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随想録

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「知らない」ということは、世界でもっとも美しいものかもしれない。記憶を辿る、前置きのプロローグ。ファンタジー小説や映画のような、日常に隠れた断片を探そう。
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2022年4月の記事一覧

カバのおしり

カバのおしり

どうしても、カバを描きたかった。

こずえちゃんと歌いながら、歩いていた。

7歳の、春の遠足。

こずえちゃん、という鳥のさえずりのような名前の女の子は、まるで物語の主人公みたいにかわいらしい、大好きな親友だった。こずえちゃんは、とても明るくて、聡明で、かわいくて、前髪が短い。おかっぱがよく似合うし、声が高くて、歌が上手。朝のような、太陽のような子だった。

「一緒にうたおう」「行進ごっこしよう

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父の背中

父の背中

身体が大きく、陽気に酒を飲み続ける父の背中を眺めていた。父の特技は、お酒を飲むこと。飲んでも飲んでも、平気な顔でいつだって楽しそうだった。

父に「しあわせとは、なにか?」と質問すると、少し神妙な顔で考えたあとに「家族と友達がいて、健康に酒を飲むこと」と言った。拍子抜けしてしまったけども、しあわせの足るを知る。

小学校の頃「お父さんとお母さん、身近な大人の仕事の話を聞いて、将来の自分の仕事を考え

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