「夏と秋」マガジン 第1号
(2018年09月07日発行)
【創刊にあたって】
はじめまして。こうさき初夏と秋月祐一の夫婦による創作ユニット「夏と秋」と申します。ぼくたちは短歌と俳句を中心に活動しております。ふたりの短歌・俳句作品を、どこよりも早くお届けする場所として、マガジンを創刊いたします。ここでしか読めない内容──秋月祐一の日記、こうさき初夏の生き方相談相談など──を盛りだくさんでお送りいたします。どうぞお楽しみに。
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今回のマガジンは、
【秋月祐一の俳句「ぷるぱたと」】
【こうさき初夏の短歌「水槽のなか」】
【秋月祐一の短歌「回想・セックスはしない」】
【教えて秋月さん】
【カピバラ温泉日記】
という内容でお送りいたします。
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【秋月祐一の俳句】
ぷるぱたと 秋月祐一
はつなつの樹上生活ほーいほーい
風土記には恋する鰐の山滴る
かばの子の耳ぷるぱたと初プール
痛風ぢやなかつたみたい泥鰌汁
女子校だか男子校だかわからない
職やめる決意ぐらりと夜の蟻
蚊遣火の灰ぽと落ちて妻爆睡
(今回は夏の句です。詠みこんだ季語を掲載順に挙げると、
はつなつ、山滴る、プール、泥鰌汁、無季、蟻、蚊遣火になります。
ご鑑賞の一助となれば幸いです)
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【こうさき初夏の短歌】
水槽のなか こうさき初夏
かつて豚だつた足裏そこかしこ爪が空(くう)へと向かふシンクで
性欲のなかつた頃はどうやつて恋してたつけ ポンと抜く栓
母となら年の離れた姉妹だと思つてるから LINE 知らない
念仏と母の泣き声まざりあひいつか必ずわたしが喪主さ
実家なる場所へはけしてもどるまいもはやわたしは死んだ子なのだ
永遠に目覚めたくない起きたくないセミの幼虫ならばよかつた
見覚えのある割烹着まつ白の蝶結び二つやつぱり祖母だ
大泣きが先か目覚めが先なのか軽くなりゆくわたしの躯
メビウスの最後の一本吸ふときに墓のある方角へけむりを
たては3なら横は5の家系図よつまりわたしの産む数は1
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【秋月祐一の短歌】
回想・セックスはしない 秋月祐一
(本作品は、作者の意向により公開しておりません。ご了承ください)
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【教えて秋月さん】
短歌や俳句に関するさまざまな疑問に、秋月祐一がお答えしてゆくコーナーです。創作のきっかけやヒントとなることを願っております。質問者は歌人見習い、俳句初心者のこうさき初夏がつとめます。
〈こうさき初夏の質問〉
小学館の漫画雑誌である「ビッグコミックオリジナル」で『あかぼし俳句帖』を読んで以来、俳句にも興味を持ちました。身近な人の影響で、俳句を作ってみようと思い、歳時記をパラパラとめくっていますが、いまいちピンと来ません。その時の思考回路としては、
「へぇ、これが季語なんだ」
↓
「へぇ、この季語を使ったこんな例句があるんだ」
↓
「へぇ、………(以下、思考停止)」
というように、季語を知識にしたとしても、使える気がしてこないのです。
季語や歳時記とのつきあい方について、教えてください。
(短歌を作るのに歳時記を活用できないかという下心もあります)
〈秋月祐一の回答〉
歳時記を読んでも、例句が渋すぎて、面白みがよくわからない。そういう方は、結構いらっしゃるような気がします。じつは、俳人を名告っているぼくでも、そう思うことは多々あります。
どうすれば、季語や歳時記の面白さを知ることができるのか? すぐに活用できる裏技をお教えしましょう。
歳時記の例句の渋さや分かりづらさは、取り上げられている句が古典や近代中心で、現代のわたしたちの生活や感性と、距離ができてしまっているのも一因ではないでしょうか。
俳人でコピーライターのひらのこぼさんの『俳句発想法 歳時記』(草思社文庫)は、圧倒的に現代の例句が多く、俳句初心者にとって、親しみを持ちやすい歳時記かと思われます。
この歳時記は「今までなかった、作句に即役に立つ必携書」と帯のキャッチコピーにあるように、季語へのアプローチの仕方を紹介する、俳句の作り方指南の書でもあります。短歌を書く人が読んでも、大いに参考になると思います。
書店では、俳句のコーナーではなく、文庫のコーナーに置かれていることが多いので、手にとってみてくださいね。
さて、本のおすすめ以外にも、季語に親しんだり、俳句を味わうことができるようになる、いい方法があります。
それは、ずばり、俳句の実作をしてみることです!
……え、なんだか、むずかしそう?
そう言わずに、もうすこしだけ、おつきあいください。
自分で句を作るためには、必然的にさまざまな例句に目を通すことになります。ネットで例句を読むには「俳誌のサロン」や「575筆まか勢」というサイトが便利。とにかく例句の数が豊富です。
季語の使い方を工夫しながら、一句を仕上げてゆくたびに、季語への理解が深まってゆきます。
そして、これが何より重要なのですが、自分なりに季語についての感触が持てるようになると、同時に、他人の句が読めるようになってくるのです。
実作をすることと、他人の作品を読むこと。このふたつのあいだのフィードバックによって、すこしずつ上達してゆけるのが、短詩型文学の面白いところです。
ぼくもまた、日々そういう実践を行なっています。おたがいに、自分のペースで、俳句や短歌を楽しんでゆきましょうね。このメルマガで、短歌や俳句の読者投稿欄も企画しておりますので、そちらもどうぞお楽しみに。
〈今回ご紹介した本やサイト〉
ひらのこぼ『俳句発想法 歳時記』草思社文庫、2013-2014年(*春夏秋冬の四分冊)
「俳誌のサロン」
http://www.haisi.com/saijiki/suzumusi.htm
(「鈴虫2」で、拙句「鈴虫の鳴いてる書店わが町に」をご紹介いただいております)
「575筆まか勢」
https://fudemaka57.exblog.jp/26296532/
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【カピバラ温泉日記(秋月祐一の日記)
■8月19日(日)
[観劇]
チーム夜営 vol.6『上にまいります。』@ CLASKA。地球と月を結ぶ軌道エレベーターの待合ロビーで展開される作品です。客演の鶴田理紗さん目当てで観に行ったら、精緻に作りこまれた良作で、得をした気分。ギャラリーの空間を活かした演出や、チケットやパンフレットに至るまで計算し尽くしたアートワークも秀逸でした。
[読書]
西村曜『コンビニに生まれかわってしまっても』(書肆侃侃房・新鋭短歌シリーズ)より三首選。
きみのこともっとしにたい 青空の青そのものが神さまの誤字
母親に自慰を見られていたこともめぐりめぐっていま桜ばな
ねえ〈ムーミンごっこ〉をしよう雨の午後二人はだかになるだけでいい
■8月20日(月)
[校正]
夏休み明け。今日から校正者養成講座が再開。五十の手習い中です。老眼による見落としが多いような気がして、ハズキルーペを使ってみようと思い立ちました。赤いフレームの1.6倍のレンズ。明日から正解率が変化するかな?
[俳句]
夜、「船団」におくる夏の七句をまとめました。いろいろな配列を試した上で、破調あり、無季あり、の七句に決定。(注・今回のマガジンで先行公開する「ぷるぱたと」がその作品です)
[朗読]
短歌の朗読がしたいという初夏さん(そなさん。妻の名前です)に、参考図書として、「地点」の三浦基さんの演劇論集『おもしろければOKか?』をすすめてみました。
[読書]
田丸まひる『ピース降る』(書肆侃侃房・ユニヴェール)より三首選。
笑ってほしいだけだったんだ冬の雨スープはるさめ食べ比べして
ざらりおん金平糖を踏むような会話のざらりおん、ざらり、おん
オリオン座わたしがひとを産むときに燃え尽きていく夢を見させて
■8月21日(火)
[音楽]
大江千里さんの新譜『BOYS & GIRLS』があまりに良すぎて、他の音楽を聴く余裕がありません。千里さんがポップス時代の名曲を、ジャズのソロピアノでセルフカバーした意欲作です。千里さんのロマンティックな部分が、とてもよいかたちに結晶した感があります(9月5日に特典ディスク付きの国内版がリリースされる予定なので、ぜひ)
[林檎]
格安SIMへの移行にともなう、iPad miniの再設定がうまくいかず、表参道のアップルストアへ。15分ほどで問題解決。ありがとうございました。ついでに展示機に、初夏さんの似顔絵も描いてきましたよ。
[土偶]
麦茶を沸かすときに、南部鉄器のミニ遮光土偶を入れて、鉄分補給につとめています。
■8月22日(水)
[発見]
甘酒好きの初夏さんと、豆乳好きのぼく。これを甘酒の豆乳割りにすると、とても美味しいことが、最近のわが家のユリイカ!
[花火]
母からのメール。あさって24日に、ぼくの郷里で花火大会があるから、見にこないかとのお誘いでした。初夏さんが母と顔を合わせたのは、7月上旬の結婚報告のときだけなので、これは行かねばなるまい。
[校正]
縦組の文章の「引き合わせ」を勉強中です。引き合わせというのは、校正の第一段階で、原稿と初稿のちがいをチェックして、赤字を入れてゆく作業のこと。先生から「もっとゆっくりでいいから、一字ずつ指さしながら、字のちがいをよく確認するように」とのご指摘を受けました。さっそく実践して、今日の実習の正解率は、すこし上がったかも。
[読書]
短歌研究新人賞の発表号である「短歌研究」9月号を拾い読み。短歌研究新人賞は、工藤吉生さんと川谷ふじのさんのおふたり。おめでとうございます。個人的には、最終選考通過作の一編、椛沢知世さんの「手影絵の犬」が好みでした。
あたらしい眼鏡をすぐに傷つけて世界は紋白蝶のまたたき 椛沢知世
あらかじめ酔い止めを飲む新緑のひかりにすこし浮きあがる街
■8月23日(木)
[読書]
岸本葉子さんの『エッセイの書き方 読んでもらえる文章のコツ』(中公文庫)を読んでいます。エッセイでは、起承転結の「転」に作者の言いたいことを置くべし、など目からウロコのアドバイスが満載です。さっそく、月末締切の「船団」の原稿に、この手法を応用してみようと思います。
[校正]
火曜日から導入したハズキルーペが大活躍。あきらかに誤字の見落としが少なくなりました。宿題や自習用の課題がたくさん出て、追いついてゆくのが大変な日々ですが、励みとなるできごとでした。
■8月24日(金)
[温泉]
8月22日に書いた郷里の花火大会は、台風により順延となったため、実家へ行くことも延期。夕刻までかけて「船団」用のエッセーを書き上げ、夜に、初夏さんといっしょに、豊島園に併設された温泉「庭の湯」へ。汗をたっぷりかいてきました。帰宅後、本の買いすぎを初夏さんにたしなめられる。
■8月25日(土)
[観劇]
太田省吾脚本、越川道夫演出『午後の光』2018年8月24〜26日@西荻窪ビリヤード山崎2F。出演:足立智充、安藤真理、越川道夫、山田真歩。音楽:てんこまつり。老優と死んだ妻とのひとときの交情を描いた戯曲を、三十代の役者さんたちで上演する試みです。ツイッターに連続投稿した感想を、以下に転載します。
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太田省吾脚本・越川道夫演出の『午後の光』。昼の回を観てきました。同じ役者さんで、配役の変わる夜の回も観る予定です。一回の上演に観客20名ほどの贅沢な公演です。当日券も5枚ほど出るそうなので、お時間のある方はぜひ。
越川道夫さん演出の『午後の光』。西荻のビリヤード場の二階という、会場の選択がまず興味深かったです。日常とのテンポの違いから、観客が劇になじんでゆくまでに時間のかかる感じが、太田さんを彷彿とさせるものがありました(越川さんは、太田省吾の演出助手を務められたことのある方です)
ここでいう「時間のかかる」は、もちろん、ほめ言葉ですよ。
安藤真理さんが妻役を演じる回。こちらのバージョンにより心を動かされました(山田真歩さんが妻を演じるバージョンには、この世のものとは思えない、はかない美しさがあり、こちらも素敵でした)両方を観ることができて、とても深い体験となりました。
こちらは、夫婦役のふたりが、お互いの存在を確かめるように、からだにふれあうしぐさや、宇宙の底にいるような感覚、パトスが語源の「ペーソス」あふれる演技と演出など、太田作品に通じるものが満載でした。
これは余談ですが、安藤さんの台詞の言いまわしやリアクションの仕方が、ぼくの妻にそっくりで、とても驚きました。同じ戯曲の同じ台詞なのに、山田さんの回のときには、まったくそう感じなかったから、不思議です。
山田真歩さんが妻役を演じるバージョンは「遠さ」を、安藤真理さんが妻を演じるバージョンは「近さ」を感じたような気がします。夫婦のあいだの距離や、役者と観客のあいだの距離の部分で。どちらがいい悪いでなく、そのような違いがあったのではないかと。
音楽担当のてんこまつりさんもきわめて魅力的でした。舞台に出ずっぱりで、3人の役者さんに寄り添いながら、愛おしむようにマンドリンを弾いていらしたお姿。今後のご活動も追ってみたい、という気にさせられるものがありました。
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■8月26日(日)
[俳句]
一年ぶりに、句会「つうの会」に参加しました。東京にもどってきたのは、結婚するため、校正の勉強をするためですが、池田澄子さんと句座をともにすることも、大きな理由のひとつでした。句会終了後、行きつけの中華料理屋さんで打ち上げ。旧交を温めてきました。
■8月27日(月)
[弁当]
家計の節約のため、初夏さんが作ってくれた弁当を持参。おむすび2個、ウインナー、海老焼売。煮たまご。とてもおいしかったです。今日の校正実習は、寝不足のため、出来がよくありませんでした。大いに反省。
[音楽]
今宵のBGMは、谷山浩子さんの『水の中のライオン』(1984)
アルバムとしての完成度が高く、谷山さんの作品の中でもお気に入りの一枚です。このアルバムも30年以上、聴きつづけています。
[体重]
引越し後、ようやく体重計を見つけたので、わが家の愛猫、サビ猫くうちゃんの体重を計ってみたら、4kgでした。1歳の平均体重は3〜5kgだそうなので、とくに肥満というわけではなさそう(この体重の幅は、猫の種類や体格によるものと推測)それにしても、でかくなったもんだなあ。
[禁酒]
訳あって、半年ほど禁酒をすることにしました(歌会や句会の打ち上げはのぞく)個人情報かつなさけない理由なので、説明は割愛させていただきますが、ドクターストップではないので、どうかご心配なく。
[野帳]
ノートは、MDノート派ですが、かばんの軽量化のために、測量野帳を試用中です。3ミリの細かい方眼を“食わず嫌い”していましたが、実際に使ってみると、さほど気になるものではありませんでした。表紙が硬いから、立ったままメモを取れるのがいいですね。
■8月28日(火)
[校正]
現在の七つ道具。0.38mmの赤ペン。青鉛筆(青芯のシャーペン)。鉛筆(シャーペン)。定規。級数・ポイント表。『校正必携』。ハズキルーペ。アラフィフのぼくにとって、ハズキルーペは必需品です。
[読書]
27日に出た、角川書店『俳句歳時記 第五版 秋』を読んでいます。この版から加わった、季語の本意や用法に一歩踏みこんだ注が、興味深いです。実作者向けとでもいいましょうか。例句が渋めと感じるのは、ぼくの俳句界における立ち位置によるものなのかなあ。
■8月29日(水)
[無糖]
給料日の初夏さんに、牛カツをおごってもらいました。食後に、生タピオカ入りのドリンクも初体験。無糖のロイヤルミルクティーと、台湾黒糖味のタピオカを選びました。大粒のもっちもちで、おいしかったです。
■8月30日(木)
[咖喱]
夕刻。初夏さんと一緒に、ホームセンターで買い物をした後、ネパール料理屋さんで、カレーとタンドリーチキンとナンのセット。海老のバターカレーと、ほうれん草とマッシュルームのカレーをシェアしました。お酒を飲まない夕食が、なんだかふしぎな感じです。
■8月31日(金)
[縄文]
今日も初夏さんとおでかけ。上野の国立博物館で「縄文展」を見てきました。あれも知ってる、これも知っている、という名品ぞろい。国宝「縄文のビーナス」が、初夏さんに似ていたのが印象的でした。具体的に説明すると、初夏さんに叱られるので、どこが似ているのかは、ないしょないしょ。
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【編集後記】
初めまして、こうさき初夏です。発行人となっていますが、私自身は秋月祐一のマネージャーだと思っています。創作に関して二十年以上のキャリアを持つ秋月と共に新たな挑戦を行うため、日夜、議論を繰り広げてきました。作家としての秋月は呆れるほどにピュアです。「よい作品をつくること」しか考えていません。「よい作品」であることを追求し続けた結果生まれたマガジンです(夏)
創刊号につき、特大号でお送りいたしました。次号では、こうさき初夏の独自な韻律感が炸裂する、新作短歌をお届けする予定です(もちろん、ぼくの新作も載ります)どうぞご期待ください(秋)
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「夏と秋」マガジン 第1号
夏と秋:こうさき初夏・秋月祐一
発行人:こうさき初夏
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