松本くん
高校2年生の頃期末テストの前に松本くんが自殺した。
電車に飛び降りて亡くなったことは生徒たちの混乱を考えて期末テストが終わってしばらく経った後に伝えられた。
松本くんは同学年に4人しか居なかった文藝部の部員の1人で、毎日放課後部室でお互いに書き合った文章や小説をみんなでお菓子を食べながら読み合う仲だった。
仲が良い訳ではない。
それでも当時の私にとって彼はいつでも私の日常になんとなくいつもいる人だった。
眼鏡をかけボソボソと小さな声で話す人で松本くん以外の文藝部の部員はみんな女子だったため、教室では静かなくせに部室ではよく喋る女子たちに話しかけられては困った顔で笑っていた。
少し茶色い癖毛の髪の毛と笑いながら下がる太い眉毛を今も覚えている。
3.11の地震のとき、机の下で顔を見合わせて泣きそうになりながら私たち笑ってたよね。
生きてくる中で自死を選んだ人が何人か居た。
いつだってそれを知らされた感情に名前はつかない。
その初めてが松本くんだったから、私の心の中に居るもう身体のない友達の1人として松本くんはとても印象深い存在なのだ。
いつだって会おうと思えば会えるけれど普段心の中に居ない人と、もう会える事はないけれどふとしたときいつも思い出す人、
どちらが"一緒に居る"と言えるのだろう?
私は相対性理論を信じていて、5次元信者なので後者だと思っている。
身体がないだけで体温がないだけで3次元から干渉する事は出来ないけれど、あちら側で魂が感情がこちらをきっと包んでいるはずなのだ。
だから夢の中で逢えるんでしょう?
自死をリアルに考えた事がある人は独特の周波数なのか匂いなのか色気なのか、同族だからなのか解る"なにか"がある。
笑顔だとしてもその笑顔の下に他人に決して触らせない静かで冷たい場所があって、私たちは何となくそれらを感じ合ってしまうのだ。
私は同族を見つけたときにかける言葉をまだ知らない。
他人を本質的に救う事は出来ないということを大人になるにつれ痛いほど知りすぎてしまったからだ。
何を「幸せ」と思うかも違うということも。
こないだ「天使」という曲を書いた。
もう身体のない友達たちを思い出して書いた。
この世界で会った同族たちを思い浮かべて書いた。
いつかリリース出来たらと思う。
私の心の中の誰も触れない静かな場所が普段より一層冷えるとき、私も本当の天使になろうかなとなんて思う。
そうしないために地面から足を離さないために足に繋げたロープの先に小石を結ぶ様に、何かを産み出そうとする。
自分で自分に祈るかのように。
小石を結びながら「まだ早いよね」って自問自答を繰り返す。
だって松本くんが困った顔で笑ってるんだもん。