そんな朝を思い出す夜でした。