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-龍の子-

「カルマを浄化し、覚醒をしましょう。本当の貴方の人生が始まります。」
ソファに座った50代前後に見えるそのおばさんは目を閉じて両手を男の前にかざした。

龍の力でカルマを浄化させるというその男はクライアントのおばさんから過去の人生経験やトラウマ、旦那の愚痴からペットの様子など様々な事を聞いたあと「ヒーリングを始めた。

脇で見ていた小夏にはその2人が旦那と子供に相手にされない暇を持て余した中年の主婦と胡散臭い詐欺師の男にしか見えなかった。

しかし男が両手をがさしボソボソと何かを呟き続けると、黙って眼を閉じていたおばさんは次第にパワーストーンをじゃらじゃらと重ねづけた手を震わせながら涙を流した。
その様子を見ていた小夏は「何なんだこの人たちは。」とどこか呆れてた気持ちを抱いた。

男は普段その部屋でタトゥーの彫り師をしていたがある時龍からのお告げを受けたといい霊能者として活動を始めたという。

龍に呼ばれた男が龍神が祀られているという有名な神社に参拝していたところを雨に降られ、そばに居たおばさんが親切に男に傘を貸したらしい。

おばさんの小さな涙が号泣へと変わり、
男の呪文のような言葉が盛り上がりを見せてヒーリングは終了した。
おばさんはお礼金が入った茶封筒と温泉旅行のお土産を男に渡し、ぺちゃくちゃと一方的なおしゃべりをしながら帰っていった。

小夏は男の家で男の仕事の事務手伝いをするようになっていた。
親戚のバーの手伝いよりもよほど給料が良かったし初対面のあの日、男は小雨に濡れながら免許証をはじめ所持してる個人情報全てを小夏に急いで見せた。
傘を持たない小夏はとにかく寒くて仕方がなかったのだ。

それに何より小夏は好奇心が人より余計に旺盛で平坦な日常に飽き飽きしており暇を持て余していたため、この胡散臭過ぎる男をどこかで面白がっていた。

男が「疲れた〜」と言いながらソファに横になりおばさんからもらった茶封筒とお土産を硝子のテーブルに置いた。
男が「見て良いよ。」と顎で指しながら言ったので小夏は茶封筒の中身を確認した。10万円。安くない額だ。

「小夏ちゃんはSNS担当ね。ほら1番若いし。」
そう言いながら男はズボンのポケットからプライベート用のスマートフォンとは別のスマートフォンを出し小夏に渡した。

開いた画面には男のYouTubeアカウント。
チャンネル登録者3万人。アカウント名は「龍音の覚醒チャンネル」。

龍音(りゅうと)の部屋には小夏の他に2〜3人人間が出入りをしているらしい。しかし小夏はまだ他の人間と会った事はなかった。

「龍音さん。本当に"カルマの浄化"ってしてるんですか。」
小夏はスマフォの画面から目を離して龍音に尋ねた。
「どう思う?君自身"カルマ"は存在していると思う?」

さっき"気"を使い過ぎたからなあ、と言って
龍音は首をボキボキと鳴らしながら立ち上がり、硝子のテーブルの下からタロットカードを取り出した。

タロットカードをシャッフルし硝子のテーブルにカードを5枚並べ小さく何かを呟いた後、さらに5枚テーブルに並べた。
タロットカードの知識のない小夏にはカードがどんな意味を持つのか全く分からなかった。

「君のカルマを視て、守護からのメッセージを頂きます。」

龍音が左指をパチンと鳴らす。
そして鳴らした左指でカードを指し始めた。

「君は周りの人のために自分を抑圧して生きてきたんだね。誰かを守るために自分を犠牲にしてきた事がカードが示してくれている。それが君のカルマだ。
死神のカードと節制のカードも出ていて分かりやすい。君は近い将来再出発を図ることになる。」

龍音は疲れたから少し眠ると言い、部屋のクーラーの温度を少し下げた後アイマスクを付け1時間後に起こして、と小夏に囁きそのままソファに横になった。

小夏はぼぅっとした頭のまま硝子のテーブルに残されたタロットカードたちを眺めた。

不吉な絵柄の死神のカードが小夏を見つめていた。


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